25話 防衛戦開始


放たれる矢を弾きながら、オークの前に辿り着く。迫る拳を回避しそのまま顎にアッパーをかます。

鉄をハンマーで叩いたような音が響き、オークの巨体が宙に浮いた。


空中で身動きの取れないオークの横っ腹をこんぼうで殴りつけ、その衝撃でオークは回転しながら壁に激突。

アーマー越しに吐血するオーク目掛けて跳躍し、再び腹部を殴りつける。

衝撃が地面へ伝わりひび割れる。


「――おい。こんなもんで終わると思うなよ」


瀕死のオークは身体を痙攣させているだけで、反撃する力もない。

しかし、関係ない。俺はオークの腹を踏みつけ、こんぼうで殴打する。

殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。

ただひたすら何度も何度もこんぼうを叩きつけた。


「――んッ! クロードさん!」


ふと、リリアの声が聞こえ我に返る。

何度こんぼうを叩き付けたか、覚えていなかった。

完全武装したオークは、既に原型をを留めておらずひしゃげた鉄版と、血にまみれた肉塊に成り果てている。


――俺は、今……何をしていた? 豚如きに何を熱くなってる。


血溜まりが足元に到達し、じわじわとその面積を広げる。


「その……もう死んでます……」


その残虐な光景を目に映すまいと目を逸らし、小刻みに震えていた。

俺の異変に気付いて止めてくれたのか。悪い事をした。


「……悪かった。そっちの豚は片付いたか?」


「はい、今さっき倒しました」


クラッド達がいる方に目をやると、切り刻まれたオークの死体が転がっていた。

3人はその場でヘタリ込み、満身創痍の姿だった。


「そうか、よくやった」


【クリア条件:オーク3体の討伐を満たしました。30秒後に次のステージへ進みます】


【連結階層の一部をクリアしました。ステータスが一定値回復します】


【経験値を300獲得しました】


【称号・暴虐の化身を手に入れました。称号は1種類のみ適応されます。またステータス補正率が高いものが自動的に反映されます】


【ステータスがアップします】


ウィンドウが表示され、どうやらさっきのでまた物騒な称号を手に入れたようだ。

もう少しまともな称号が欲しいが、ステータスに補正がかかるなら我がままは言えない。


王の資質を使ってから異様に気持ちが高揚したように感じる。気のせいならいいが、何かしらデメリットがあるのかもしれない。


あまりそれに頼りすぎないように気をつけよう。

とりあえず、3分の1はクリアした。


HP等一部のステータスも回復したが、思ったよりは手こずったな。

この段階で王の資質を使うつもりはなかったんだが……。


「――なんだッ!」


突然、地鳴りのような音と5階層全体が揺れているような感覚が襲い、視界がブレる。

周囲を見渡すと、扉と反対側の壁に隠し扉のようなものがあり、それが土煙をあげ大きく動いていた。


次第に振動は収まっていき、土煙が晴れるとそこには登りの階段が姿を現した。


――6階層への階段か。


「次の道、ですよね」


「ああ、恐らくな」


もう少し休めると思っていたが、考えが甘かったらしい。

とりあえず、あそこでへばってる奴らに次の階層の説明が必要か。


「――おい、お前ら無事か」


「なんとか、無事っすよ。リリアちゃんとウルちゃんが良くサポートとしてくれたんで、俺とカミルさんでもなんとか倒せたっす! 」


ボロボロで情けない笑みを浮かべてクラッドは言った。

その言葉に過敏に反応していたのは、他でもないウルだった。

褒めてくれと言わんばかりに、誇らしげに胸を張っている。が、調子に乗られても困る。


コイツらは全員が自分の役割を果たしただけだ。個人を賞賛する必要はない。


「それより、あの階段って――」


「6階層への階段だ。 さっきも言ったが、次は防衛戦になる。それも長時間のな」


「ぼーえーせん? なんじゃそれは」


「ここにあまり長居はできない。移動しながら説明するから、お前は後でカミルにでも聞いてくれ」


呆けた表情を浮かべ、馬鹿丸出しのウルに構っていると、それだけで時間をかなり浪費してしまう。

ウルを押し付けられたカミルは、少し前ならため息をついていたが、とうとう慣れてしまったらしく、なんのアクションも起こさなかった。


そして俺達は、連結階層の中層である6階層へ向けて歩き出した。


「よく聞け、この防衛戦の鍵はいかに敵倒すかじゃない」


「どういう事ですか?」


「極論だが、砦に敵を入れなければ戦う必要はない」


勿論そんな事は現状のパーティではできるはずも無い。だが、策を練ることで一時的にその状況を作る事はできる。


「一定時間砦を守りきればそれでクリアだ。逆に砦で陥落したりすれば、先へ進むことは出来ない」


自分で言ってみて思ったが、砦が陥落したら生き残っているキャラクターはどうなるのだろうか。

死亡扱いになるのか、それとも支援施設へ戻れるのか。


――いや、クリアすればいいだけだ。無駄なことを考えてる余裕はない。


「時間があるのなら罠など私が仕掛けよう。大層なものは出来ないが、そこら辺は多少知識がある」


カミルは謙遜して言うがそこら辺も何も、逆に知らない事があるならそれを教えて欲しいくらいだ。

召喚時から博識のスキルを持っているのは伊達じゃないな。


スキル目当てでパーティに入れたが、何だかんだ頼りになるやつだ。


「大掛かりじゃなくていい。足止めさえすれば殺しやすくもなる。質より量重視で頼む」


「ワシは何をすればいいのじゃ? 言っとくがこやつのように小難しいことは出来ないからの!」


「お前は――」


何が出来るんだ? 準備段階でこいつが出来ること、か……。

コイツは、ずば抜けておつむが弱い。それなら――。


「カミルの手伝いをしろ。カミルの指示に従い、カミルの負担を減らし、カミルの」

「カミルカミルうるさいのじゃっ! そんなに言わんでも出来るのじゃ! 馬鹿にするでないっ!」


馬鹿にされて憤慨しているウルは放っておいて、俺はそのまま階段を登った。


「リリアとクラッドは俺と来い。やる事がある」


「了解っす!」

「わかりました」


これで手分けして作業ができる。

後はいかに接敵を遅らせるか……それだけに全てがかかってる。ここで脱落者が出れば、次の7階層の攻略難易度が一気に跳ね上がる。

事実上この防衛戦は最大の分岐点になるかもしれない。


暫く登ると、数段上から陽の光が差し込んできた。

遂に6階層にたどり着いてしまった。


階段を登りきると、俺たちがいる場所は砦の中庭の部分だった。


見渡すと、思っていた以上にまともな造りをしていて、迎撃の設備もある程度は期待ができそうだ。

なんの飾り気もない石積みの砦だが、今の所特に綻びなどは見られない。


「ここを、守るんですね」


【連結階層第2ステージへ侵入しました。モンスターの郡勢が砦に押し寄せてきます。一定時間、砦を防衛してください】


【砦の中心には核があります。核が破壊されると砦は陥落してしまいます】


【残り時間 120分】


「――に、2時間もやるんすか!?」


ウィンドウの説明を見て、クラッドだけではなく全員の顔が曇る。

120分襲い来る敵と戦え、と言われれば誰でもこうなるだろう。


「安心しろ、敵の本隊が到着するのは最後の30分だ。それまでは偵察役がくるが、少数だ。特に問題はない。全員まず軽く砦を歩いて構造を頭に叩き込め。それが終わった奴はあそこに門で待ってろ。次の指示を出す」


「はい!」


リリアはクラッドと、カミルはウルと2人1組となり砦の散策に向かった。

俺は既にある程度頭に入っているから見て回る必要はない。


それより、早速防衛戦の足掛かりを築くとしよう。時間はあるようであまりない。

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