第3話 俺は君に嘘をつく
その後、俺はメイベルのお義父さんから一番難航すると予想していた婚約をすんなりと認めてもらった。数日後、親しい人達だけでささやかな祝宴を行った。
世界すら全て白に染め上げるよう純白の花嫁衣裳のメイベルは美しい姿をしていた。この日のことは一生忘れないだろう。
※
賑やかな宴も終わり、その深夜。
メイベルを自室で休ませ、俺は彼女の父の部屋をノックした。
「どうした」
低い声でお義父さんは言う、鼻の下の髭がよく似合う貫禄のある人だ。
「彼女と旅に出ようと思います」
「そうか」
「驚かないんですか」
「あの子の死期が迫り、お前の告白を受け婚約をすると言った。甲斐性が無いお前なら、どちらも傷付かないように今までの関係を維持するだろ。その選択をしないということは、何かあるということだ」
「嫌われていたかと思ってましたけど、俺の事よく見てるんですね」
「煮え切らぬお前のせいで、散々縁談を断られてきたからな。当然嫌いにもなる。だが娘の幸福を一番に考えるのは親の務めだろ。……で、どういう考えだ」
ここまで娘のことを考えている親は知らない。それとも、世間の親はみんなここまで子供のことを愛せるものだろうか。
苦笑する俺に鼻を鳴らしたお義父さんは、ソファにどっかり腰かけた。テーブルを囲む形で向かい合うようになっているソファに俺も座る。
「魔術を使い、娘さんの病気を治します」
お義父さんは露骨に表情を曇らせた。
「魔術を知らぬ若造め……。魔術は無から有を生み出す力ではない。どんな小さな魔術にも代償を求められるのだぞ」
「魔術師に弟子入りして魔術を教えてもらいました。これでも魔術師です」
目を見開いたお義父さんは困惑しているようだった。
「馬鹿な真似を……。取られたのは金だけか? あの悪魔のような魔術師共なら他の代償も請求されただろ」
「いいえ、幸いにも両親の知り合いの魔術師だったんで金目の物以外は取られませんでした。無一文にはなりましたけど」
「無茶をする……。それで、お前の望む魔術はみつけられたか」
「この国には、魔術王が死の直前に遺した魔術遺物が存在します。魔術王は二十四個に遺体を分け、それを各地に隠しました。その内、最低三つの魔術王の遺体を集めたら、一時的に魔術王を復活させ望みを叶えてくれるそうです。死者の蘇生すら可能としていた魔術王なら、メイベルの病を治すことも難しくありません。……集めるほど効果は強くなるそうですが、病を治すだけなら三個あればいいと俺の師匠は言ってました」
苦虫を嚙み潰したような顔をしたお義父さんは頭を抱えるようにして両手を組んだ。
「それが真実だという証明はあるのか」
「両親が過去に魔術王の遺体を見つけています。根拠はそれだけですが、両親が遺してくれた希望を信じさせてください」
両親は事故に合った俺を救う為に魔術王の遺体を探し、俺を救ったことを師匠から聞いたのだ。事実、両親の魔術王に関する資料もみつかった。
壁に掛かった時計の針の音を大きく感じ始めた頃、お義父さんは重たい息を吐きだすと口を開いた。
「許可する、娘はお前と共に歩む事を望んだ。それを止める資格はない」
心情はかなり複雑なはずだが、怒鳴られることもなく済んだのは僥倖だ。
礼を言い、退室しようとする俺に声をかけた。
「魔術師は嘘をつく、忘れるなよ」
魔術を習う際に代償の話の次に学ぶ言葉だった。異能の力でありながら使用者が人間であることにより生まれた戒めの言葉だった。
※
魔術王の死体を集め、メイベルの病気を治療する為の旅も兼ねていることを説明した。
人生最初で最後の新婚旅行が過去の偉人の死体探しだと知ったメイベルはかなり落胆した様子だった。
「頼む、最初で最後の旅行にしたくないんだ」
我ながら、最近ようやく素直になった俺の真っすぐな発言に、気を良くしたらしい非常に嬉しそうな表情に変わる。
「ア、アリスタが、そこまで言うなら仕方ないねっ。えへへぇ」
心配になるチョロさだが、これも彼女の魅力だ。
それから二人旅には多すぎるほどの路銀をお義父さんからいただき、俺達は旅に出た――。
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