19話 パーティの連携
目の前は4階層最深部、ボス部屋だ。
ダンジョンに転移した俺達は、すぐに攻略に取り掛かった。
というのも、4階層の雑魚に関しては地形の変化とモンスターのレベルが上がっているだけで、3階層とは大きな違いは無い。
4階層は森林を模していて、経験値特化ダンジョンと俺には区別がつかない。
森林の中に洞窟のようなものがあり、恒例の如くご丁寧に扉が設置されていて、ここがこれから攻略するボス部屋だ。
3階層で学んだ事をキチンと活かせば、ここまで辿り着くのは決して難しくない。
今回は俺も序盤から戦闘に参加した事もあって、誰一人傷を追うことなく、ここまで到達することができた。
リリアは勿論のこと、クラッドやウルも頭を使って戦うことができるようになり、今では立派な戦力となっている。
戦闘要員ではないカミルですら、雑魚とはいえ単独で撃破出来るまでに成長した。
「この先は1人でいくのじゃ!」
とまあ戦闘以外に関しては成長していない馬鹿が1人。
正直なところ、コイツが徹底的に対策を立て、上手く立ち回れば単独でも撃破できる可能性は十分にある。
だがそれを、今のコイツが出来るかと言うと答えはノー。ボコボコにされて終わりだろう。
「ウルちゃん、 そんな事ばっかり言ってると怪我しちゃいますよ?」
「ワシは強くなったから大丈夫なのじゃ! カッコよく決めたいのじゃぁ!」
「カミル」
この馬鹿の面倒を見る役割は、いつも通りカミルに押し付けよう。なんだかんだ言いつつ、あれからカミルにはよく懐いてるみたいだしな。
カミルは溜息をつき、嫌そうな顔をしながらもそれを引き受け、
「君が活躍できるのは周知の事実だが、その活躍を皆に見せた方がかっこいいと思わないか? 1人で倒しても、ずるしたと言われてしまうかもしれない。それは嫌だろ? ウル君」
なるほど、ああいう風に説得するものなのか。
これは勉強になるが俺の柄じゃないな。
それを聞いたウルはハッとした顔で、
「――ッ! カミルの言う通りじゃ! お主何故もっと早く言わない!」
この通り単純な奴だ。
盲点だったと言わんばかりの勢いで、もっと早く言えとカミルに八つ当たりしているのを見ると、不憫に思えるがこの中では1番適任なのは間違いない。
カミルの視線が痛いが、今はそれよりフロアボスを倒す事が優先だ。
「そういう事だウル。お前らここまで順調だからって油断するんじゃねぇぞ」
順調な時こそいつも以上に油断しやすい。
3階層に入った時のこいつらがそうだ。2階層に慣れて自分の強さを過信した結果、雑魚相手に苦戦していた。
単独攻略だったなら全員死でいたのは間違いない。
「大丈夫っすよクロードさん! 相手が弱くても全力で戦うっす」
いい心構えだ。ダンジョンなんて何が起こるか分からないんだからな。
俺も知識があるからと言って、ダンジョン攻略を甘く見た事はない。俺の知っている『seek the crown』と酷似しているだけで、細部まで同じなわけじゃなく若干仕様が変わっているから尚更だ。
「今回は説明しないぞ。新手の敵だがいつも通りに戦え。――行くぞ」
閉ざされた扉を開き、俺達はボス部屋に足を踏み入れた。
「オーク……?」
俺達を待ち受けていたのは一体のオークだった。
猪と豚と人を混ぜたような醜い姿だ。
人型ではあるものの、豚のように肥えていて豚の顔面に猪の牙が生えている。
清潔さとはかけ離れた存在なのか、糞尿にも似た悪臭が漂う。
「あれが今回のボスだ。見ての通りオークだが、ホブゴブリンなんかよりはだいぶ強い」
オークは俺達を確認すると、その場で咆哮し手にしている槍を振り回し、切っ先を向け構える。
豚の分際で生意気にも、胸と腹にプレートを、右腕に同じく鉄製の丸い盾を装備している。
「カミル、今回はスキルを使わないでくれ」
「――わかった。未知の敵への対応力をあげるため、か」
やはりこいつは頭が回る。なぜレアリティがこんなに低いのか理解できないな。
「クラッド、お前がメインの前衛だ。俺とカミルでサポートに入る。リリアは弓で援護、必要なら回復を使え。そしてウル、お前には記念すべき一撃目をくれてやる。ちゃんと
全員俺の指示にに応え、近距離に3人中距離に1人、そして遠距離に1人と陣形を組む。
こうしてみると、中々にバランスの取れたパーティになったもんだ。
そして、栄えある一撃目を担うウルは両手をオークに向け目を輝かせ、
「ワクワクするのぅ! やぁっとワシの出番が来たのじゃ。くらうがいいッ! 獄炎……獄炎……えっと、燃え尽きるのじゃぁぁ!」
一々技名を口にする必要はないのだが、コイツなりにこだわりがあるらしい。
最も、その技名すら未完成な訳だが。
オークは既にこちらに駆け出している。
しかし、それと同時にウルの掌の前に赤く光る魔法陣が展開。
即座に火炎放射が放たれ、全てを灰燼に帰すべく炎はその勢いを増し、迫るオークに襲いかかる。
「す、凄い火力っすね……」
クラッドの言う通り、火力はかなりある。
ただ、戦闘において大事なのは火力もそうだが、精度や駆け引き。そこら辺がウルの課題だな。
単純な直線的な動きの炎に対し、盾をかざす事によりそれを防いでいる。放射状に炎が軌道を変え、やがて霧散する。
だがそれでも、数メートル離れた俺の元にすら熱気が届き、肌がひりついたような痛みを覚える。
「クラッド!」
「わかってるっすよッ」
クラッドは炎が霧散する直前には、駆け出していて魔法を防いでいたオークは対応が遅れる。
真横から、掌で槍を滑らせるようにしての高速の刺突。狙いは首元。
避け切れないと判断したオークは、切っ先を自ら肩に刺すように倒れ込む。
肩に深く突き刺さり、辺りの緑を赤く染め上げる。
「動くなっす、よッ」
刺さった槍をそのままに、顔面へ向けた後ろ回し蹴り。
回避のとれないオークの顔面に直撃し、醜い鼻を潰し血液が垂れる。
だがオークは怯む事無く反撃の拳を振り上げ――。
「危ないッ」
クラッドの横っ腹に当たる直前、カミルがすかさず剣の腹でそれを受け止める。
鈍い音が響き、2人まとめて吹き飛ばされる。
「――全く、情けない」
2人の追撃しようと、迫るオークの前に立ち行く手を阻む。
オークは雄叫びを上げながら、その巨躯に頼った突進。
――のろいな。スキルを使うまでもない。
当たる直前に、ギリギリの高さで跳躍。
その間に墨月でプレートからはみ出た腹を、3度斬りつける。
深々と肉を斬り裂き、鮮血を散らす。
速度補正に重きを置いた武器だけあって、思った以上にスピードがでる。慣れるまでまだかかりそうだ。
オークは的をなくし、止まることも出来ずそのままの勢いで転倒。
「あとはお前らでやれ」
これ以上手を出すと意味がない。厳しいかもしれないが、今以上に成長してもらわないとあとが困る。
「――はい!」
立ち上がったオークに対し、リリアはすかさず弓を射る。
矢は軸足の太ももに命中し、既に数箇所負傷しているオークはたまらず膝を着く。
そこへ、先程吹っ飛ばされたクラッドが首を狙い、槍で薙ぎ払い。しかし、オークも自らの槍でそれを受け止め、火花を散らす。
「ワシもまだやるのじゃ! 今夜は豚の丸焼きなのじゃぁぁっ!」
退屈そうに見ていたウルが、2発目の魔法を放とうと魔法陣を展開。
「――ウル、全力でやっていいぞ。全員下がれ」
その言葉でカミルは、ある程度展開を予想出来たのか、焦った顔で拮抗していたクラッドを横から抱えるように飛びした。
クラッドは訳が分からないといった顔で、カミルにより連れ去られた。
ウルは俺から全力の許可が降りた事が、余程嬉しいのか満面の笑みを浮かべ、もう1つの黒い魔法陣を重ねる様に展開した。
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