22話 宝箱の中身
前方のホブゴブリンは上からの振り下ろし、左のホブゴブリンは腕を伸ばしきり横からの殴打を計る。
――まずは1体ずつ。確実に殺す。
俺は滑り込むように左ホブゴブリンの腕の下を通り、同時に腕を斬り裂く。
そして背後に回ると同時に、痛みで怯むホブゴブリンの頭部に一気に墨月を突き立てる。
大量の血液が吹き出し、白い脳が見え隠れしている。
脳天に墨月をくらったホブゴブリンは力尽き、重力に身を任せその場に倒れた。
「――1体目」
コイツらを殺す事に最早戸惑いはない。
あの時の覚悟は生きている。
立ち塞がるなら殺して進むまでだ。
戦闘開始数秒で仲間を殺されたホブゴブリンは、それを信じられないのか、焦ったような表情を浮かべ少しづつ後ずさりする。
「へぇ、知らなかったな。――お前らでも恐怖を感じるのか」
俺は、後ずさるホブゴブリンに向かい駆け出し、跳躍。
未だホブゴブリンは動かない。いや、動けない。完全に速度についてこれていない。
そのまま身体を捻り、側頭部を狙い後ろ回し蹴り。 かかとが側頭部に直撃し、肉を潰し頭蓋を破壊する。
だが勢いは止まらず、そのまま壁に押し付けるように振り抜いた。
ホブゴブリンは最初に首だけ壁にめり込み、その刹那、身体がそれについていくように吹っ飛んだ。
頭部が見るに堪えないほどぐちゃぐちゃになり、確認するまでもなく呆気なく、ホブゴブリンは絶命。
石の壁が砕ける音が、微かに通路に反響していた。
十字路は地獄絵図のように、血液が壁に飛散し、死体が無造作に転がっていた。
「――こんなもんか」
俺はそのまま休むことなく、リリア達が進んだ右の通路へと向かった。
暫く歩くと、最後衛のリリアの姿が見えた。
どうやらまだ交戦中のようだが――終盤戦のようだな。
気を散らすのも悪いし、終わるまでここで待ってるとしよう。
リリア達が対峙しているのは、ホブゴブリンではなくジェネラルのようだ。
どうやらウルの勘は悪い方によく働くらしい。これを参考に、今後はアイツの言うことは無視しよう。
だが、当初の心配をよそにリリア達は、ジェネラル相手によく戦っていた。
クラッドが槍で牽制し、ウルは低威力の火属性魔法でサポート。
ジェネラルの攻撃が前衛に迫れば、すぐにカミルが青色の盾のような形のバリアを張り、攻撃を弾く。
弾いた瞬間にリリアは矢がジェネラルの足に刺さり、じわじわと機動力を奪う。
「なんだよ、俺が居なくてもしっかりできるじゃねぇか」
思わず感嘆の声が漏れるほど、連携がよくとれていた。これなら5階層は心配要らなそうだな。
ジェネラルの装備は変わらず、錆びたナタでクラッドを近づけさせまいと振り回す。
しかし、クラッドは避けずにそれを槍で弾き、そのまま回転し、切っ先とは反対の石突の部分で、顎を砕く。
衝撃でジェネラルの身体がほんの一瞬浮き、その隙にカミルが後ろから心臓を貫いた。
ジェネラルはほぼ何もする事が出来ずに敗北した。
「楽勝っすね!」
「ああ、この連携能力があればオーク相手にも引けを取らないだろう」
2人の言う通り、確かにこれならいい勝負はできそうだ。だが、負傷はするだろうな。
雑魚もかなり強くなってはいるが、5階層からのフロアボスはその比じゃないくらい、強力に設定されているはずだ。
「むー! つまらん! ワシはもっと凄いのを撃ちたいのじゃぁぁ」
「ウルちゃんかっこよかったですよ? オーク戦でも頼りにしてますね」
段々とリリアもウルの扱いが上手くなってきた気がする。
リリアになだめられたウルは満足気に、
「ほ、本当かっ! ワシはカッコよかったか!?」
「はい! とってもカッコよかったです」
放っておくといつまでも続けそうなので、気分の良くなっているウルには悪いが、割って入る事にした。
「――おい、その辺にしとけ」
「クラッドさん!? いくら何でも早すぎじゃないですか?」
驚くリリアには悪いが、ホブゴブリンなんざ俺の敵じゃない。文字通り、問題なく瞬殺できる。
「そうでもない。それより、この先にアイテムがあるはずだ。それを取ってこい。俺は引き返し左側のアイテムをとってくる」
「おー! ワシのためのアイテムじゃな! すぐにでも行くのじゃ!」
「誰のでも構わないが、とったら十字路で待っててくれ」
要件を伝え、俺は元来た道を引き返した。
今言ったように、左右の道ではアイテムを取得できる。基本的に連結階層のアイテムは回復の類が多い。
鬼畜な連結階層の中では、これがかなり大切になってくるので、多少時間をかけても全て取るべきだろう。
十字路を超えそのまま真っ直ぐ進み続けると、見覚えのある木製の宝箱を発見した。
懐かしい気持ちとともにそれを開けると、
【R3こんぼう】
「――おい、ふざけんじゃねえ。チュートリアルじゃねぇんだぞ」
懐かしい気持ちで開けた宝箱には、同様に懐かしい武器が入っていた。
こんなもの今となっては何の役にも立たないが、懐かしさに免じて、腰の部分に差し込んでやった。
回復アイテムじゃないのは痛いが、出てしまったものは仕方がない。
それから俺は、少し気分を落としながら十字路に向かいリリア達と落ち合った。
「アイテムはどうだったんすか? こっちはゴブリンの秘薬だったっす!」
なるほど、当たりはそっちか。
ゴブリンの秘薬とは、ゴブリン系の回復アイテムの中では最上位に位置する物で、HP、MP共に30パーセント回復する優れものだ。
秘薬の下位互換であるゴブリンの傷薬は、効果がかなり下がりHP20、MP5程度のちゃちな回復力だ。
これに関しては、複数個使用しなければ戦局は変わらないだろう。
――くそ! 俺のせいじゃないが、言うのが恥ずかしくなってきた。
渋る俺を見て、カミルが腰のこんぼうに気付き、
「――フッ」
「おい、これは俺のせいじゃねぇぞ。笑うんじゃねぇ」
普通に笑うならともかく、鼻で笑われると無性に腹が立つ。
そしてそれを見たウルもケラケラと笑いだし、クラッドやリリアまでつられて笑い出した。
「ふっ……こんぼう…… こ、こんぼうなのじゃ! け、傑作じゃ! ひぃ……こんぼ――痛い!のじゃぁ……」
流石にここまでコケにされ何もしない訳もなく、憎たらしく悪意のある笑みを浮かべるウルに、ゲンコツをかました。
「付き合ってられん……俺は先に行くぞ」
ウルは頭を両手で頭を抑え、涙目になって悪態をついていたが自業自得だ。
俺はそれを無視し、残る通路へと進んだ。
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