第4話 カラオケ
フロアーは結構人が多い。100人はいるだろうか?お客さんを見ると、みんな様々な格好をしている。
明らかに「ロックが好きです」って人もいれば、「あなた、オタク?」って感じの人。……偏見の目で見ちゃダメだね。あと「普通の子」、「ロリロリした感じの子」。それとサラリーマンかな?スーツ姿の人もいる。まだ、日中だよ。仕事はどうしたの?
様相だけで判断すると、かなり幅が広い人種がいる。
正直、今まで私は、この「ライブハウス」っていうイメージと場所に偏見を持っていたようだ。
見た目だけでの判断だけど、ここまでバラエティーに富んだ人が集まっているとは思わなかった。
———ハイスペックスの四人がステージに出て来た。
「おい、トゥエルブがいるぞ!」
「マジかよ! ラッキーじゃん!」
「って、最近、ハイスペの助っ人やったろ」
会場がざわつく中、ステージ上でセッティングが終わった小堀君が話し始めた。
「―――みなさんこんにちは。ハイスペックス、リーダーの
小堀空…「空」だから「Sky」か。安直だけどいいね。
小堀さんの言葉に会場のざわつきは全く収まる気配が無かった。
「まず、ボーカルのミヤジ―ですが、残念ながら音楽の方向性が違うと言う事で、脱退してしまいました。なので今日は僕が歌います」
会場からはちょっと落胆の声が聞こえた。
「そして、嬉しいお知らせですが、―――なんと!このライブハウスではボーカル殺しの異名を持つ、トゥエルブが、我がハイスペックスのメンバーとして、正式に加入する事になりました――――――!」
”ドデデトシャ――――――ン…”
小堀さんの一言に大宮さんがドラムを合わせて叩いた。
トゥエルブさんは小さく手を挙げて観客に挨拶をしている。
「おおおおおおぉぉぉぉぉ――――――!」
「マジかよ!」
「どうやって口説いたんだ!」
小堀さんは、観客の声を無視してそのまま曲名を口にした。
「では曲行きます。『大きなクリの木の下は』」
―――ん? 今の曲名なの? 童謡のパクリ? 一瞬コミックバンドかな? って思ったけど、曲が始まってみれば、メチャクチャカッコいい曲だ。タイトルと曲がここまで合っていないのも凄いけど、歌詞もそれなりに素敵だ。作詞してるの誰?
一曲終わると「大きなクリの木の下は」というタイトルがこの曲にはぴったりだと思ってしまっている自分がいた。
二曲目、三曲目と曲が流れるが、四人の演奏レベルがとんでもない。リコーダーとかカスタネット程度にしか楽器に触れたことが無い私ですら、四人のレベルの高さが良く分る。
あとはボーカルだけだね。
この次に出てくるバンド、やりにくくなりそう。
・
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ハイスペックスのライブが終わり、皆ステージ袖に下がった。
私も控え室へ向かった———。
———控え室の扉を開けると
「いえぇぇぇぇぇ—————い! “パン”」
「お疲れぇぇぇぇ——————! “パン”」
———皆ハイタッチを交わしていた。
希乃さんが私にもハイタッチをして来たので、私も思わず手を出した。
「お疲れ様でした。凄く良かったです」
「ありがと。―――そうだ!葉倉さんこの後時間ある?」
私の休日は正直無限に時間がある。用があるとすれば、スーパーへ買い物に行くくらいだろう。
「時間は全然ありますけど。どうしました?」
「この後、打ち上げとトゥエルブ加入の歓迎会兼ねてカラオケ行くんだけど一緒にどう?」
時間はまだ午後四時前だ。普段の私であれば断っているところなんだけど———私は思わずトゥエルブさんを見た。
「私、カラオケって行った事なくて……」
するとトゥエルブさんも、
「マジ? 実は俺も行った事ないんだよ」
すると希乃さんが、
「マジ? だったら葉倉さんも一緒に行こう。寧ろ一緒に行こう」
半ば強引に誘われたが、初めて同士がいると、なんか心強いので私も行く事にした。
今日は初めての事だらけで凄い一日になっている。なんか、世界が色づいたような気分だ。
・
・
・
カラオケボックスに着いた。
道中、希乃さんは大宮さんの腕にしがみ付いて歩いていた。———彼氏か……いいな。
受付をして案内された番号の部屋へ向かった。
私とトゥエルブさんはキョロキョロしている。
「なんか、二人の挙動が一緒。ウケるー」
後ろから希乃さんが揶揄って来た。
私はトゥエルブさんを見た。トゥエルブさんも私を見ている。なんか顔が赤くなってる。
部屋に入ると、そこにはテーブルとソファーがあって奥の人が部屋を出る時、手前の人はその場を退けないと移動できない程の狭い部屋だった。
「結構狭いんですね」
私は室内をくまなく見回した。
「どこもこんなもんだよ。ちょっと広いと、ステージっぽい台があったりするけどね」
みんな席に着いた。
大宮さんと希乃さんが一緒に座っている。
対面には私を真ん中にトゥエルブさんと小堀さんの三人で座っている。
普通、こういう時って女子と男子に分かれて座ると思うんだけど……トェルブさんの隣だし、ま、いっか。
男子三人はテーブルの上のメニューを見ている。
「飲み物何いい? 食べたいもの有れば自由に頼んでいいよ。今日は奢るよ」
「え? それはダメですよ。今日はしっかり私の分のお金は徴収して下さい———飲み物はオレンジジュースでお願いします」
“ジャ——————ン”
スピーカーから突然音が出た。
いつの間にか曲を入れていたようだ。
最初にマイクを握ったのは大宮さんだ。
大宮さんは軽快に歌い始めたが———
『—-ー〜-〜-----♪」
正直に言うと、豪快に音痴だ。彼の歌でお金を取っちゃダメだ。
トゥエルブさんは呆気に取られた顔をしている。
彼女の希乃さんは爆笑している。
次にマイクを持ったのは希乃さんだ。
「〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♫」
なんだろう? 聖歌隊が歌うような歌い方だ。裏声で歌っている。全然ロックじゃ無い。
でも、この声って……
「バックコーラスにいい声だな」
トゥエルブさんが一言。なるほど。確かにいい感じの声だ。
次にさっきステージで歌声を聞いた小堀さん。三人の中では一番ロックな感じだ。決して上手いわけでは無いが、抑揚というか、声の特徴と言うかが、良く聞く「ロック」な感じだ。彼がボーカルやったのは納得だ。でも、「ハイスペックスとしての」ボーカルとしては落第点だ。
そして、トゥエルブさんだ。
「ーーーーーーー♪ーーーー♫」
普通だ。ただのカラオケだ。ギターがあれだけ上手いからどれだけ歌が凄いのかって期待したが、至って普通だった。「特徴がないのが特徴」ってくらい特徴なく普通だった。
そして私の番が来た。
邦楽はあまり詳しく無いから、よくテレビとかで流れる最近流行りの曲を入れた。
「♫♩♬♪———♫♫♩♪———」
ライブに充てられたのか、学校とかで歌うのと違って、周りに合わせる必要も無い。なので、自分で出せる全力を出して歌ってみた。
「♫♩♬♪———♫♫♩♪———」
気兼ねなく全力で歌うって凄く気持ちいい。
サビに入って、音階が上がった。
「♬♪♩♫―――♫♫♩♪―――」
―――気持ちいい! なんか、頭の天辺から「ピ——————ン!」って何かが出ている感覚だ。久々に「満足感」で満たされた。
「ふ———」
歌い終わって天井を仰ぎ余韻に浸った。
———最高だ!
「(———あれ? なんか皆静かだな。)」
皆が静かな事に気が付き、ゆっくり目を下ろすと皆唖然とした顔をしていた。
私の歌ってそんなに酷かった?
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