第3話 ライブハウス
―――約束の日になった。
今日は、
私は駅ビルのステンドグラス前で待っている。駅ビルの中央には、一カ所、大きなステンドグラスがある。この街の人達は、ここを待ち合わせ場所に使う事が多い。通称「ステンドグラス前」だ。
ステンドグラスは、建物の外からも中からも見えるので、普通は雨風凌いで中で待つのが一般的である。
今日の目的は、トゥエルブさんの演奏を聴く事だけど、出来ればお話もしてみたい―――ん?今まで、私が誰かとお話したいなんて思った事あっただろうか? 多分無い。
なんだか落ち着かない感じだ。
「葉倉さんおまたせー」
「希乃さん、こんにちは」
希乃さんが来た。今日は学校とは違って、オシャレに決めてる。全体的に「カッコいい」印象だ。
足下は厚底でヒールが少し高めの黒いローブーツ。ちょっと短めのスカートにジャケット。髪型はストレートだ。全体の色合いはグレーと黒かな?差し色にオレンジが入っている。一言で言うとサブカル系なコーデだ。
「じゃ、行こうか」
「はい。宜しくお願いします」
・
・
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二十分程歩き、目的地に着いた。
途中、ナンパされるという初体験をしたが、希乃さんが手慣れた感じで追い払ってくれた。
「ここだよ。トゥエルブは毎週土曜日来てるから今日も絶対居ると思うよ。ただ、今日演奏するかは分んないけどね」
「有り難うございます。なんだかドキドキします」
地下にある扉の向こうから、”ドゥフッ、ドゥフッ……”と、重低音が漏れている。中はどれだけの音量なんだろう?
希乃さんが扉を開けると、丁度誰かがライブ中のようで、フロアは盛り上がっていた。
しかし、かなりの音量だ。「ちょっと音大き過ぎるな」って感じるレベルの二段階上の音量だ。ただ、音が良いせいか、あまり不快に感じないから不思議だ。
私は、お金を払って中に入った。
希乃さんはPASSのようなカードをお店の人に見せると、一言二言言葉を交わしている。どうやら、私を控え室に入れて良いか確認しているようだ。
私は希乃さんに案内されるまま、中に入って行き、扉の前に立った。扉には「Dressing Room②」と書かれている。そう書かれている部屋が他に三つあった。どうやらここが所謂「楽屋」ってやつのようだ。
希乃さんは扉をノックすると中から「あいよー」と、男の人の声が聞こえた。
希乃さんが扉を開けると、男の人が3人椅子に腰掛けていた。
部屋の真ん中にはテーブルがあって、その上には封の開いたペットボトルが人数分置いてあった。
「ちわっ」
希乃さんはそう言って、小さく手を上げて挨拶をした。
「やっと来たか、待ってたよ」
「あれ?ミヤジーは?」
そう聞くと希乃さんは、部屋の中をキョロキョロする。
「辞めちゃった」
「やっぱダメだったか……」
そんな会話を横目に、私は一人の男性に目が釘付けになっていた。
私の目線の先には、あの「トゥエルブ」さんがギターを抱えて座っていた。私は生のトゥエルブさんに感動して……思わず希乃さんに、
「―――あのー…」
私は希乃さんの袖をちょんちょんと引っ張って、皆を紹介してと促した。
「あ、ゴメンゴメン。えーっと、今日は友達連れてきたんだ」
「知ってるよ、こんにちは葉倉さん。しかし意外だね。まさかこんなところに来るなんて」
「え、あ。こんにちは。―――ちょっと興味がありまして……」
トゥエルブさん以外の二人は、私の事を知っているようだ。どうやら同じ学校らしい。トゥエルブさんは私を見て目が点になっていた。ジッと私を見ている。
「トゥエルブは知らないか。この子、学校一美少女と言われている葉倉丹菜さん」
「学校一の美少女は言い過ぎだと思いますが、葉倉丹菜と言います。宜しくお願いします」
私は頭を下げて挨拶をした。そして希乃さんは、淡々とメンバーを紹介してくれた。
「で、こっちのスティック持ってタカタカその辺叩いてるのが、私の彼氏の大宮大地ね」
「宜しく!」
そう言いながら、スティックをクルクル回した。なんだかドラマーっぽい……ってドラマーか。
「で、ベースの小堀空ね」
「小堀です。一応、リーダーやってます宜しく」
彼は、肩に掛けてるベースを鳴らして挨拶をした。ベースの音は乾いた音がした。
「で、謎の男、トゥエルブ」
「え、あ、トゥエルブです」
彼は慌てたように挨拶をしてくれた。
動画で見るよりかなりのイケメンだ。体格は少し細めかな? 肌の色も正直不健康そうな感じだけど……ちゃんとご飯食べてるんだろうか? でも初めてだ。男の人にドキドキするの。多分、あの演奏あってのドキドキだとは思うけど……。
「で、ミヤジ―の替わりだけど、誰か居るの?」
「居ない」
「また、俺歌うしか無いのか……辛い」
小堀さんは項垂れている。どうやら、小堀さんがベースを弾きながら歌うようだ。
「でも、一つ、嬉しい知らせがあるんだよ」
大宮さんがそう言うと、小堀が顔を上げて、凄い笑顔で勢いよく話し始めた。
「トゥエルブ、ウチのバンドに入りたいって」
「うそ! マジ? ―――『入りたい』って、トゥエルブからの申し出なの?」
希乃さんがそう言うと、トゥエルブさんが改めてお願いしてきた。
「是非、俺からお願いしたいよ。あんな演奏体験しちゃったら、もう、他では弾けないよ」
「やった———! 凄く嬉しいよ。うちのバンド、ボーカルとギターが定着しなくて困ってたんだ」
「俺も『ハイスペックスに殺された』って言われないように頑張るよ」
”―――コンコンコン”
ノックされた扉は、中を覗かないような配慮をみせた感じで小さく開いた。
「ハイスペックスの皆さんそろそろ準備お願いします」
「はーい」
希乃さんがテンション高く返事をした。「ハイスペックス」とは、彼らのバンド名のようだ。
「そう言えば、今日からステージ立って大丈夫なのか?」
「大丈夫。早速だけど今日からお願いできるか? 楽曲はこの前と同じだから」
「分った。それじゃあ、宜しく」
希乃さんが思い出したようにトゥエルブにお願いしてきた。
「そうだ! 今日の演奏は動画アップはちょっと勘弁ね」
「え? なんで?」
「私、あんまり身バレしたくないの。次回は、それなりに身バレしない格好で来るから」
「そう言う事なら分ったよ。俺も似たようなもんだしな」
「あんた、思いっきり顔出してるじゃん」
「はは。―――まぁ、そうだけどさ」
トゥエルブさんは、苦笑いしながら頭を掻いている。
「葉倉さん、客席の方に行ってて。今日は三曲演奏したら終わりだから。一人にしちゃうけどゴメンね」
「大丈夫です。頑張って下さい」
皆は、ステージへ移動した。
私は、フロアの一番後ろに立った。
間も無く彼らのライブ———トゥエルブさんの演奏が始まる。初めてだ。音楽に対してこんなにワクワクするのは。
———いや、ドキドキかな?
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