第44話 暴走少女
———今日はバレンタインデーだ。
朝、目が覚めて、スマホを手にした。彼を電話で起こす事もNGだ。仕方がないので彼の写真に「おはよう」を言う。
朝食……昨日と同じく一人で朝食をとる。今日は正吾君の写真を見ながら食べてみた……虚しくなるだけだった。そして昨日と同じく登校する。
玄関を出ると正吾君が立っていた。
「おはようござます」
「おはよう」
エレベーターが降り切るまでのわずかな時間の会話を楽しむ。
「昨日はお昼ご飯何処で食べたんですか?」
「食堂だよ」
「そうですか。お一人で食べてるんですか?」
「そうだな」
「今日も食堂ですか?」
「だな」
「分かりました。ありがとう御座います」
そしていつものように電車に乗る……今日は昨日以上に密着した。もうダメだ、抱きつきたくて仕方がない———取り敢えず匂いで我慢だ。
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「陽葵、おはよう御座います」
「おはよ丹菜」
陽葵、何だかニコニコしてる。何かいい事あったのかな?
「どうしたんですか?」
「もうね、隠すのやめたんだ」
「え? 大地……君……ですか?」
私がそう言うと、陽葵はクラス中に聞こえる声で話し始めた。
「そ、私、1-Dの大宮大地と付き合ってること内緒にしてたのやめたんだ♪」
その声を聞いたクラスの全員が一瞬金縛りになり、驚きの声が上がった。
「ええええぇぇぇ!」
「彼氏いたの?」
「マジかよ! 告る前に振られたー!」
どうやら、陽葵への告白が多くなって大地君が業を煮やしてオープンにしたそうだ。
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———そして昼休み。私は陽葵といつものようにお弁当を広げていた。
「丹菜はチョコどうするの?」
「渡しますよ」
「帰ってから?」
「いえ、今です。一週間部屋出禁になってるんで……これから渡そうかなって」
「え? 大丈夫なの? って、その前に出禁って何で?」
「出禁は一昨日の件です。私が色々やらかしたのは疲れてるからだろうから一週間俺に構うなって言われました。それに離れて見える事もあるだろうからって……」
「で、なんか見えた?」
「はい、私は『御前正吾が大好きだ』って気持ちは抑えちゃダメなんだって事がわかりました」
「ちょ……皆に聞こえてるよ」
「いいんです。もう隠しません。今日も正吾君、食堂でご飯食べてます。今からチョコ渡してきます。陽葵も一緒に行きますか?」
「え? あ、う・うん。ちょっと心配だから着いてく」
私の言葉に教室内は少し騒然となっていた。そんな状況を余所に私は陽葵と食堂へ向かった。
「それじゃあ行きましょう♪」
「ちょっと待って!」
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———廊下を移動していると、後ろが凄く騒がしい事に気付いた。振り向くと、凄い人の数が私の後ろを着いて来ていた。後で陽葵に聞いたら、私が告白するって事で人が人を呼び学校中の騒ぎになったらしい。
———食堂に着いて、私は周りを見渡す。正吾君の姿を探した。食堂はかなり広く、320席ある。そして席の三分の二は埋まっていた。
「(正吾君……、正吾君……———いた♡」)
正吾君と目が合った。彼は食堂の壁際に座り、一人で食事をとっていた。食事も終わりかけていたので、タイミングも大丈夫だ。
———私は正吾君の前に立った。着いて来た人は遠巻きに私達を見ている。
「に……葉倉さんどうした? って、何この人の数!」
「正吾君、『葉倉さん』って何ですか? いつも『丹菜』って呼んでくれるのに、なんで学校では『葉倉さん』なんて、よそよそしいんですか! 学校でもいつもように『丹菜』って呼んで下さい!」
少し大きめに声で正吾君に話掛けた。私の声が食堂に響く。私の言葉に少し騒ついているようだが、そんな事はお構いなしに私は話を続けた。
「正吾君、これ、私からのチョコレートです。一度しか言わないのでしっかり聞いてください!」
私は食堂にいる全員に聞こえるように大きな声で正吾君に自分の気持ちをぶつけた。
「私、葉倉丹菜は御前正吾の事が大好きです! 私といつも一緒にいて下さい!」
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