10話

「空いていてよかったわね、これなら泳げるわ」

「だな」


 ただ暑い、とにかく露出している部分がやばい。

 玲亜が言っているように泳いでしまえばいいのだが、なんとなく歩いていたいという謎のプライドがあった。

 いや、実を言うと水に顔をつけるのが怖いのだ。


「こうして浮かんでおくこともできるのよ」

「すごいな、昔に一度だけ挑戦してみたことがあったけどすぐに沈んだぞ」

「体の力を抜けばいけるわよ」

「沈んで怖い思いを味わったからやめておくわ……」


 あとは特になにもないだろうが無防備に浮いているだけの玲亜を守らなければならないから遊んでいる場合ではない。

 だが本当に暑い、何度も言われて日焼け止めを塗っているが今日は酷いことになりそうだった。


「今日、将太や朔夜ちゃんが来られなくて残念だった?」

「いや? あっちはあっちで仲良くしてもらわないと困るからな」


 あ、まあ、たまにはそういうことを意識せずに四人で楽しむというのもありだったかもしれない。

 でも、残念だとか物足りないなどと考える自分が一切存在していないのだ。

 勢いだけではなくちゃんとこうして付き合ってくれている彼女がいてくれているからこうなっている。


「そういえば将太と付き合って楽しそうにしている朔夜ちゃんが魅力的だから早く付き合いなおしてくれ~なんて言っていたわよね」

「事実だからな」

「私はあんたと付き合って変わった?」

「いや? 玲亜さんは寧ろ肉食系じゃなくなったよ」

「え、自分で聞いておいて言うのはおかしいけどあんまり変わっていないと思うわ」


 いやない、その点については本当にな。

 あくまで健全なカップルとなっている、やっても手を繋いで歩いたり人がいないところで抱きしめる程度だ。

 落ち着くから俺的にはそれでいいものの、彼女的には少し違うみたいだが。


「あ、だけどちょっと我慢をしているところはあるわね、私も学習をして次に活かせる人間なのよ」

「別に我慢なんてしなくていいぞ」

「んー年上の私が自分の欲求に従ってしたいことをしすぎるというのも駄目でしょ、なによりその私を直視することになるのが嫌だわ」

「そうか、だけど俺が相手なら遠慮とかいらないからな」


 休憩時間がきたから水から離れる。

 特に腹が減っていたりはしないから日陰で休憩していたら今度は冷えた、人間というか俺は弱い。


「これでどう?」

「熱いけど大丈夫か?」

「大丈夫よ」

「なら答えるけど、手は温かいよ」


 ただ落ち着く、効果は高かった。


「手だけでも温かいなら大丈夫ね、休憩時間が終わったらまた楽しむわよ」

「ああ、今度は玲亜の真似をして泳いでみるよ」

「はは、それがいいわ、プールなら泳いでこそ楽しいのよっ」

「そうだな」


 このことも玲亜とのことも力を抜いて楽しもうと決めた。

 彼女の笑みは太陽と同じぐらい眩しかった。

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144作品目 Nora @rianora_

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