18話 サポーター
翌朝、日課であるトレーニングを終えると、俺は全員を広場へ集め、今後の事について話しをすることにした。
俺の意見だけで決めるのが1番効率がいいが、今はまだコイツらをキャラクターとして割り切る事が出来ない。1人の人間として接するなら、その意見は最低限聞いておくべきだろう。
パーティメンバー以外の4人に、当たり前だが高レアリティのキャラクターはいなかった。
現状はR4が最高レアリティだ。課金もできず、ログインボーナス等もないゲームとして考えるなら、妥当なのかもしれない。
だがそれなりに良いこともあった。
他の4人は既にパーティを組んでいたらしい。
ハイツが死んで間もないが、アルタートの計らいだろう。
そのおかげで、一々全員の名前を覚える必要はなくなった。ゆくゆくは覚えなきゃ行けないが、今はそんな事どうでもよく、必要な人間だけ記憶していれば問題ない。
「お前がそっちの代表か?」
「ああ、俺はオリバーだ。数字は4……ああ、わかってる。良くない数字だ。4ってのは何かと縁起が悪い。ナンセンスだ。だけど、だけどだ。安心してくれ、俺の職業は重戦士。タンクだ。ハッハーッ! どんな攻撃からも仲間を守ってやるぜ。勿論完璧に、だ」
「なんじゃこのうるさいのは」
「ウルちゃん、しーですよ」
ほぼ初対面なのに、げんなりした顔で包み隠さず失礼な言葉を吐くウルを、リリアはすかさず下がらせた。
が、ウルの気持ちはよくわかる。
オリバーと名乗るのは肌の黒い大男だ。
スキンヘッドでイカつい見た目だが、陽気なやつらしい。
こういう吹き替えのような、わざとらしい喋り方のやつが実在するとは思わなかった。
体格もいいし、タンク役にはうってつけだが、同じパーティになるとうるさそうだ。
「……」
「おいおいおい勘弁してくれよ。仲良く頼むぜブラザー! スマイル、スマイが大切だ」
オリバーは相手にされないと分かり、両手を広げ口角を下げる。
何故かは分からないが、何となくこいつは苦手かもしれない。
「なんでもいいが、1つ提案がある。見たところそっちのパーティは、明らかな戦力不足だ。そこで、役割を分担したいんだが」
「分担? そいつは構わないが、俺達は一体何をすればいいんだ? もしそれが豚の世話だってんなら、そいつはお断りだ」
一々変な例えを入れないとコイツは喋れない病気なのか?
そもそもの話、ここに家畜の類はいない。本当に面倒な奴だな。
マシンガントークを展開するオリバーに、早速嫌気がさすも話を続ける。
「俺達がメインの攻略隊を担う。お前らはレベルが上がったら曜日ダンジョンや素材系のダンジョンに潜り、攻略隊のサポートをして欲しい」
メインダンジョンを攻略しながら、素材集めなどしていたら時間がかかりすぎる。
コイツらがその役に着いてくれるのならば、俺達もかなり楽できる。それにある程度レベルを上げてしまえば、特殊ダンジョンでの危険はほぼ無い。
人数が足りていないコイツらにとっても、そう悪い話じゃないはずだ。
トレーニング中に色々と考えたが、よくよく考えてみればなにも無理に戦闘用パーティにする必要もない。
浅い階層の内はサブパーティは必要ない。70階層まではある程度は覚えている。協力なサブを作るのであれば、30階層を超えたあたりからでいいだろう。
「……俺たちに、サポーターになれってのか?」
オリバーの表情は徐々に曇り始めた。
俺の予想だと、危険も少ないし素材にされるリスクもない。快諾されると思ったんだがな。
――地雷を踏んだか? 好戦的な性格だったのは予想外だな。
「――そいつはありがたいぜ! なにしろこっちは女子供に老人ときた。 ちょっとばかし不安だったんだ! あ、あんた達に文句があるわけじゃないぜ?」
どうやら俺の勘違いだったようだ。
農家らしい少女に、ドワーフのような偏屈そうな老人。それに、どこかのお嬢様っぽい女。
アルグの件があるから、貴族の類にはあまりいい印象はないが、同じパーティという訳でもないし、絡む機会は多くはないだろう。
確かにオリバーの言う通り、見た目で判断するなら少しばかり頼りないのは事実。
それもそのはず、めぼしい連中は最初の段階で俺のパーティに入れたからな。必然的に残ったメンバーはそうなってしまう。
オリバーは、了承するも他のメンバーの視線に気づいたのかフォローに入る。
「そうか、なら話は早い。まずは2階層でレベル上げをしてくれ。その後慣れたら次の層へ。俺達もなるべく早く特殊ダンジョン機能を解放する。ただ、今入れる経験値特化ダンジョンには暫く入らないでくれ」
「オーケイだ。あんたはどうやらここに詳しいようだし、指示に従うとするよ」
日に1度しか入れない経験値特化ダンジョンには、俺たちが優先的に入った方がいいだろう。
それにどの道、こいつらの戦力じゃ厳しそうだしな。
話し合いが終わり解散しようとすると、オリバー組のお嬢様が前に出て、何やら文句を言いたげに頬をふくらませている。
「――ちょっとッ! 何勝手に決めてんのよ! フィオナはそんなこと許してないんだけど? アンタ何様のつもり?」
リリアの薄い金髪とは違い、黄色に近い髪を縦に巻いたツインテールの典型的なお嬢様は、中身までそれになぞっているらしい。
それにこれは持論だが、こういう代表同士の話し合いの場で、しゃしゃり出てくる上に自分の事を名前で呼ぶ奴はあまりまともじゃない。
「お前には話していない。文句があるならオリバーに言え。オリバーからの申し出があるならその時は考えよう」
「――本ッ当、何様のつもりよッ! ちょっとオリバー! アンタもアンタで何勝手に決めてんのよ! 」
キャンキャンよく喚くガキだ。これからオリバーも苦労しそうだな。
フィオナはターゲットを俺からオリバーに変更し、甲高い声で暴言を吐いている。
オリバーはあまり気にしていないのか、笑ってそれをなだめようとしていた。
「――行くぞ」
これ以上いる必要も無いので、俺はリリア達にそう言ってその場を去ろうとしたが、
「あっ! ちょっとアンタどこ行くのよ! もどってきなさいよっ!」
などとフィオナに呼び止められるも、それに応える訳もなく無視することにした。
それに対しまたギャーギャー喚いていたが、後はオリバーに任せよう。
「嵐みたいな女っすね……」
「私も、あれと一緒のパーティになるのは気が引ける」
クラッドとカミル、主に男性陣からフィオナはボロクソに言われていた。
フィオナは見た目だけで言えば、整っている方なのでクラッド辺りは気に入るかと思っていたが、どうやらそれも違うらしい。
「クロードさん、今日はどうします?」
「そうだな、3階層も特に苦労しなかったし、4階層に挑んでも問題ないだろう」
若干の不安はあるが、3階層ではコイツらもそれなりに色々と学んだはずだ。
それにもし何かあれば、俺が助けてやればいい。
今の俺の総合的な能力値は7階層相当だろう。だが、無理して死んでは元も子もない。今はまだ慎重に攻略をするべきだ。
「ひゃあー! 次こそワシがボスを倒せるのじゃな! 楽しみじゃのぅ! ワシの魔法でイチコロなのじゃ!」
ウルは前回俺が単独でボス攻略をしたことに対して、憧れを抱いているらしく、トレーニング中にやたらとボスと戦いたいとせがんできた。
「どうだかな。まあやってみればいい」
ため息をつき、ウルを軽くあしらうと、
『やあやあ諸君! 次の攻略をするって話を聞いたんだけど、本当かい?』
タイミングよく、突然アルタートが俺たちの前に姿を現した。
丁度コイツに用があった訳だが、盗み聞きしていたのには感心しない。
「今決めたばかりだけどな。まあいい、ダンジョンに送ってくれ」
『勿論だよ! じゃあ今日も頑張ってねー!』
満面の笑みを浮かべ手を振るアルタートを最後に、俺達は4階層へ突入した。
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