前のエピソード――第42話　お暇

　———月曜日。

　今日から一週間、私は正吾君の部屋の出入りを禁止となった。

　朝起きて……いつもならこの時間、正吾君の部屋で朝食を作っているのだが、今日は自分の部屋で作ってる。調理道具は昨日のうちに部屋に持ってきているので料理については問題無い。

　朝食が出来上がり一人で食事をする。一人で囲う食卓が凄く寂しく感じた———。

“———ﾎﾟﾀ”

「（……え？　涙……。）」

　初日の朝にして既に限界が来ていた。

　そして登校……正吾君の部屋の玄関が開く音がした。いつもと同じ時間だ。私も玄関が開く音に合わせて部屋を出た。

「おはよう御座います」

「おはよ」

　彼の顔を見てホッとする。彼は笑顔で挨拶をしてくれたけど、私は笑顔で挨拶していただろうか？

　彼からは「一週間俺の世話をするな」と言われただけだ。会話するなとは言われていない。

　なので、エレベーター中という短い時間だけど私は正吾君とコミュニケーションを必死で取る。

「朝御飯食べました？」

「あぁ、パンと冷蔵庫にサラダ残ってたろ？　あれ頂いたよ」

「それなら良かったです」

　正吾君がちゃんと朝ごはんを食べていた事に安堵した。安堵して会話が終わってしまった……ちょっと落ち込んだ。

　因みに今日は彼にお弁当は作っていない。「お世話」に当たるからだ。いつもしていた事を禁止にされると、その人から突き放された気分になる。何だか凄く寂しくて悲しい気持ちだ。

　―――電車の中ではいつもどおり密着している。今日は彼に触れる「圧」を強めにしている。正吾成分をここでたっぷり充電しておかないと明日の朝まで触れる機会がない。そう考えただけで気がおかしくなりそうだ。

　―――学校に着いて、いつもどおり授業を受け、いつもどおりの昼休み。いつもどおり彼は何処かでお昼ご飯をを食べている。今日は学食かな？

　―――放課後。別々に学校を出る。正吾君は学校から直接バイトに行ってしまった。何時もの事だけど今日はなんだか寂しさを凄く感じる。

　そして私はいつもと同じように一人マンションへ帰る。今夜のおかずと明日の朝ごはん。それにお弁当の事を考えながらスーパーで買うものを考える。いつもと同じだが楽しく無い。メニューを考えた先に正吾君の姿が無いからだ。

　―――マンションに着く。気づくと正吾君の部屋の前に立っていた。いつもなら、正吾君の部屋に食材を置いてから自分の部屋に戻る。今は合鍵も返している。だから中に入る事は出来ない。

　私は肩を落として自分の部屋に入った。

　時間は午後6時。いつもこの時間は自分の部屋でやる事の第一弾が終わって、正吾君のベッドの中に潜り込んでいる。今日はそれが出来ない。正吾君のパンツの一つも持ってくれば良かったと後悔した。

　正吾君は「見えてくるものがある」と言っていたが、確かに見えてきた。私は御前正吾に依存している。「彼から告白される」とか、「『俺には葉倉丹菜が居ないとダメだ』と思われて対等」なんて考えてたけど、そんなのはもうどうでもいい。私が御前正吾を必要としている。同情なんて真っ平ごめん？　同情されてもいい。同情されてでも御前正吾と一緒にいたい。

　多分、私、このままだと一週間後、正吾君を包丁で刺してそうな気がする。

　そんな思考になった私は、自分の中のタガが外れてしまった。

「（———明日はバレンタイン……それなら……) 」