26話 防衛戦の足掛かり
俺の記憶が正しければ、防衛戦での敵の大半はゴブリンだったはずだ。
その中にゴブリン系の上位個体がちらほら。それに加え数は少ないがオークと新手のキラービー。
キラービーは蜂型のモンスターで、特別強力な訳ではないが制空権を奪われる。下からのモンスターと上からのキラービーによる挟撃がこの防衛戦において、何よりも厄介だ。
ステータスでゴリ押しできるタイプのダンジョンではないので、しっかり対策を立てておかないとすぐに核が破壊されてしまう。
なら、どうやって対策を立てるのか。手持ちのアイテムなんかクソの役にも立たないものばかり。
だがこの砦には、防衛戦をサポートするアイテムがある程度そろっている。
門の壁に乱雑に置かれている地雷なんかは、使わな方が馬鹿だ。砦の周りを地雷で囲むだけでもかなりの数を足止めできる。
「あとは、あれが必要だな」
俺は地雷が記憶通りある事を確認すると、階段を上りと城壁の上に来た。そこには数は少ないが迎撃用の大砲が等間隔に設置されている。
「――いい景色だ。これから血に染る事になるけどな」
城壁の上からは敵の動きがよく見える。実際に見える景色の全てに行ける訳ではないが、遠くに見える山々などはここがダンジョンである事を忘れさせる程美しいものだ。
念の為周りを見回すが、まだ敵影は見えていない。
「よし、こんだかあればかなり有利に事を運べる」
そして、城壁を半周ほどすると目当てのものを見つけた。
それは大きな木箱に入った、人の顔程もある砲弾だった。
勿論大砲でぶっぱなすのにも使うが、これには他の使い道もある。
「……運ぶのはクラッドあたりにやらせよう」
100以上の砲弾を運ぶのは流石に手間だ。
俺は他にもやるべき事が腐るほどある。
――とりあえずアイツらも見回りを終える頃だし、1回戻るか。
1つだけ砲弾を持って、集合場所である門へと向かうと、カミルとウルは既に見回りを終え、他のメンバーを退屈そうに待っていた。
「砲弾か。そんなものまであるとは……」
「ワシの魔法の方が強いのじゃ! そんなものいらんっ!」
「はいはい、後で好きにやっていいから黙っててくれ」
ウルは待ち時間が嫌いなのか機嫌が悪そうに、眉間に皺を寄せ不機嫌そうな表情を浮かべていた。
砲弾を置き、少し待つとクラッドとリリアが戻ってきた。
俺達を見ると小走りで、
「すみません、待たせちゃったみたいですね」
「いや、いい。それよりある程度構造は掴めたか?」
「完璧っすよ! 2階の真ん中らへんに核っぽい赤い石も見つけたっす」
今回、砦の防衛戦のように言っているが、実際は核を守るだけで砦ごと守る必要はない。
極端な話、砦が崩壊しても核が無事ならそれでクリアになってしまう。
仕様なのか、その核がある部屋に罠を仕掛けることが出来ず、敵がそこまで攻めてきたら直接撃退しなければならない。
そうなると、相手の強さ関係なく物量に物を言わせて来られたら、5人では守りきる事が難しい。
だから結局、砦ごと守った方が効率がいい。
「そうか。カミルは好きに動いていいが、敵を発見したら各自撃退してくれ。残り30分が本番だが、その時は必ず全員この門で合流するように」
「わかった、では私とウルは罠の設置にはいる」
「敵はワシが倒すのじゃ!」
そう言って2人は足早にどこかへ行ってしまった。
カミルの事は信頼してるが、一体どう言う罠を仕掛ける気なのだろうか。
ウルはまあ、今はあまりあてにしていない。
「私達はどうしますか?」
「ああ、お前ら2人にはたっぷり働いてもらうぞ」
ニヤリと笑った俺の顔は、もしかすると酷かったのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【残り時間 90分】
あれから30分ほどたったが、敵が攻めてくる気配はない。
それをいい事に、俺達はせっせと未だ罠の設置に勤しんでいた。
門の通路に幾つかと砦を囲むように地雷を設置し、砲弾に関してはただ外に転がして置くだけだ。あとは勝手に仕事してくれる。
そして、今俺達がやっているのは――。
「こ、腰が痛いっすクロードさん……もうこんなもんでいいんじゃないっすか?」
「つべこべ言わずにさっさと穴を掘れ。もう少し深めだ」
砦の中にあったシャベルを使い、門の内側に3人で巨大な穴を掘っていた。
勿論それはリリアにもやらせている。女の子だからとかクラッドが言っていたが、そんなものは関係ない。
それに何だか、リリアのやつは楽しそうに掘っているように見える。
「なんかっ! 農家さんになったみたいでっ! いいですねこれっ!」
話しながらも笑顔でしっかり手を動かしていた。
「農家でもなんでもいいが、時間制限があるのを忘れるなよ。俺は見回りに行ってくるから、その間少し休んどけ」
ここまで平和だと後が怖いな。
今のところ来る気配はあまりないが、念には念をだ。居なければいないでいいし、居たらただ殺せばいい。簡単な事だ。
「や、やっと休憩っすね! クロードさん、何かあったら呼んでくださいっす」
シャベルをほっぽり投げその場に倒れ込むクラッドは、慣れない作業というのもあって中々疲れているらしい。
俺は休むことなく、そのまま砦を外壁に沿って歩いた。
――今のところゴブリン1匹見当たらない。やけに静かだな。
広がる平原には隠れる場所もなく、突っ込んでくる以外に接近するすべはない。
だというのに、30分経過した今でも敵は姿を見せない。
「一旦戻る……やっと来たか」
戻ろうとした矢先、数匹のゴブリンが接近してくるのを視界の端で捉えた。
ホブゴブリンですらない通常のゴブリンなど、虫けら同然だ。
向こうもおれを発見したらしく、なにやら汚らしい声を上げ騒いでいる。
――こんな奴らに苦労して仕掛けた罠を使うの勿体ないな。
俺は自らゴブリンの元へ駆け出した。
大地を蹴る度に雑草が宙に舞う。
ゴブリンが慌てて弓を構えるが、そんなもの当たるはずもない。
放たれた矢は、数メートル右方向目掛けて飛んでいき、避ける以前の問題だった。
――5体か。1分もかからないだろうな。
腰の墨月を抜き、スピードを抑えることなくゴブリン達の間を縫うように駆け、すれ違いざまに首を斬りつける。
ゴブリンは何が起こったのかわかっていないのか、駆け抜け振り向いた今でも棒立ちしていた。
その刹那、ゴブリンの首が飛ぶ。
血液が勢いよく吹上、5本の赤い柱のようにも見えた。
「――あっけないもんだな」
墨月に付着した血液を払う。
防衛戦というのもあって、最終的な敵の数は今はまでのダンジョンの比じゃないからか、敵のレベルは6階層にしては比較的低い方だ。
相手がゴブリンというのも手伝って、文字通り瞬殺した。
「なんだ、まだいるじゃねぇか。かかってこいよ虫ケラが」
どうやらこのタイミングでやっと攻城が始まったらしい。
大した数じゃないがそれでも2桁はいる。
そして新手のキラービーもそこに混ざっていた。
スズメバチを巨大化させ多様な姿に、シリから伸びる針は異様に長い。その針に刺されると一定の確率で麻痺を起こし、タイミングが悪ければそのままリンチにされる。
その反面、単体の攻撃力は低く刺された事によるダメージは、気にする程でもない。 速度重視のサポートタイプだ。
キラービーはやかましい羽音をたてながら、空中静止し俺の動きを観察している。
俺は先に地上のゴブリン共に照準を定め、距離を詰める。
手前にいるゴブリンは先程同様に瞬殺。次にいたホブゴブリンは、接敵と同時にこんぼうで俺の顔面を潰そうと薙ぎ払いをするが、それを俺はそれを蹴り上げ無理矢理隙を作る。
そのままホブゴブリンの心臓に墨月を突き立てると、その場に倒れ絶命した。
「全く、数が多いだけで相手にならねぇな」
ゴブリン達は仲間が殺られたことで、警戒しているのかその場で固まって様子を見ている。
「――こないならこっちから行くぞ」
キラービー含め、10体ほどに囲まれているが何も問題は無い。
俺は目の前のゴブリンに飛びかかり、顔面を掴んで地面に叩きつける。
そして、そのまま隣に位置する奴の首に回し蹴り。鈍い音が響かせ首の骨を粉砕した。
それを見たゴブリン共は意を決したのか、全員一斉に飛びかかってきた。
――わさわざ自分から来るとはマヌケだな。
墨月でそれらを薙ぎ払い、腹部から内蔵が飛び出でる。既に絶命しているので、受身など取れる訳もなく、グシャりと音を立てて地面に倒れた。
振り抜いた腕にキラービーが接近し、針を伸ばす。
それに対して逆に腕を殴りつけ、攻守を共に行った。ゴブリンを殴った時の感触とは違い、言葉にできない気色悪い感触が腕にまとわりついた。
「汚ぇな」
殴りつけた腕を見ると、拳には緑色の体液が付着していて、匂いを嗅がなくても刺激集が鼻をついた。
残りのゴブリンは愚かにも立ち向かう選択をしたが、俺にとっては都合が良かった。
墨月を使わずに、汚れた腕をゴブリンの顔面に擦り付けるように振り抜く。
4体目を殴りつけたところで、ようやく体液の臭いが多少収まった。
「これで全部か。レベル差があるとこんなに楽なのか。――いやまてよ、まだお前がいるじゃないか」
敵を殲滅し、砦へ帰還しようとしてキラービーにトドメを指してしなかったことを思い出した。
呆気なさすぎて忘れるところだった。
キラービーは地に落ちて、必死に羽を動かしていたが、右側がぐちゃぐちゃになっているので飛べないでいた。
「――じゃあな」
俺は既に戦闘不能のキラービーを踏み潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます