全然バンドとか興味無いのに正体隠して生活してる隣の部屋のギタリストとカラオケ行ったらバンドのボーカルに誘われて私まで正体隠すようになった。

にもの

第1話 ギタリスト

 学校の外では誰とも関わらない私だったが、一本の動画がキッカケで、取り巻く世界がガラッと変わった。

 世界が変わったと言っても、今流行りの異世界転生とかでは無いよ。


 カラオケにも行った事が無い私が、ある日突然、動画配信サイトで注目を集めている、インディーズでは有名な正体不明のバンドのボーカルとしてステージに立つなんて誰が想像しただろう。


 このお話は、そんな話しをネタにした「身バレに気をつけて系ラブコメディー」なよくある物語だ。


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 ——— まずは『私』の自己紹介だけど、私の名前は「葉倉丹菜はくらにな」。

 周りからは美少女とか天使とか言われている。

 正直やめて欲しいと思っている。

 私の周りに人は沢山集まってくるけど、正直「友達」と呼べる子がいない。


 私が思っていないだけで、相手は「友達」と思っているかもしれない。

 まぁ、私自身が周りの子に対して当たり障りの無い人付き合いを普段から心掛けているからね。


 女の子からの「お昼ご飯一緒に食べよう」なんてお誘いは必ず笑顔でOKしている。

 成績もいいから「ここ教えて」って聞かれもする。

 兎に角学校の中では愛想良く、人当たり良く接する事を心掛けている。


 でも、放課後の遊びの誘いは———諸事情あって全て丁寧にお断りしている。

 当然だけど男の子からの誘いはどんな内容でも全てNGだ。


 La・INでの連絡も女の子達とは日常的に取り合っている。私から連絡する事は無いけどね。当然だけど男子にLa・INのIDは教えていない。



 ———そんな高校生活を送っていたら、いつの間にか皆から「姫」とか「天使」とか「女神」なんて言われるようになった———その呼び方は勘弁願いたいんだけど……。


 どうやら私は「この学校で一番の美少女」として扱われているようだ。どうりで月に数回、告白イベントが発生しているなって思ってた。告白に対しては、毎回丁寧にお断りさせて貰ってた。


「———ごめんなさい。あなたの事よく知らないし……———え?ID?……御免なさい。私、そのアプリ入れてないの(嘘)。———お友達からですか(下心が見えてちょっとキモいな)……男の人との関わり方って良く分かんなくて……御免なさい」


 ズバッ! と断れば良いんだろうけど、自分で色々面倒にしてるね。私って外面がいいんだな。

 

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 ———高校一年、季節が秋に変わり始めた頃、家で寛いでいたらLa・INのグループメッセージで動画サイト「MY TUBE」のURLが一つ送信されて来た。


 その動画をタップすると、ライブハウスで演奏する一組のバンドの動画が流れ始めた。


「———何? バンド? インディーズって奴……かな?」


 La・INに書かれている内容を読むと、最近話題の動画らしいんだけど、そもそも私は「ロックバンド」に興味が無い。ましてや「インディーズ」となると、尚の事興味は無い。


 音楽そのものは結構好きで、よく聴くんだけどね。


 誰にも言った事は無いんだけど、音楽は洋楽を好んでよく聴いている。ジャンルとしてはポップスを中心に———ダンスが出来るような曲が多いかな? ロックも聴かなく無い程度には聴く。


 一番好きなミュージシャンは「PLINCE」だ。

 普通のミュージシャンって一つの音楽ジャンルでしか活動しないけど、PLINCEには依代としている音楽のジャンルが無い。前回ポップスな曲を出したと思ったら、今回はヒップホップだったり、ロックだったり……でも数年前、自宅のエレベーターの中でお亡くなりになってたとかで、既にこの世の人では無いのが残念である。



 送信されて来た動画を最後まで観た。一通り動画を観た率直な感想は「凄い! でも惜しい」だ。


 何が凄いってギターが凄い。

 私はギターのテクニックとか弾き方とか全然分からない。ハッキリ言わずともド素人だ———でも、この人のギターはド素人の私ですら「凄い」と思わせるがあった。何が凄いかはド素人なので何とも表現できないのが悔しい。


 そして「惜しい」のは、ギターのが目立ち過ぎてボーカルが全く目立っていないのだ。目立つ以前にボーカルの声が「耳に入って来ない」。


「他に動画は……ありました。———ん? さっきとメンバーが違いますね」


 私は、無意識に関連する動画を探していた。動画が投稿されているチャンネルには「トゥエルブチャンネル」と書かれている。説明書きを読むと、どうやらこのギタリストが「トゥエルブ」さんらしい。

 

 このトゥエルブさん、前髪をカチューシャで上げているんだけど、顔は結構イケメンだ。如何にも「バンドマン」な様相だけど、それが強調されている訳でもない。


 トゥエルブさんは、色んなバンドの助っ人でギターを弾いてるようだ。だから、さっきとメンバーが違っていたわけだ。


 そして、夢中になって動画を見ていたら、結構時間が経っていた。———結局、トゥエルブチャンネルの動画を全て見てしまっていた。


「……これで最後ですか。———ん?」


 最後の一本は、さっきまでのバンドと違って少し違和感を覚えた。


「———メンバー……若い?」


 トゥエルブさんもそうなんだけど、このバンドのメンバー全員が私と同い年位に見え———ん?


「———あれ? この子……うちのクラスの子です」


 最後に見た動画で、キーボードを弾いている女の子がいた。ステージの光が強くて画像が白飛びしてよく見えなかったけど、普段から私によく話しかけてくる「希乃陽葵ののひまり」さんで間違いないと思う。


 彼女との会話で、一度も「音楽」の話は出た事がない。もしかして秘密にしているんだろうか?


 しかし、希乃さんが「バンド」って全然イメージ出来ないんだけど……明日こっそり聞いてみよう。

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