117話 最終フロア


メーデイアが逝ってから暫く経ち、妹の亡骸を強く抱き締めようやくアルベルトは立ち上がった。


「……行こう兄貴」


「いいのか、もう」


「ああ。皆も待ってるしいつまでもここで泣いてたら、ルルに笑われちまう」


そう言ってはいるものの、強がっているだけなのはすぐに分かった。目が死んでいる。

たった1人の身内が死んで、すぐに立ち直れと言うほど俺も鬼畜じゃない。だがここに居ても何も変わらない。

本人がそう言うんだ。進むしかない。

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それから俺達はリリア達を追いかける形で階段を駆け上がった。


──メーデイアの話の通りだと、アイツらは一体何をしてるんだ? 願いも叶わない。恐らくボスもいない。それなのにどうして戻ってこない。まさか独断で狂信者を追っかけた訳でもあるまいし……


そんな事を考えていると、微かだが爆発音のようなものが聞こえてきた。


「アルベルト、急ぐぞッ!」


「あ、ああ」


嫌な予感がする。メーデイアは狂信者が先にこのダンジョンに侵入していると言っていた。そしてメーデイア自身も最終フロアに到達したが、願いは叶わなかったと。

それなのに何故爆発音が響くのだろうか。答えは簡単だ。


【終の間に侵入しました】


ウィンドウが表示され、最終フロアの到達を告げる。

弐の間とは違い、思ったよりも空間は広くはなかった。そしてやはりと言うべきかリリア達は交戦中だった。

相手はたった1人。だが見覚えがある。茶色い長く伸ばした髪。整った顔立ちを歪ませて笑うあの表情。見間違うはずがない。


「──オシリスッ!」


「また、会いましたねぇ? くくく……まさか神域で会うとは思わなかったでしょう?」


オシリスの言う通り、コイツと会うとは思わなかった。それにどうやら、今までの比じゃないくらいに強化されてやがる。


「クロードさん! 気をつけてください。あの人……以前会った時よりも段違いに強いです」


見ると、リリアを含め3人とも既にボロボロだ。クラッドは前衛が1人だったせいか、酷い有様だ。それでも、3人生きている。


「ワシの魔法が通じんのじゃ……」


「でも、クロードさんとアルベルトが居れば何とかなるっすよ!」


ウルは単純にMP不足による火力の低下が原因だろう。完全魔法耐性なんてオシリスが待っているはずがない。

それに俺はエリクサーで全快だ。スキルも進化してるし、俺1人でも十分に勝算はある。

双剣を構え、動こうとしたその瞬間、


「おっと、残念ですが私は貴方と戦うつもりはありませんよ。忠告をする為にわざわざ残っていたんですが……彼らが攻撃してくるので軽くあしらっただけですよ」


そう言って両手を上げる。さて、信じていいものか。


「はっ、それで? わざわざお前程度が何を忠告するって?」


「……。相変わらず態度がでかい。まぁいいでしょう。貴方、あの小娘からある程度は聞いているのでしょう?」


小娘、というのは恐らくメーデイアの事だろう。


「だったらなんだ」


「あれをご覧下さい」


オシリスが指さした先には、真っ黒い空間。そこだけ時空が歪んでいる。あれがメーデイアの言っていたゲートと言うやつか。


「あれは異界へと繋がるゲートです。私達狂信者の崇拝する悪魔の存在する世界へと繋がっているのです。さて、私もそろそろそのゲートをくぐる訳ですが──その前にここまで来た褒美をあげましょうか」


「なに? てめぇ如きが俺に褒美だと? 随分調子に乗ってんじゃねぇか」


何様のつもりだ? ムカつく野郎だ。


「この世界は直に消滅します。これでもまだ、話を聞く気にはなれませんかねぇ」


「ニフェルタリアが消滅するだと? てめぇら……一体なにを願いやがった……」


正直、俺は別に構わない。ニフェルタリアにいると言っても、俺が行動してきたのは支援施設とダンジョンだけだ。なんの思い入れもありはしない。


「正確には、幽世かくりよ現世うつしよの融合なんですがね」


「そんな事が──」


「できますよ。カイロスの力なら。それよりこのダンジョンについて疑問に思った事はありませんでしたか?」


そんなのは腐るほどある。最初はゲームの世界だと思っていたが違かった。それなのにまるでゲームのような進行の仕方だ。ウィンドウだって、どういう理屈なのか未だにわかっちゃいない。

憶測ではあるが、ニフェルタリアと支援施設を含むこのダンジョンはまた別の世界という扱いなのだろう。ニフェルタリアをトレースし、何者かによって作られたのがダンジョン。

そう考えればある程度の事は納得がいく。


「……」


「このダンジョンは教祖であるレドルジ様が創造した小さな世界なんですよ。わかりますか? クク……貴方はずっと、私達の掌の上にいたんですよ」


オシリスは醜悪な笑みを浮かべてそう言った。

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