第52話 お母さんの声

 ———マンションに着き、取り敢えず気持ちは落ち着いた。


 しかし、驚いた。お母さんがバンドのボーカルやってたなんて……と言う事は、私も幼い頃に一度正吾君と顔を合わせたことがあるかも知れないって事?


 お母さんがロックバンドのボーカル? そんな話し一度も聞いた事が無い。しかも正吾君のご両親、陽葵、大地君のお父さん達と? どんなバンド……いえ、お母さんはどんな歌い方をしてたんだろ?   私の知らないお母さん……知りたい……そう思っていると、正吾君はいつも私の気持ちを察して私が求めるより先に行動してくれる。


「丹菜、お母さんのライブ動画、探してみるか?」


 もう……好き♡ この人はいつもこうだ。私がこうしたいって思う時にいつもそうしてくれる。だから寄り添いたくなる。頼りたくなる。


「是非お願いします。お母さん自身の昔話ってあんまり聞いたことが無かったので……お母さんが居た世界に触れて、今、もっと知りたいって思っていたところでした。」


「それじゃあ……パソコンで……」


 私と正吾君は一台のパソコンの前で肩を並べて動画を検索している。


「親父達のバンド名……『LION Heart』……『ライオンハート』……『バンド LION Heart』……結構関連する名前の動画が多くて絞れないな」


「―――ライブハウス名とかで検索してみては?」


「なる程……それじゃあ手始めに『Seeker LION Heart』……お? 早速それっぽいのヒットした。これかな?」


 そこに映し出されたのは、画像が粗くて良く見えないけど、まだ若い頃の大吾さん、心花さん、少し確認しづらいけど大宮さんとマスター。そして、中央には……、


「―――お母さんだ……」


 私と正吾君は画面に流れる映像を黙って見ていた―――見入っていた。凄い……当時の映像はクオリティーが低くて画像も音声も少し荒いが、それでもお母さんの声の凄さは十分伝わってきた。


 ―――動画が終わった。

 他にもあるようだけど……お母さんの事を知るには今はこれ一つで十分だ。


「―――丹菜? 大丈夫?」


 正吾君が私の背中に手を当てて心配そうに聞いてきた。


「―――うん……お母さん凄かったんだね」


 私の「凄い」と言う言葉に、正吾君は違う感想をもったようだ。


「俺はこの画面の中の人、一瞬、丹菜だと思ったよ。そのくらい似てる。声とかは全然違うんだけど、迫力というか、覇気というか、声に乗ってる意志みたいなのが丹菜と全く同じだったよ」


「自分の動画見てても良く分かんないけど、私って歌ってるとあんな感じなんだね?」


「あんな感じ……いや、あ、殆ど同じだな」


「―――そっか……同じなんだ」


 なんだろう? お母さんと同じと言われ、こんなに嬉しいと思うなんて思わなかった。なんだか私の中にお母さんが生きているような気分になった。


「そう言えば、俺と丹菜、それから大地と陽葵、多分だけど子供の頃、一回会ったことあるぞ」


「え? そうなの?」


「マスターが言ってた。四歳の時、俺と大地と陽葵は会ったことがあるって。ただ、そのとき、もう一人、女の子が居たって言ってたんだよ。多分、それが丹菜だと思う。陽葵が4歳の時だろうから丹菜は五歳かな? その時に俺ら四人顔合わせてたんだよ」


「ホント? もしその『もう一人の女の子』が私なら、正吾君とこうしている事に、凄く運命感じちゃうんだけど……」


「―――実は俺もそれに気付いてから運命感じてる」


「あ♪ なんか小指に赤い糸見えるんだけど……」


「そうだな。俺にも見えるよ―――」


 私は正吾君に胸にもたれ掛かり今二人で居る幸せを噛み締めた。


 なんだか私達、そして陽葵達四人の運命に見えるけど、実は空君もこの運命に関わっていた……それが分かるのは……ふふふ。

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