119話 異界へのゲート②
オシリスがゲートに消え、取り残された俺達に残された選択肢は2つ。
狂信者を追いかけゲートをくぐるか、それともここでダンジョンの崩壊を待つか。
──後者は話にならねぇ。どの道ゲートをくぐるしかねぇじゃねぇか。あの野郎、どこまでいっても憎たらしい奴だ。
だが俺以上に悔しい思いをしているのは、他でもないアルベルトだ。妹との仇の目の前で逃がしてしまったんだ、やり切れないだろう。
「ああクソッ! クソクソクソクソォッ!」
「落ち着けアルベルト。アイツの言ってた事が本当なら、今は──なんだ、この音は……?」
微かに地響きのような音が聞こえる。聞き間違いなんかではない。
「な、なんか……揺れて、ませんか?」
「まさか、本当にダンジョンが崩壊するっすか!?」
「どんどんおっきくなってるのじゃ! クロード、ど、どうするのじゃ!?」
リリア達の言う通り、最初は感じるかどうか程度の微かな揺れは、時間とともに段々と大きくなりダンジョンの異変を物語っている。
【神域ダンジョン及び、通常ダンジョン支援施設のデリートを開始 残り79%】
「おいおい冗談じゃねぇぞ! クソが、一か八かだ。ゲートに入るぞ!」
思ったよりも進行が早い。ついさっき始まったというのに、もう5分の1程度が消滅している。チンタラしている暇はない。
俺達はゲートに向け走りだした。幸い、オシリスはモンスターを召喚しなかったので障害物はない。問題なくゲートには辿り着けるだろう。
「アルベルト! 何をしておるのじゃ!」
ふとウルの声が響いた。後方を見ると、アルベルトはその場で立ち尽くしている。
──あの馬鹿野郎がッ!
「俺は……残るよ。ルルを独りになんてさせられねぇ……」
「てめぇ……この期に及んで何を馬鹿な事を」
「兄貴にはわからねぇよ。たった1人の家族だったんだ。最後くらい一緒に居てやらねぇと可哀想だろ? アイツ、昔から寂しがりだったんだ」
俯き、ブツクサと言っているが、そんなものはただの自己満足だ。
「お前が死ねば妹は喜ぶのか? お前はコイツらに借りがあんじゃねぇのか。妹妹ってよ、シスコンかてめぇは」
「クロードさん……い、言い過ぎじゃないっすか……?」
「うるせぇ! もう我慢ならねぇ。てめぇはここに来て何をしたんだ? 俺達に敵対したり、戻ってきたり……今度は自殺か? 情緒不安定なのか? てめぇがダンジョンに来る前から妹は死んでんだろうがよッ! 現実を見ろよアルベルト。今更何をした所で、妹は戻らないんだよ。お前には本当に妹しか居ねぇのか?──答えろよアルベルトッ!」
【デリート中 残り53%】
神宮が崩壊しつつある。崩れた壁から見える景色は、黒1色。あれだけあった木々など跡形もない。直にここも消滅する。時間がない。
「俺にはルルしか──」
「ばかもの! ワシらは……ワシらおぬしにとってそこら辺の石コロと変わらないというのか!」
アルベルトが言い切る前にウルが割って入る。
「アルベルト、俺は兄妹とかいないっすけど……もし弟がいたらこんな感じかなって思ってたっすよ? だからそんな事言っちゃだめなんすよ」
「ほら、皆待ってますよ?」
崩壊が進む中、リリアはアルベルトの元へと行き手を差し伸べる。
【デリート中 残り39%】
もう神宮の1部も消えている。そして恐らく、妹の身体も。
「俺は──ぇ」
「そう言うのは後で聞きます!」
リリアは強引にアルベルトの手を引き、ゲートへと走る。それに釣られアルベルトも着いては来るが、すぐ後ろには消滅が迫っている。
「リリアッ捕まれ!」
「はい!」
このままでは間に合わないと判断した俺は、リリアの手を掴みゲートへとぶん投げた。
上手くクラッドが受けてくれたが、時間的余裕は全くない。
【デリート中 残り21%】
気付けば辺りは消滅済みで、このフロアももうほとんど残っていない。
「クラッドッ! そいつらを頼むぞ! 俺もすぐ行く!」
冗談じゃねぇ。こんな所で死んでたまるか。俺1人なら問題ないはずだ。
「わかったすよ!」
「兄──」
「うるさい! いいから行くのじゃ!」
クラッドはゲートへと飛び込み、アルベルトが何か言いかけていたが、ウルがゲートへと突き飛ばした。ナイス判断だ。この期に及んで面倒はごめんだ。
「ゲートの先で会いましょう」
「当たり前だ」
リリアはそれだけを言い残し、ゲートに入っていった。多くを語らないのは、俺が間に合う事を信じているからだろう。そして俺は、それに応えなければならない。
【デリート中 残り1%】
「時間がねぇ。間に合ってくれよッ」
もうゲート以外のほとんどが黒に染まる中、俺は飛び出しゲートに突っ込んだ。
【デリート完了 残り0%】
そして同時に、ダンジョンの消滅が完了した。
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