第5話
人は夢を見る。寝ても覚めても夢の中で足掻く獣が人間という者だ。
あの頃の僕は悪夢を食べていた。無邪気に何も考えずに食べていた。それが正しい事だと思っていた。
いつきもそうだったろう。僕の唯一人の友人の彼は人を吊るして吊るして吊るし続けていた。
あの時の僕達は覚めない夢の中にいたのだ。何も考えずただ本能のままに貪り喰い続けられたあの楽園は、本物の化け物に破壊された。
なぜあそこが壊されたのか。それは化け物に聞かされた。
なぜあそこから僕は逃げてしまったのか。それはわからない。
何処であろうと僕らは変わらないと思っていた。たとえそこが地獄であろうとも。いつきの手を取り逃げ出せば何処であろうとも。
しかし、あの日から僕は悪夢を見ている。今まで食べた悪夢が腹の底から溢れ出して、僕に現実を突き付けてきた。あの化け物から真実を聞かされたからだ。
知りたくはなかった。知らなければ良かった。まさか自分が他の人間と大差ない生き物だったとは。悪夢を食べられた人間達が行っていた所業など知りたくもなかった。
今、僕は逃げている。あいつを誘っている。あの組織から派遣された二人組の一人、火車冬司を蔵に誘い込むためだ。
あそこには、侵入者撃退用の罠がある。油断させて不意をつけば、罪人殺しの火車といえども殺せるはずだ。
不意をつく。相手を騙すのは僕の十八番だ。相手に都合の良い夢を見せて誘い出す。火車の相方の月神に化けていつも通りにやれば良いだろう。いや、いつきがいないか。それでも蔵にある刃物で突き刺せば殺せるだろう。
果実に出来ないのは残念だ。それでも悪夢から開放してやるのだから感謝してほしい。
さて、準備をするか。奴を仕留めてこの土地を去る。僕はまだいつきとこの地獄を楽しみたいのだ。捕まるつもりはない。
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