前のエピソード――第33話　メンバー

　私の名前は「芳賀愛花（はがまなか）」。最近気になる人が出来たんだけど、気が付いたら好きになってた。

　友達のツテで彼と毎朝一緒に登校する仲にはなったが「友達」かと言われるとまだちょっと微妙……。

　彼を紹介された時、「実はバンドをやっている」と本人から明かされた。しかもそのバンドのリーダーだと言う。正直驚いた。

　―――ある日、私はその好きな人からライブのチケットを貰った。ライブはクリスマスイブの日に行われる。

　そして私はライブ会場へ。待ち合わせの駅からバンドのメンバーでもある友達に連れられ、初めてライブハウスに入る。そして控室まで案内されると、意中の彼は準備も終わり寛いでいた。そして彼から更に衝撃的な事を告げられた。

　彼が所属するバンドは、実は今、学校内で騒がれているバンド、「ハイスペックス」だったのだ。

　私はバンドのメンバーが、自分の身近にいたクラスメイトが三人だと知り驚いた。

　そして、彼らがステージに上がる時間になった。

　私は今、フロアーの一番後ろでステージを見ている。

　会場にはお客さんが何人だろう。簡単に数える事が出来ないほどいた。

　私は一番後ろにいるが、人混みに紛れている感じにっなっている。彼は私の事を見つける事が出来るのだろうか？

　ハスペックスがステージに上がった。彼らが出てくるとフロアーから色んな声が聞こえてきた。

「やっとハイスペだよ」

「今日もニッピとノンノノの衣装可愛いね」

「いつも顔よく見えないんだよな」

「あれ？　今日、マイクスタンド一本多くね？」

　凄い。会場の皆、彼ら……私の友達を待ち望んでいた……なんか私が誇らしく感じてしまっている。しかも好きになった人がそのグループのリーダーって、カッコ良すぎでしょ。

　ステージに上がった皆は楽器と配線が繋がっている機械とかのツマミを回してたりしている。

　”♫♩——♬♫♪—♪—♬♩———……“

　キーボード……ノンノノが音を出し始めた。凄いな。軽く引いてるだけなんだろうけど、流れるような旋律……これだけで十分楽しめると思う程だ。

　”ドゥッ、チャ、ドゥッ、チャ、ドゥッ、チャ……♫“

　そしてキーボードのリズムを無視してドラムが鳴り始めた。

　一旦、キーボードは音を止め、そしてドラムのリズムに合わせて再び音を奏で出す。

“ボボッボ・ボ・ボボッボ・バッボン、ボボッボ・ボ・ボボッボ・バッボン……♩”

“ジャ、ジャジャ、ジャ♩—ジャ、ジャジャ、ジャ♬———

　今度はベースとギターから音が出た。

　十数秒……暫く静観していたボーカルのニッピが手をゆっくり大きく上げた……そして―――勢いよく振り下ろす！

　”———ﾋﾟﾀ！“

　それを合図に音が止まった。

　数秒……静寂な時間がほんの少し流れる―――。

　”———ドゥルドゥッ♬　ドゥルボッ♩　ボルドゥッ♩　ドゥンッ♫———“　ベースが鳴りだし一曲目が始まった。

「♫♪♬——♪♫♪—♩—♬♫♫———♩—……」

　前奏から繋がってニッピの声もスッと入ってくる。

　サビ、ギターソロ、キーボード、個人的な感想だが今日は何だか大人しい気がする。無難だ。いつもは一曲目、ソロ……間奏あたりで誰かが暴走している印象があったが今日は無難にまとめるようだ。

　尤も、この人達、普通に上手いんだけどね。って、皆、私の知る友達だったり、後ろの席の人だったりするんだよね？　そう思うと、凄さが今までの倍に感じてくる。

　・

　今日は一組三十分の時間を貰っているから五曲歌うって言ってたけど、早くも曲は四曲目に入った。

　私は、ハイスペックスのファンになったのはニッピとトゥエルブが加入してからだ。初ライブの映像でノンノノのソロを聴いて、体に電気が走った。なので二人（丹菜と正吾）が加入前の過去の曲は正直知らない。

　四曲目に流れた曲はラブソングだ。曲調は別にバラードとかではなく、メジャーコード中心のアップテンポな明るい曲だ。この曲が流れた時、フロアーからこの曲の事で話をしている人達がいた。

「お、久々じゃんこの曲」

「このメンバーで初だな」

「歌の途中で入るセリフ……ノンノノのあの呟きいいよな。一度でいいから直にノンノノに言われてみてー！」

「（へー、そんな曲なんだ）」

　私は歌詞をよく聴いてみた。

「いつも好きな人の隣を歩く。肩がコツンとぶつかれば弾けて離れるけどまた再び惹かれあう引力に……♩」

　なんか、私と空君の今みたいな曲だ。

　「———溢れる気持ちを彼女の耳元でそっと囁く♫」

―———ｼﾞｬﾝ！“演奏が止まった。

　―――シンと静まる会場。Skyが私の方向を指差して一言呟いた。

「———好きです。同じ気持ちなら右手を俺に」

「—————————！(え？)」

　今の一言、私に言ったの？

　曲はそのまま二番へ入ったようだ。

　今の一言に対して周りで色々話している。

「お、今回オリジナルか？　何時もは『彼』って言うところ『彼女』になってたな」

「いつもはここでノンノノの毎回違う甘～い一言入るんだけどな」

「男バージョンも中々セクシーだな」

「今度俺もやってみっかな？」

「まず、相手探そうや」

　今の一言がいつもと違う事は分かった。でも、アレは私に向けてのものなの？　そう言えばステージ上がる時、空君「俺の言葉聞いて」って言ってた。

「（———好きです。同じ気持ちなら右手を俺に……。）」

　私はその言葉を思い出し、その言葉をそのまま受け止めた。答えは「同じ気持ち」だ。そして言葉のとおり、右手を彼に見えるように高く上げ、さっきの言葉に応えた。

　そして再びセリフのパートへ……。

「———ありがとう。これからも宜しく！」

　その直後、間奏に入ったが———

　さっきまでと打って変わって、全員狂ったように音を走らせ始めた。しかも全員笑顔だ。

　一番暴れているのはSkyだ。ベースなのにリズム刻まずメロディー奏でてる。上手い！　ギター行けるんじゃない？　って位、トゥエルブに負けず劣らずの音がベースから生み出されている。気づくと、ギターが高音でリズムを刻んでベースの代わりをしている。音を通してSkyの喜びが直接私に入ってくる。観客も盛り上がっている。てか、いつまでソロやってんの？

　ニッピがいつかの時のように、甲高い声（ホイッスルボイス）で仲裁に入りソロを止めた。止めたけど、凄い笑顔だ。ノンノノも鍵盤を叩く指がここからみても軽い感じが伝わってくる。

　なんか祝福されてる気分だ。

　そして、予定していた五曲目は演奏する事なくステージを降りた。

　どうやら、四曲目のソロ…いや、間奏が長すぎたようだ。