全然バンドとか興味無いのに正体隠して生活してる隣の部屋のギタリストとカラオケ行ったらバンドのボーカルに誘われて私まで正体隠すようになった。

第5話 私がボーカル？

「―――あの……私の歌、そんなに酷かったですか？」

　私は皆の表情に、かなりの不安を覚えた―――。

　皆、それぞれに顔を見ては頷いている。何か納得しているような感じだ。

　そして、不安とは裏腹に予想しなかった言葉が希乃さんから返ってきた。

「葉倉さん……お願いがあるんだけど……」

「―――なん……ですか？」

　怖い……なんだろう？　皆、目が真剣だ。

「私達のバンドのボーカル……やってくれない？」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ！　……おほん」

　思わず、らしくない声を発してしまった。

「―――私がボーカルですか」

　皆の目を一人一人見ていく……私と目が合えば皆頷いた。

「―――私でいいんですか？」

「葉倉さん以外じゃ多分無理だ」

「寧ろ俺達が付いていけるか……」

「確かに。ちょっと限界超えないと難しいかも」

「葉倉さんがその辺のバンドと組んだら、確実に『バンド殺し』の異名が付くよ」

　なんか、凄く高い評価を頂いたようで光栄だけど、私がバンドのボーカルって……しかも、初めて所属するバンドが凄腕集団の一員っていうのがちょっと怖じ気づいてしまうんだけど……困った……どうしたらいいんだろう？

　そんな時、トゥエルブさんがアドバイスをくれた。

「まずは、今、自分が歌った時の気持ちを思い出して。葉倉さんが歌っている表情、端から見てても凄く気持ちよさそうだったよ」

　確かに今までに無い高揚感があった。そして満足感。ハッキリ言って「イッちゃった」ってやつだ。

　あの感覚を、この人達のサウンドで体感したらどうなっちゃうんだろ。

　―――そう思ったら、身体の底から震えが来た。

　―――武者震いだ。

「―――分りました。ボーカル、やってみたいと思います」

　そう言うと、皆の表情が一気に明るくなった。

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　この後、時間いっぱいまで皆で思いっきり歌って解散した。トゥエルブさんは、バイトがあると言って、途中で別の方向へ歩いて行った。

　明日一度、みんなで会って音合わせしようって事で、大宮さんの家に集合になったんだけど、大宮さんの家は楽器店をやってるらしく、店の二階が練習場（スタジオ）になっているとの事だ。

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　私は今、自分の部屋でベッドに横になって、今日の出来事を思い返していた。

　今日は、怒濤の一日だった……っていうより、世界観が180度ひっくり返った感じだ。

　トゥエルブさんに会ってみたくて、行動した事が始まりだったんだけど―――。

　―――まずはライブハウスだ。思ってたような場所……と言うより、会場に来ていた人がイメージしていた人達と全然違っていた。

　勿論、イメージ通りの人もいたけど、逆に少ないことに驚いた。

　そして、トゥエルブさんだ。

　実際会ってみた第一印象は、純粋に「カッコいい」だった。結構、私ってミーハーなのかな？　会いたいって思ってる時点で多分そうなんだろう。

　驚いたのは自分の行動力だ。私って意外とストーカーの気質あるんじゃない？　———ちょっと気をつけよ。

　それから、彼の纏っている空気みたいなのも、凄く優しくて柔らかい感じで印象よかった。あの人絶対お年寄りが横断歩道渡る時にオンブしてくれる人だと思う。うん。

　そして、トゥエルブさんの演奏……いや、ハイスペックスの演奏は凄かった。「バンド」の完成形の一つを見せて貰った感じだ。あのバンドに私の声が入る……邪魔しないかな？　あれだけの実力を持った人達が「私の声が欲しい」って言ってくれてるんだ。自身を持たなきゃだね。うん。

　―――そして打ち上げに誘われて……初めてそういう誘いに乗ってみたけど、皆、放課後とかってこんな感じの付き合いしてるんだ……。

　そしてカラオケで……いや、全力で歌う事があんなに気持ちいいものだって全然知らなかったよ。

　なんで今までカラオケに行かなかったんだろうって絶賛後悔中だ。

　そして、始めて男の子とLa･INのID交換をした。しかも三人だ。

　一番の収穫はトゥエルブさんのIDをゲットした事だ。聞けば、彼のIDを知っているのは、店のオーナーとご両親だけらしい。

　トゥエルブさんって友達いないんだろうか？

　そう言えば、トゥエルブさん、あの後バイトあるって別れちゃったけど、何処でバイトしてるんだろ？

　―――ん？　―――あれ？

　さっきからトゥエルブさんの事ばっかり考えてる？

　”ピコン”

　―――ん？　メッセージ……誰からだろ？

「希乃さんだ……えっと、［明日、この曲やるからメロディーだけでも覚えてね］――か」

　MY TUBEのアドレスが三つ添付されていた。聴いてみたら、今日演奏した曲が流れてきた。

　改めて聞くと、ホント良い曲ばかりだ。

　”ピコン”

　また希乃さんからメッセージだ。

［それじゃおやすみー ♪］

　私からも返信した。

［曲、ありがと。おやすみなさい ♪］

　―――そっか！　トゥエルブさんのIDゲットしたんだ。私からメッセージ送っても別にいいよね？

　そう言えば、明日はトゥエルブさんと大宮さんの家に行くんだった。

　待ち合わせの時間と場所を確認するメッセージ送れば……自然だ。

「―――よし」

［明日、午後1時にステンドグラス前で待ってます］

「……これでいいよね。―――送信！っと」

　　　　　　　　　　　「ﾇｵｯ!」

　ん？なんか、隣の部屋から変な声が聞こえたような気が―――“ピコン”

　早い。返信が来た。

［おっけー］

「結構端的ですね。疲れてるのかな？　あの後、バイトに行ったみたいだしね。だったら―――」

［今日は有り難うございました。明日も宜しくお願いします。おやすみなさい♡］

「『♡』はだめだ。『♡』の安売りはしちゃいけないって、誰かが言ってた。…………よし……、メッセージを送った」

　　　　　　　　　　　「ﾄﾞﾜｯ!」

　―――また隣から声が聞こえたような……。　

　”ピコン”

　―――早いな。

［おやすみ。明日もよろしけ］

　やった ♪　返信が来た。なんか、最後の文字が……慌てたのかな？　結構あわてんぼさんみたいだ。

　今気が付いたけど、私からメッセージ送信するって、初めての事じゃない？

　返信も早かったし、なんかこう言うのって嬉しいね。

　やばい、眠れそうに無い。早く寝ないと―――。

　明日も長い一日になりそうだ―――。