03話
「なあ朔夜、俺達が見ておく必要はあるのか?」
「だってそのまま好きになられても困るもん、助けてもらえたら好きになっちゃうかもしれないでしょ?」
そういうことで異性のことを好きになるのであればもう現時点でやられているという話だった、朔夜だけが将太と関わり続けてきたというわけではないのだからそういうことになる。
しかし、将太が協力をしてくれることになったのに朝陽は暗いままだ。
「それは朔夜だけだと――」
「しっ、相手の子が来たよ」
イケメンすぎるというわけでもないがそれなりに身長が高くて顔も整っている男子がやって来た、引っかかっているのはある特定の女子が好きな男子だからこそかもな。
それこそ彼女にはあれを朝陽に言ってやってほしいぐらいだ、好きになったのなら周りは関係ない、積極的になれ、とな。
「んー結構格好いい子だと思うけど朝陽ちゃん的には駄目なのかな?」
「分からない、でも、告白をされて逃げたことは確かだ」
どこで告白をしたのかは知らないが、あの男子ももうちょっと場所のことを考えるだけで逃げられずに済んだわけだ。
「それよりもこのいい匂いは……あ、朝からだ」
「いい匂い? あ、チョコなら持っているぞ」
甘い食べ物が好きだから学校でなにかあった際に頼れるように買って持っている。
相手が興味を持った際にあげるためでもある、が、将太は好まないからほぼ全てと言っていいほど、
「チョコちょうだい」
「あいよ」
こうして朔夜に持っていかれる。
まあ、当然と言えば当然で、将太がなしとなると朔夜しか友達がいないからだ。
「ん、甘くて美味しい」
「もういいのか?」
先程から全く見ていない、完全に気にならないというわけではないだろうが残るつもりはなさそうだった。
「うん、それに仮に好きになっても将太は魅力的で仕方がないから」
「そうか、ならどこかに行くか?」
「それなら朝のお家に行くよ」
「おう」
ただ、歩き出して少ししてから後ろからタックルをされて足を止めることになった。
「なんで最後まで見ていてくれないの」
「俺が考えたことじゃないからな……じゃなくて、気づいていたのか」
「近くにお兄ちゃんがいるならすぐに分かるよ」
それはまたなんとも……無駄な能力だとしか言いようがない、でも、こうなってしまえば別行動をする必要なんかはないから一緒に帰ることに。
ちなみに将太の奴は役目を終えたら俺達とは違う方向に歩いて行ってしまったみたいだ、朔夜センサーはないみたいだった。
「や、やっぱり将くんのところに行ってきてもいい?」
「いいぞ、また明日な」
「今日はありがとう、また明日ね!」
ここまで露骨な差があれば期待なんかできるわけがないよなぁ。
昔からずっとそうだった、吐いたことはないが羨ましく感じたことや少しだけ憎く感じたこともある。
先程までみたいに確かに物理的には手の届く範囲にいるのに届かない。
「ちゃんと断ったよ」
「よく頑張ったな」
「将太さんが近くにいてくれるだけで勇気が出たの」
「おう」
同性の俺の場合でも似たようなものだからかなりのものだ、もうそういう商品として発売を、なんてな。
ああして相手のために時間を使える人間は素晴らしい。
「でもね、本当ならお兄ちゃんにいてもらいたかった」
「それなら言ってくれれば付いて行くぐらいはしたけどな」
そういう関連なら経験者の将太を、そうなっただけで直接頼まれていたらいまも言ったように付いて行った。
だが、将太だからこそできることが多すぎるということで妹的にはこれでよかったと思う。
なにより頼まれてもいないのに出しゃばれなんかはしない、あの二人に対して余計なことをしようとしていた俺がいうのもなんだがそういうことになる。
「えっ」
「上手いことは言ってやれないがいてやることぐらいはできる、でも、朝陽は頼んでこなかっただろ?」
「えぇ、ちゃんと言えばよかった、将太さんにだって迷惑をかけちゃったし……」
「はは、将太的には頼ってもらえて嬉しかっただろうけどな」
妹のためなら動くさ、強気に行動をしてみせる。
シスコンだからとかではなくて年上として、兄として動いてやりたいだけだ。
仲良くなって将太がなんらかの件で困っていたら先輩だって動くはずだ。
「着いたな」
「ちょっと疲れたからお菓子を食べる」
「はは、疲れていなくても食べるだろ?」
「た、食べないよ、そこまで欲に流されて生きていないもん」
嘘だ、いつも〇〇だからと食べているのを見られているのによく言えたな。
そんなところで嘘をついても意味はないし、食べたいなら食べればいいのだ。
あ、それで〇〇グラム太ったなどと言わなければもっといい、体重を気にするなら食べない方がいいな。
「今度、お礼をしなきゃ」
「ご飯を作れるんだから食べてもらうとかどうだ? それか菓子とか」
「そういう系は朔夜さんが不安になっちゃうと思うから避けたいかな、だからなにかを買わせてもらうとかがいいかも」
似たようなものだ、それと気にする必要はない。
将太は一途な奴だから朔夜だけを見ている、そのため、心配はいらなかった。
「雨だね」
「傘は持ってきていますか?」
「うん、持ってきているよ、もう六月で梅雨だからね」
偉い、ちなみに俺は朝に降っていなかったため持ってこなかった形となる、そのためこうして昇降口で突っ立っていたというわけだ。
もう濡れるしか選択肢がないのに濡れたくないという考えがあって動けないでいる、もしかしたらこの後、一瞬だけでも晴れるかもしれないと期待しているのもあった。
「じゃ、帰ろうか――って、もしかして傘がないの?」
「ありません」
「それなら入りなよ」
「いいんですか? それなら入らせてもらいます」
身長は一応こちらの方が高いから持たせてもらうことにした、結構大きな傘だからいちいち傾けたりなんかしなくても十分だ。
助かったぜ、過去に濡れて風邪を引いた際に酷いことになったから絶対に避けたかったのだ。
「加登君この後って暇? 暇なら家に来てよ」
「それなら行きます」
先輩に誘われようと結局は将太の家だからな、なにも気にならない。
「加登君ってなんでも受け入れるようにしているの? それとも、異性からのお願いならなんでも聞いちゃうのかな?」
「断る必要がないのもありますし、基本的には断れないんですよ」
同性とか異性とか全く関係ない、俺は情けないというそれだけで終わる。
でも、ありがとうと言ってもらえるとやはり違うからそんなに悪いことだとも考えてはいなかった、どんな見方をしようと付き合っていなかなければならないというのも大きいが。
「へえ、そういう子なんだ」
「火森先輩ははっきり無理なら無理と言えそうですね」
「私だったらちゃんと言うかな、相手が彼氏でも我慢はしなかったよ」
「遠距離恋愛じゃ駄目だったんですか?」
「嫌だよそれじゃあ、好きな相手とは毎日必ず顔を見られなきゃ我慢をできないの」
だからって好きな相手と別れることになるのはそれ以上に嫌だと思うが。
「それにわがままを言って相手を困らせてしまったら駄目でしょ? そもそも私が耐えられないから別れ話に持っていったんだよ」
「そういうものなんですね」
「加登君も付き合ってみれば分かるよ、その状態で物理的な距離ができたらどうなるかをね」
嫌味かよ……。
自分から始めたことだがこれ以上は傷つくばかりなのでやめておいた。
目的の場所に着いたのもある、救世主である将太はいないものの、なんとか上手くやらないとな。
「あれ、そういえばこの家は部屋数に余裕がなかったんじゃ……」
一応二階に二部屋はあっても客間なんかはない。
「そう、だから将太の部屋で寝ているよ」
「それは不味いんじゃ……」
「でも、余裕がないんだから仕方がないよ、行こう」
部屋に入らせてもらうと少し前までとはかなり変わっていた。
そこまで広くない部屋にそれなりの荷物、やはり男子と女子というだけでそういうところも違うから中々に厳しい。
「ベッドは私で将太はこの布団で寝ているの」
「ま、まさか火森先輩……」
う、奪ったのか、だけどこういうときってのは女子の方の立場が強くなるものだから仕方がないのか……?
というかこれだと将太の家で朔夜が遊ぶということができない、やりたいことをやりたくても難しくなってしまう。
家は無理だからということで外でやるようになってしまっても問題だし、かといって俺がなにかをしてやれるわけではないから困ってしまう。
「あ、違うよ、将太がベッドで寝ればいいって言ってくれたの」
「それならいいんですけど、優しくしてあげてくださいね」
「はぁ、意地悪な人間だと思われていてお姉さん悲しいなぁ」
適当なところに座らせてもらって本棚なんかを見ていると「ただいま!」ともう一人の部屋の主が帰ってきた。
「将太、部屋のことで不満とかないよね?」
「ん? おう、ないぞ、ここでは寝られればいいからな」
「そっか、それなのに加登君がベッドを奪ったとか酷いことを言うんだよ」
「俺が譲っただけだから気にするな相棒」
彼なら本当に心の底からそう思って口にしているのだろうが……。
「なあ、リビングはそれなりに広いんだから将太はそこで寝た方が楽なんじゃないか」
「確かにそれもいいかもしれないな、姉貴だってちゃんとした自分の部屋が欲しいだろうし」
泊まりに来いと言ったところで聞かないだろうし、これぐらいしかやりようがないから言わせてもらった。
でも、そこで「ちょっと待った」と先輩が止めてきた。
「いや、将太を追い出してまでは欲しくないよ、リビングで寝ている将太を見る度に酷いことをしている気分になりそうだからやめて」
「姉貴がそう言うならここでいいか」
あーもう嫌だ、自分のこういうところが嫌だった。
というわけでどうにかするために火森家をあとにする。
結局こうして濡れるなら最初から世話になんかならずに走って帰っておけばよかったと後悔もした。
「雑草はすぐに伸びるな」
梅雨が終わってからでもよかったが晴れたのをいいことに暇なのもあって抜いてしまうことにした。
基本的には暇な俺がこれをする、部活がないときなんかには朝陽が手伝ってくれることもある。
だが、一人でやるのが一番だ、掃除って基本的にはそんなものだろ?
別個体だろうが抜かれても抜かれても大きくなろうとするこいつらは普通にすごい、少なくとも踏まれたり傷つけられたりなんかをされたら俺は頑張れない。
「よう」
普通にいいことだがなんでか最近は一人でいられないようになっているみたいだな。
内に出てきた複雑さをなんとかするために将太もやるかと聞いてみたものの、「それは遠慮をしておくわ」と断られてしまった。
近くに朔夜や先輩がいる気配はない、朝陽もいないのになにをしに来たのか。
「終わったら河川敷にサッカーをやりに行こうぜ」
「それは遠いな」
二十分ぐらいはかかる、自転車なんかはないからそうなるのだ。
俺からすれば片道二十分はきつい、帰るときのことを考えるとテンションが下がるというやつだった。
「だって昔みたいに中学のグラウンドなんかは使えないんだから仕方がないだろ? 近くの公園はボールの使用は禁止だしさ」
「分かったよ、鍵が開いているから中で待っておけよ」
「いやここでいい、一人で待っていたってつまらないだろ」
どっちとも遊べないなどという偶然が重なってここに来ているということか。
まあいい、それなら早く終わらせよう。
こういうところをなるべく家族に見られたくないというのもあった、いいことをしているのだから堂々としておけばいいのに気になってしまうからだ。
その点、将太なら偉いなどと言ってこないから、
「それよか草むしりなんて偉いな」
……いつもなら言ってこないはずなのに変なことになった。
ありがとうと言ってもらえたら嬉しいのに偉いと言われたら気になるっておかしい。
「河川敷に行く前にハンバーガーを買ってやるよ」
「いらないよ」
「いや、俺が単純に食べたくなったんだ、そのついでならいいだろ?」
「自分にならいいけど無駄に金を使おうとするな」
終わったから運動がしやすい服装に着替えて行くことにしよう。
「おぅ、混んでいるな」
「俺は頼まないから席を……ないな」
「買って持って行くか、こぼさなければ怒られたりはしないだろ」
自由にしてくれればいいと言って店内にいるのも気まずいから外で待っておくことにしたのだが、
「あ、加登君だ」
女友達と一緒にいる先輩に見られてしまってさあ大変――とはならなくてもよくないことなのは分かる。
「将太なら店内にいますよ」
「そっか」
「じゃあ俺はこれで――あの、友達が待っていますけど」
嫌な予感は当たった、この人が「あ、加登君だ」と言うだけで終わらせるわけがないのだ。
「まあまあ、どうせならお昼ぐらいは一緒に行動をしようよ」
「店内は混んでいますよ、それにこれから河川敷に行くつもりなんです」
「河川敷に? それはまたなんで……あ、サッカーをやりに行くんだ」
野球でもサッカーでもテニスでも遊ぶ程度なら普通にできる、道具も将太が全部持っているから困ることはない。
つまりどれが好きという話ではないが今回はたまたまサッカーが選ばれたというだけのことだった、二人で蹴り合うだけでサッカーと言えるのかどうかは知らないが。
「待たせたな」
「大丈夫だ、それより行こうぜ」
「つか姉貴もいたのか、本当に二人はよく一緒にいるな」
「将太と朔夜には勝てないよ、ほら行こ――」
「ね、私も行っていい?」
なんでそうなる、友達も先輩がこんな感じでは困ってしまうだろう。
「約束をして一緒にいるなら中途半端なことをするべきではないですよ」
「将太、いい?」
「ちゃんと話し合いをして許可を貰えたらな、これを早く食べたいからどちらにしてもすぐ終わらせてくれ」
「分かったっ」
で、こうなってしまえばもうどうしようもないということで終わった。
結局行くことになって、こちらが微妙な気分になっているというのにそのきっかけを作ってくれた人は「それじゃあ行こうっ」と楽しげだった。
彼も朔夜に対するときみたいにもっとしっかりしてほしいものだ。
「もう、そんな顔をしないでよ」
「別に特になにも感じていませんよ」
表に出てしまったか、だけど俺だから仕方がない。
「嘘つき、私に話しかけられた瞬間に逃げようとしていたよね」
「だっておかしいじゃないですか、先輩は異性だったら全員を相手にそんな感じなんですか?」
「いや? 私にだって同じようにできないときはあるよ」
「だからおかしいんですよ、将太に対してしてくださいよ」
つか、将太の方はこの人の本当の姿というやつを五月中に見られなかったということになるか、そこがはっきりとしてくれていればこうはなっていなかったかもしれないから少し残念だった。
いまの意味不明な距離感を壊せるならなんだってやる、他者だって使おう――なにかがあった後に家にいるときなんかはよくそう考えているのに結局一度もできていない。
「迷惑ならやめるよ」
「迷惑とかじゃなくておかしいじゃないですか」
「なんか気になるからじゃ駄目なの? 異性とか同性とか関係なくただ人として気になるだけなんだよ?」
そういう点で勘違いをしてしまいそうだからと口にしているわけじゃねえんだよ、なんでこの人は分かっていないうえにすぐにそっち方向に持っていく。
中々に自意識過剰な人だった、あと、あまり言いたくはないがやはりあほだ。
「しょ、将太」
「まあ、その話は終わりにして早く行こう、俺はこれが食べたいんだ!」
「分かった、このままだと将太が可哀想だからやめる」
いやその場合だと俺だろ、それともこういう嫌な部分をもう分かられてしまっているということだろうか。
類は友を呼ぶというやつで先輩も似たような思考をしたりするのかもしれない。
「だが相棒、別にストーカーをされているとかじゃないんだから相棒が受け入れれば終わる話なんじゃないのか? 捉え方を変える……というか、んー上手い言い方が見つからないが」
「火森先輩はほぼストーカーみたいなものだぞ」
朔夜のために呼んだのに空気も読まずに部屋に来たりなんかもしたからな、短期間にそういうことが多すぎた。
「た、確かに見つけたら近づいたり、こそこそと追ったりもするけどストーカーではないでしょ」
「「いや、やっぱりストーカーだ」」
「なんでよ! ――あ、な、なんでだよー」
「「お、おい、いまの見たか?」」
「か、感情的になるといまみたいな喋り方になるだけ、再婚に合わせて変えたとかじゃ……ないんだからね?」
つまり変えたのか。
何故再婚に合わせて変える必要があるのかは分からないが、なにも知らないままの状態よりはいい気がして特になにかを言ったりはしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます