第2話 バンド
―――次の日。
私は学校に着くなり、早速、
「おはようございます」
「葉倉さんおはよう」
「希乃さんにちょっと聞きたい事があるんですけど……」
私は、周りに聞こえないように、小さな声で希乃さんに訪ねた。
「希乃さんって……バンドやってるんですか?」
「――――――!」
希乃さんは、慌てた顔をして私を廊下に連れ出した。
「葉倉さん、なんで知ってるの?」
希乃さんは、周りに誰も居ないか、話しを聞かれていないか、キョロキョロ警戒している。
「昨日、La・INで MY TUBEにアップされてるトゥエルブチャンネルの動画が届いたんですけど、夢中になって見てたら、結局全部観ちゃって……で、最後の動画に希乃さんらしい人がキーボードを弾いてたので、もしかしてと思って……」
「あー、やっぱ気付かれちゃったか。だから動画配信はダメだって言ったのにな……」
「あれってやっぱり希乃さんなんですね?」
「うん……恥ずかしながら……」
「カッコいいですね。希乃さんのイメージからは全然、バンドとか縁がなさそうに見えたんですけど……」
希乃陽葵さんは、身長は155㎝あるのかな? 小柄な子だ。いつも髪型は、肩甲骨まで伸びた黒髪を後ろで一つにまとめる程度にしていて、制服も着崩す事無く折り目正しく着込んでいる。今の見た目からは「ロック」とか「バンド」な雰囲気は一切感じない可愛らしい女の子だ。
動画でみた彼女は、髪の毛もアップにして、服装もカッコよくて結構「ロック」な様相だった。
「私の彼氏……ドラムやってて、私もピアノやってるもんだから、誘われて……ちょっとね」
「へぇ、彼氏いたんですね」
「あ! 内緒だった」
「あは。今の、聞かなかった事にします」
「ありがと。出来ればバンドの事も聞かなかった事にして欲しいかな?」
「わかりました。でも、出来れば今度ライブハウスに連れてって頂けると嬉しいです。私、行ったことないので、一人で行くのはちょっとハードルが高いかなって……」
「その位ならいいよ。でも、葉倉さんこそ、ライブハウスとか無縁のような気がするんだけど」
「正直、私自身そう思います。音楽そのものは好きなので良く聴くんですが、『バンド』ってそんなに興味ないですし、『インディーズ』になると尚更……ですね」
「じゃあ、どうして?」
「―――多分、トゥエルブさんに興味が湧いたんだと思います」
「意外。葉倉さんって結構ミーハーだったんだ。っていうか、難攻不落って言われた葉倉さんのハートが動いた事にビックリだよ」
「別に難攻不落って訳じゃないですよ。私だって興味が湧けばそれなりに行動……すると思います。でも、どうなんでしょう? あの音聴いたら誰でも気になるんじゃ無いですか?」
「確かにトゥエルブのギターって凄いからね」
「そういう、希乃さんのバンドも皆凄かったです。最後に聴いたのは幸いでした。あれを最初に聴いてたら、他のバンドの演奏は苦痛にしかなりませんでした」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
「希乃さんは、トゥエルブさんとお話とかするんですか?」
「普通にするね」
「彼って、何者なんですか?」
「それが、誰も知らないんだよ。本名は……店のオーナーは知ってるらしいけど……」
「そうなんですか……。なんか、カッコいいですね」
「実際、イケメンだからね」
”―――キーン、コーン、カーン、コーン……”
「―――あ、HR始まるね。席戻ろう」
「そうですね。後で色々教えて下さい」
・
・
・
学校も終わり、私の家であるマンションに帰ってきた。
私は一人暮らしをしている。親は居ない。小学5年生の時に両親は事故で死んだのだ。
両親が死んだ後、私は親戚の家で過ごした。叔父さんと叔母さんは凄く優しく接してくれて、二歳年上の従姉妹のお姉さんも、私を妹……と言うよりは、友達のように接してくれて毎日が楽しかった。
ただ、その優しさが逆に私の心に刺さってしまったのだ。
「申し訳無い」と。
中学最後の冬休み、何となく宝くじを買ってみた。一枚だけ。
なんと、その宝くじが当たったのだ。
「一等8億円」。
当然皆には内緒の話だ。
そして、換金の時、叔父さんに連れられて銀行に行ったんだけど、叔父さんは「この子があの店で一人で買いました」「この子と私は戸籍上、血縁者ではありません」と証言した。つまり、この宝くじのお金の一切は全て私の物だと宣言したのである。
宝くじってそう言うものらしく、二人でお金を出し合って買ったと言えば、二人のお金になるらしい。
戸籍が一緒だと、離縁の際は配偶者に均等に分配されるとか。
因みに、私一人が受け取ったこのお金を叔父さんに半分渡すと、億単位の税金を持って行かれるので、それは受け取れないと言っていた。
私は、中学を卒業すると、このお金で一人暮らしを始めた。叔父さんも叔母さんも、私の心情が分っていたのか、引き留める事はせず、逆に色々アドバイスをしてくれた。決して追い出そうという事では無いのは今までの事からも十分わかっている。
従姉妹のお姉さんは、一人暮らしになる私を凄く羨ましがっていた。そして、生活に慣れたら、一人暮らしのノウハウを教えて欲しいと言ってきた。ちょっと嬉しかった。
お姉さんは、今日までに二回ほどマンションに遊びに来た事がある。―――何故か、毎回寿司を買ってくるのは謎だ。―――手土産に寿司を買ってくる女子高生って……。
叔父さんは、いつでも帰って来い。困った事があったら気軽に尋ねなさいと言ってくれている。その言葉に甘えて、夏休み、一週間程お泊まりしに伺ったが、以前と変わらない振る舞いでホッとした。
私も一人暮らしで培った自慢の料理を振舞ってみた。叔父さんは美味しいって泣きながら食べてくれた。
そうそう、夏休みの不在だった一週間の間に、マンションの隣の部屋に男の子が一人引っ越してきていた。「
私と同じ「一人暮らし」と言っていたが……どういう理由かは分らない。彼は、クラスではいつも一人でいる。本を読んでいるか寝ているか。顔も前髪で隠れてよく分らない。謎な男の子だ。
彼と学校では……私が日直の時にノートを回収するか、彼が日直の時にノートを回収されるか……くらいの接点しか無い。マンションの通路ですれ違う時は「うす」と小声で挨拶してくる事くらいだろうか? 勿論、私は元気に「こんにちは」「おはよう御座います」と挨拶している。
———第2話目にして、まだ、ラブコメ展開になっていない……もう少し待ってて。もう少しでラブコメ展開に……第18話目でなる……多分。
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