23話 最初の関門
5階層は思ったより広い。
あれから俺達は、通路を進み右へ左へと全ての通路を踏破しているからか、未だボス部屋に辿り着いていない。その中でホブゴブリンとジェネラルには何度か遭遇したが、特に問題なく討伐する事が出来た。
連結階層の序盤とは言え、中々いい滑り出しをしているはずだ。
低威力とはいえ、ウルは魔法を連発していたのでフロアボスまでは温存しておき、今後は残りのメンバーでの雑魚戦を乗り越える必要がある。
そして今目の前には杖を装備し、小汚いローブを纏ったゴブリンメイジとジェネラルだ。
単体ならそこまで警戒する必要はないが、前衛後衛として役割分担をしてくると、今までのように無傷で勝利を収めることは難しい。
互いに牽制しあい、未だ距離がある。
こちらは遠距離はリリアの弓頼り。ボス部屋も近い中、こんな所でウルのMPを枯渇させるわけにはいかない。
――まずは面倒なメイジから殺す。
「1つ試したい事があるのだが、いいかな」
速攻を仕掛けようとした俺の肩に手を置き、カミルがそれを止めた。
出鼻をくじかれ、焦れったいようななんとも言えない感覚だ。
「なんだ」
「ああ、私のバリアなのだが……物理攻撃以外にも有効なのか気になってね。次に控えるのは防衛戦。普通に考えれば敵は大群で押し寄せてくるだろう。だからその前に、どの範囲で有効なのか把握しておく必要がある」
先を見据えてか。悪くない発想だ。
確かにカミルの言う通り、6階層の防衛戦ではフロアボスが不在で、質より量で攻めてくる。
その準備という事なら、協力する他ないな。
「わかった。好きにしろ。全員、メイジは後回しだ。魔法はカミルが受けるが、注意しつつジェネラルを叩くぞ。リリアとウルは待機でいい。俺達でやる」
「はいっす!」
まず俺がジェネラルに接近し、注意を引く。
予想通りジェネラルは俺に向けナタを、振り下ろす。
1歩右にズレることで回避し、壁と同じ石でできた地面が割れ、小石が散乱。
その隙にクラッドが駆け出し、足の甲に槍を突き刺し、それを軸に跳躍。
ジェネラルは痛みなど気にする素振りもなく、そのままクラッドを殴るように太い腕を振り抜く。
クラッドは槍を引くように力を入れ、身体をやりに引き寄せ、ジェネラルの剛腕を回避。
だが脇腹を掠ったのか、腹を抑え苦い表情を浮かべている。
「――てめぇの相手は俺だろ」
ジェネラルの意識がクラッドにいった次の瞬間、ジェネラルの右腕は血の雨を振らせながら宙を舞った。
振り抜かれた腕を墨月で、斬り落とした。
そしてそれと同時に、ジェネラルの脇を縫うように風の刃が俺を襲う。
状態を逸らしたが、メイジの魔法は俺の頬を斬り裂いた。
熱さにも似た鋭い痛みを感じる。
思わず頬に触れると、生暖かい血の感触。
べったりと俺の指に赤い液体が付着していた。
「カミル」
「すまない、分析はできた」
バリアの分析は出来たらしく、俺と並んで剣を構えた。
――ならもう遠慮することはない。
「お前ら、下がってていいぞ」
2対1。ハンデにしては少ないな。
まずは手負いのジェネラルからだ。
俺に傷をつけたあのクソメイジは、後で必ず殺しにしてやる。
俺は瞬時に前衛のジェネラルとの距離を詰め、十分に助走を付けた拳を顔面にめり込ませる。
破裂音にも似た音が響き、頭部を破壊。
メイジは既に俺に足元に黒い魔法陣を展開し、穢らわしい声で笑っている。
直後、身体から力が抜けたような感覚。
――デバフ系魔法陣か。先にジェネラルを倒しておいて良かった。
ステータスが下がったせいで、普段通りの動きを封じられる。
だがそれでも元のステータス差のおかげか、コイツを倒すのには特に問題は無い。
メイジ向け駆け出して、3歩目。足元が赤く光り出す。設置系魔法陣、罠だ。
――チッ、動きが遅くて完全に避けられねぇ。
あと数歩先にはメイジだと言うのに、次の瞬間魔法陣からは火柱が上がり、回避し損ねた俺は左足首が巻き込まれる。
髪を焼いたような臭いが漂う。
鼓動を打つごとに足に鋭い痛みが走る。
「クロードさん!」
リリアが回復しようと、前に出るが俺は手を出す事でそれを制止し、
「いい。こんなもん効いちゃいない」
痛む足をそのまま酷使し、メイジへと駆ける。
それが予想外だったのか、メイジは慌てるような素振りを見せ、再び魔法陣を展開する。
距離は5mほど。メイジの魔法が先に直撃するか、その前に奴を殺せるか。
普通にやっていたら魔法の方が早いだろう。
だから俺は全員墨月を投擲した。
右腕から放たれた墨月は俺より遥かに速く、風きり音と共に魔法陣を砕き、そのままメイジの額深く突き刺さった。
メイジは「げげ」と、何が起きたのか分からないといった声を上げ真後ろに倒れた。
その瞬間、身体に力が戻るような感覚があり、ゴブリンメイジが確実に死んだことを知らせた。
「やっぱクロードさん強いっすねぇ」
「ああ、パーティの中で頭1つ抜けてるな」
「下らねぇ事言ってないで先を急ぐぞ」
俺がコイツらより強いのは当たり前だ。経験値特化ダンジョンも潜り、称号や装備も比べるとマシな方だ。
それでも低レアリティなことには変わりがない。
カインズが生きていたら、ここはカインズの席だったはずだ。
俺はそのあと何も言わず、メイジの死体を踏みつけ、ボス部屋へと続く通路を進んだ。
数分歩くと恒例の扉が姿を現した。
黒く重厚な扉の奥には、ドラゴンや強力なモンスターが良く似合うが、この扉の先にいるのは3匹の豚だ。ドラゴンじゃない。
「いいか、ここが1つの関門だ。計画通り行くぞ。それから、リリアとウルは温存は頭に入れなくていいから、必要なら魔法を使え」
「任せるのじゃ!すぐにばーん、どーんしてお主を助けに行くのじゃ!」
今まで温存していたストレスのせいか、ウルはヤケにテンションが高い。
それと反対に、リリアは未だ少し硬いように見える。
「クラッド、カミル。頼んだぞ」
「はいっす!」
「なるべく早く援護に行けるよう努力する」
後はこの扉を開けるだけだ。
足は多少痛むが問題ない。回復アイテムもある。
――待ってろよ豚共。すぐに殺してやるからな。
扉に手をかけ、俺達は5階層のボス部屋へと侵入した。
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