第2話

 月神とは生まれた頃から一緒だったと思う。思う、というのは俺達の生まれは定かでは無いからだ。今は無き怪異研究所の実験施設。それが俺と月神の育った場所だ。

 そこで俺達は隣同士の檻で飼われていた。足に鉄の鎖をつけられて実験の時以外は繋がれたまま過ごしていた。後から月神に聞いた話では、同じ様に一人一部屋檻に入れられた何十人もの子供達がいて、日々実験が行われていたらしい。

 俺はとにかく生き物を殺すことを強要された。最初はうさぎだった。逃げまどうそれを捕まえて首の骨を折った。ガギッと嫌な音が手の平から伝わってきた。そして、うさぎの首にナイフを刺した。

 次は犬だった。その次は鹿であった。そして、同じ実験体を手に掛けた。

 奴は他の動物と同じように抵抗した。かまいたちを使う怪異であった。俺は切り刻まれた。数メートル離れた所にいたそいつが風を操って攻撃してきたのだ。

 俺は刀を握っていた。それだけしか武器はない。頬が裂け血が吹き出す。構わず目の前の敵に向かって走り出した。

 脚が切られる。思わず転けそうになった。腕が切られる。それでも刀は離さなかった。刀を振り上げそいつを斬った。かまいたちごと袈裟斬りにした。

 頸動脈が切れたのか、血が噴水のように噴き出した。床に血の華が咲いていた。

 それから、何人も殺し続けた。数えるのも辞めた頃、月神が俺の前に現れた。

 いつも通り刀で斬った。皮膚は裂け血は噴き出すが、月神は死ぬことはなかった。また、月神が現れた。俺はまた斬った。胴一線。切り口から小腸が飛び出ていた。俺はそれに構わず月神を蹴り倒し、喉元を刀で突き刺した。

 しかし、それでも月神は死ななかった。そんな無意味な実験を繰り返していたためだろうか。俺は失敗作の烙印を押された。処分を通告するために入ってきた職員を殺して独居房に入れられた。そして、しばらくした後、怪異研究所は破壊された。

 実験体の何人かが暴走したらしい。どうでも良いと、俺は寝ていた。不貞腐れていた。月神も動かなかった。

「何でお前は逃げないんだ?」

「火車が逃げないから」

 これが月神と初めて交わした会話だった。壊され穴が空いた屋根から覗く月が綺麗な夜であった。

 こいつは気持ち悪いな、と思いながら月を眺めていた。




 




 

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