全然バンドとか興味無いのに正体隠して生活してる隣の部屋のギタリストとカラオケ行ったらバンドのボーカルに誘われて私まで正体隠すようになった。

第33話 メンバー

　芳賀さん、髪を上げたトゥエルブ形態（モード）の正吾君を見て戸惑っている。

「———トゥエルブです。宜しく」

　正吾君はトゥエルブとして普通に挨拶をした。

「ども、初めまして。―――で、正吾君は？」

　芳賀さんは正吾君が気になるんだろう。どうでもいいような挨拶で返した。回りキョロキョロして正吾君を探している。

　トゥエルブと名乗った男は芳賀さんに気付かれないよう、すかさずカチューシャを外して、再び挨拶をした。

「———芳賀さんこんにちは」

「ん？　あれ？」

　芳賀さん、目をパチパチさせて目の前の現象を頭の中で整理しているようだ。

「ふふふ。正吾君何ふざけてるんですか。芳賀さん混乱してますよ」

「———すまん」

　正吾君はそう言って再びカチューシャで髪を上げた。

「———なあんだ、正吾君だったんだ。正吾君ってメチャクチャカッコよかったんだね―――って、ん―――？　あれ？　さっきトゥエルブって……あれ？　正吾君……トゥエルブ……トゥエルブってハイスペ……じゃなくて、え？　ハイスペックス？　なんで？　はぁ？　ちょっとまって！　ハイスペックスって……え？　そうなの？」

　みんなニコニコしている。芳賀さんを歓迎している笑みだ。

　空君が改めて芳賀さんに紹介した。

「俺達が『ハイスペックス』です。改めて、宜しく」

「―――うそ……それじゃあ、あの声って……」

「私です。ハイスペックスボーカルの『nIPPi（ニッピ）』こと『葉倉丹菜』で―す」

　私は立ち上がり足を広げて左手を腰に当て、右手は目元で横ピースした。ウィンク♡

「それじゃあ、あのメチャクチャ攻撃的なキーボードが……」

「私がキーボード担当『ノンノノ』こと『希乃陽葵』でーす」

　陽葵も私に合わせて立ち上がって横ピースをしている。顔は真顔だ。

「―――ギターの『トゥエルブ』こと『御前正吾』でーす」

　続けて正吾君も私と同じリアクションだ。ただ座ったまま顔は明後日の方を向いている。

　ポージングでキメる流れになったらしい、大地君も座って同じポーズだ。

「ドラムの『Dai×2（ダイダイ）』こと『大宮大地』でーす」

　そして、最後に、

「ハイスペックスリーダー、ベースの『Sky』こと『小堀空』でーす」

　空君も同じポーズだ。真剣な目で芳賀さんを見ている。凛々しい。

「うそ……ハイスペックスって……マジ？　……じゃあ、あの文化祭の時のあれも、あんた達だったの？」

　皆ニコニコしながら無言で頷く。

　芳賀さんは両手を口に押さえて「信じられない」って顔をしている。なんか、目がうるうるさせて、何故かノンノノ（陽葵）を見ているけど……。

「ヤバい。私メッチャファンなんだけど……ノンノノ……あとでサインして♡」

「私なんか―――い！」

「だって、文化祭で生で見た時の、ノンノノの狂気的なあの演奏っぷりが凄く格好良くて……」

　私、歌ってるときあんまり回り見ないから分からないけど、ノンノノってそんなに狂気的って思われるような感じでキーボード弾いてるの？

「芳賀さん、ゴメン。私達サインなんて準備してないよ」

　陽葵がそう言うと、みんな頷いた。

　・

　・

　・

　”———コンコンコン“

　雑談のあと、私の発声練習を軽くしているとドアがノックされた。

「時間でーす。準備お願いしまーす」

　スタッフさんが呼びにきた。

「それじゃあ、ここから一人になりますけど、大丈夫ですか？」

「ありがとう。後ろの方で楽しませてもらうよ」

　すると、空君からも一言。

「四曲目、俺の言葉、ちゃんと聞いてて」

「———四曲目だね？　分かった。頑張ってね」

　空君は後ろ向きで芳賀さんに見えるように小さくガッツポーズをしてステージへ向かった。

　私達四人も空君の後ろを着いて行った。まるで空君がリーダーである事を誇示しているかのように……。