17話 レアリティアップ条件

支援施設に戻ってきても、ハイツは震えながら未だ念仏を唱えていた。

変わったのは脚が治った事くらいか。


広場で2人きり、片方が丸まって怯えるようにしていると、まるで俺が虐めっこのように見える。


『君が勝ったみたいだね!おめでとー!』


アルタートは俺たちを待っていたのか、勝敗が分かっていたのか、含みのある笑顔を浮かべ出迎えた。


「当たり前だ、こんなのに負ける訳ないだろ」


もしかすると、この決闘はコイツの思惑があったのかもしれない。

まあ何にせよ、勝ったのは俺だ。


『じゃあハイツをに何を要求するか教えてよ!』


勝者の特権か。色々と考えたが、今後の事を考えると答えは必然と決まっている。

一瞬ハイツに目をやる。コイツに同情の余地は無い。


「――俺に合成しろ」


それが聞こえたのか、一瞬震えが止まった気がした。

だがそれでも、羞恥心からか分からないが顔を上げることはなかった。


まあ確かにあれだけ啖呵切って、ボロ負けしたんじゃ英雄もクソもあったもんじゃない。


アルタートはいつも通り俺の肩に止まり、


『あれだけ素材にするのを嫌がってたのに何があったの?』


決闘なんてくだらない事をしなくても合成自体はできる。コイツの言う通り、前回それを俺は断っている。

正直なところ今でもあまり気は進まない。

コイツの自我など俺の中に残る物は一つもないが、生理的に受け付けない。


「残しておく訳にも、他のやつにぶち込む訳にもいかないだろ。勝者なりの責任ってやつだ」


『そっか!わかったよ!じゃあ早速やっちゃおーか!』


そう言ってアルタートはハイツの肩に飛び移ると、


「や、やめろ……やめるんだ。僕がいなければ……英雄が居なければ君の願いは叶わないんだぞ。考え直すべきだ!そ、そうだ、こいつを僕に合成すれば僕はより一層高みへ行ける!それがいい!そうしないかアルタート」


最早恥もプライドもかなぐり捨て、ハイツは生き延びようとしていた。

だがそんな都合のいい展開などある訳がないのは、アルタートの冷たい視線が物語っていた。


『君は決闘に負けたんだよ。諦めなよ、みっともないよ』


これ以上無いくらい優しい言い方だが、その目は笑っていない。普段ひょうきんなアルタートの珍しい一面を見れた気がする。


そしてアルタートはハイツの頭に手を伸ばし――。


「こんな所で……こんな所で英雄たるこのぼ」


『はい! おしまい! さよなら英雄くん!』


言っている途中でハイツは、装備を残して消えた。


ハイツが消えたと同時に装備が地面に落ち、金属音が響いた。アイツが装備していたのは黒い短剣と、気持ち程度の防具、それと金色の指輪だった。


3階層で俺は腕輪をドロップしたが、指輪や腕輪は希少性が高い。低レアリティでも、そこそこ役に立つ。後で纏めて整理しよう。


「お前、最後くらい言わせてやれよ」


不謹慎かもしれないが、失笑してしまった。

愚か者のアイツらしい最後だったな。


『いいのいいの! どうせまた長々と話すんだから! それより、君の方は準備はいいかい?』


無邪気に笑うが、言っていることはそれなりに残酷な内容だ。

コイツの言う準備とは、勿論合成の件。


「ああ、さっさとやってくれ」


『おっけー!いっくよー!』


そう言ってアルタートは俺の手を握った。


【R5ハイツをR4クロード・ラングマンに合成します】


【合成大成功!獲得経験値が50パーセントアップします】


【R5ハイツの魂がR4クロード・ラングマンに吸収されました】


【経験値300獲得 R4クロード・ラングマンがレベルアップしました。スキルポイント5獲得】


【R4クロード・ラングマンのレアリティアップ条件を1つ満たしました1/4】


大量のウィンドウが出現し、無事合成は完了した。

あんな奴でも俺よりもレアリティが高かったおかげで、R5にレアリティアップする近道になったな。


レアリティアップとは文字通り、合成元のレアリティがアップする。

条件はレアリティによって変化するが、俺の場合格上を素材にすること、進化の巻物×10、10階層の攻略、そしてレベル上限に達することの4つだ。


進化の巻物は曜日ダンジョンで獲得出来る。

今の合成でレベルが7になった俺は、あと13――つまり20まで上げなければならない。


レアリティによってレベル上限は基本的に10増える。基本的と言うのは最高レアリティのR10に到達すると上限は99まで解放される。

これ以上のレベルも存在するが、まだまだ先の話だ。


『大成功してよかったね! それにこれで平和になったわけだ!』


経験値が増えると言うだけだが、ないよりはいい。

それがハイツと言うのが皮肉な事だが。


「そうだな。似たような奴はその内出てくるかもしれないが、現状の人員を無駄にすることはなくなった」


『うんうん! 僕も助かるよ!』


「疲れたから俺はもう戻るぞ」


武具の回収をきっちり行い、手を振るアルタートを無視し自室へと向かった。


自室に辿り着くと俺は紅茶を注ぎ、椅子に乱暴に腰掛けた。

相当疲労が溜まっているのか、身体が重い。

トレーニングから始まり、3階層の攻略。ここまでなら大した負担にならなかったはずだが、その後の決闘でかなり体力を使った気がする。


1日で色々ありすぎた。

そして残念な事にまだやる事は山のようにあった。


「まずは人員の整理から、か……」


いま支援施設にいるのは俺のパーティメンバー5人と、ハイツの所の生き残り1人、そしてそこからあぶれた3人の合計9人。


メインパーティを俺が率いると、残りの4人。

4人編成のパーティにしてもいいが、戦力的にダンジョンに行っても死んで終わりだろう。


生産職が居るならいいが、いない場合はテコ入れが必要か。

最悪、リリア達4人はそのままに、残りの新人を俺が纏めて面倒見ることになりそうだな。


まあこれは明日以降に、直接会ってみて決めないと考えてもキリがないな。


次にアイテムと装備品の分配か……。


――ウィンドウ。


ウィンドウを出し、アイテムボックスを確認すると、今まで使っていなかったアイテムがかなりあった。

俺1人ならどれだけ楽な事か。


【身代わりの人形×1 力の種×1 資質の葉×5 資質の種×20 ゴブリンの傷薬×4 木材×3 経験値の書(中級)×1 経験値の書(低級)×10 】


「経験値アップの類は、慎重に使わないと後悔しそうだな」


種系はまだ機能が未開放で使いようがないし、資質の葉に関しても少なすぎるからスルー。

ここは今弄らなくてよさそうだな。


装備品に関してハイツのお下がりがメインか。

今余っているのは、R3ゴブリンジェネラルの腕輪、R4墨月、R2貴族の指輪の3つだな。

他にもあるがゴミ装備すぎる。


ちょうど短剣を欲しがっていたところに、この墨月が手に入るとは好都合だが、レアリティが下がるが、


攻撃力+5、速度+10ならまあ問題ないか。


――火力はかなり下がるが、その分速度補正がかなり高い。火力はスキルと腕輪でカバーしよう。


MP補正がある指輪は回復要員のリリアにでも付けさせるか。


この作業がこれから延々と続くとなると、胃が痛い。

他のやつに任せたいところだが、権限が俺にある以上簡単に受け渡す事もできないし、まいったな。


「そろそろ休まないと明日がキツイな」


俺は自分の装備を変更だけして、今日の作業を終える事にした。

残っている紅茶を飲み干し、ベッドへ寝転ぶ。

身体を酷使したせいか、いつも以上に寝るまでに時間はかからなかった。


【ステータス】

名前:クロード・ラングマン レベル:6→7

職業:無職 疲労:79

称号:憤怒の虐殺者

装備:R4墨月(耐久値27/40 )

HP: 150/150→106/180(+10)

MP: 20/20→25


攻撃力33→36(+20) 防御力22→25(+5)

魔攻16→21(+5) 魔防15→19

速度19→21(+10) 回避10→12


称号:憤怒の虐殺者

攻撃力+10 防御+5 魔攻+5


R4墨月

攻撃力+5 速度+10

R3ゴブリンジェネラルの腕輪

HP+10 攻撃力+5

スキル 剣術Lv2 王の資質Lv1

スキルポイント20

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