15話 ゴルイオスの呪い


「てめぇ、また殺りやがったな? 英雄だかなんだか知らねぇが、てめぇのやってる事はただの快楽殺人だ。下らねぇ行いに、下らねぇ理由をつけただけだ」


さっきまで、すかしていたハイツの顔が段々と歪んでいくのがわかる。目は泳ぎ、唇を血が出る程噛んでいる。

コイツは承認欲求の塊だ。けなせば馬鹿みたいに反応してくる単純な奴だ。


「まだわかんねぇか? お前は、ただの、異常者だ。 英雄なんかには逆立ちしたってなれねぇよ」


ふと、禍々しい雰囲気を醸し出し、ハイツがうつむきながら無言で立ち上がる。


――かかったな。


「き、君はどこまで僕を侮辱すれば気が済むんだ。黙って聞いていれば、快楽殺人? あんな、あんな下劣な行為と一緒にするなッ! 」


顔を上げると見開いた眼が、不気味にギョロりを動き俺を捉える。

アルタートは、あわあわして物陰に隠れひっそりと行く末を見守っている。


「一体何が違うんだ? 教えてくれよ、このキチガイが」


「僕は英雄だ。それがわからない君こそが異常者なんだッ! アルタート!僕はこいつを許せない。僕を馬鹿にしたこいつをッ!」


目が血走り完全に冷静さを失っているハイツは、隠れているアルタートに向け怒鳴り散らす。

アルタートは一瞬肩を揺らし驚いて少しだけ顔を出し、


『そんなに大きい声を出さないでよ!わかったよ、君達2人で決闘でもすればいい! 負けた方が勝った方の言うことを聞く、これでどうだい? 素材にするも、土下座させるも、殺すも勝者の自由だ!』


そんなシステムは全くないが、ダンジョンに入ればそれは可能だ。

今いる支援施設ではお互いを攻撃することは出来ない。それはトレーニングルームでも同じだ。

俺達が攻撃という手段を取れるのは、ダンジョンに潜っている時のみ。


俺としてはダメージは通らないが、この場でやっても構わない。ひたすら殴り続けて精神を壊してやれるしな。


「いいぜ。ただ邪魔が少ない2階層にしてくれ。モンスターの数が多いと、コイツとモンスターを見間違えちまうかもしれねぇからな」


俺は後半を強調して、わざとらしくハイツを指さした。

変に高難易度のダンジョンだと、モンスターだけでも一苦労だ。だがこれでその心配もなくなった。


ハイツは既に血管が浮きでて、言い返すことも出来ずに怒りを溜め込んでいる。こんなレベルの低い煽りで冷静さすら保てないとは、つくづく馬鹿な奴だな。


『うん!じゃあ一時的にパーティを変えるね!』


これから決闘するとはいえ、こんな奴とパーティを組む日が来るとはな。

アルタートはウィンドウを操作し、


【パーティ3が編成されました】


『それじゃあ行ってらっしゃい!』


その声と共に俺達は2階層へと転移した。


【2階層へ侵入しました。クリア条件:フロアボスの討伐】


2階層は荒れ果てた荒野だ。

どこまでも続く荒野の先は見えず、ただひたすらに続いている。

枯れた木が多少生えているくらいで、かなり殺風景だ。


遠くにゴブリンが見えるが、一定の距離まで近付かない限り襲ってくることはない。


クズ野郎との決闘にはお似合いの舞台だ。

こんな奴に負ける気はしないが、カインズの件もある。油断はできない。

ハイツは既に黒い短剣を既に抜き、構えている。


「英雄たる僕がッ! 僕こそが正義なんだ。今こそ正義を執行する時だ。君みたいな邪悪な人間は英雄の僕により断罪されるべきだ。嬉しいだろ? 虫ケラみたいに存在する意味が無い君もこれでやっと意味ができたね。 英雄の糧にな」


「よく喋る奴だな。――さっさとかかってこい」


「どこまでも馬鹿にしやがってェェェッ!」


叫びながらハイツは姿勢を低く走り出す。

左腕を腕を振りあげ、薙ぎ払うように俺の顔面目掛けて殴りつける。

左腕を顔の側面にあげガードすると、それを読んでいたのか、そのまま振り抜きその勢いを利用して旋回。

短剣を俺の首元目掛け突き刺す。


が、すかさず首を引くことでそれを回避。


――なるほど。こいつはR3の動きじゃない。あのスキル・・・・・で誤魔化してやがったか。カインズがやられる訳だ。


「死ねッ!早く死ねよ虫ケラがァッ」


短剣を振り回すも、かすりもしない。

速度も威力も中々悪くないが、この程度は造作もない。


「おらどうした。俺はまだピンピンしてるぞ」


俺はひたすら回避に徹する。

攻めに回ってもいいんだが、力の差を思い知らせてやるためだ。

レベル差と称号のおかげで、コイツは本来のレアリティによるアドバンテージを失っている。


それに気付きもしないで俺の事を格下だと思っているようだ。

右脚の上段蹴りが迫る。

それに対して同じく上段蹴りで返す。


鈍い痛みはあるが、大したことは無い。


「――お前ェェェッ!」


わざと真似した事に気付いたのか、更に激昂する。

冷静さを取り戻さないと話にならないのに、それと逆の事をするとは愚かな奴だ。

左腕を振り上げ力任せのテレフォンパンチ。

段々飽きて来た俺は、避けずに迫り来る拳を掴む。


皮膚をはたくような音が響く。

拳を鷲掴みにし、ハイツの耳元で――


「おい、お前まさかこの程度で俺に喧嘩売ってたのか? まだ隠し球があんだろ、だせよ。じゃないと――死ぬぜ、お前」


これは俺の親切心だ。こんなあっけなく終わられても、お仕置にならないからな。

ハイツは血管が破裂しそうな位浮き出ている。

堪えているのかなんなのか知らないが、歯を食いしばっている音が聞こえる程だ。


「うるッさいなァッ! お前は何も分かっちゃいない。英雄はピンチを乗り越えていくんだよッ! そのピンチを演出しないで勝ってもかっこよくないだろ! 一々一々指図しやがって。いいさ、本気をだしてやる……僕の本当の力を……」


「ハッ、なにを大層な事を言ってるんだお前は」


俺はその演出とやらを手伝ってやる事にし、わざわざ掴んだ拳を離した。

ハイツはその瞬間、バックステップで数歩の距離をとる。


「馬鹿だな、今のが僕を倒す最後のチャンスだったのに。自惚れたな? クロード・ラングマン」


「お前みたいな雑魚に自惚れない奴が居るわけないだろ」


「好きなだけ言えばいい。お前はもう終わりだよ。このッ!僕のスキル――」

「――ゴルイオスの呪い」


「――は? なんで……」


ハイツが口にするはずの言葉が、俺の口から出た事に驚きを隠せないのか、口が空いている。

信じられない、とでも言いたげな表情だ。


自分だけが知っているはずのスキルを、俺が知っているんだからな。驚かない方がおかしい。

ゴルイオスの呪いとは、主にプレイヤー同士の対戦時で役に立つスキルだ。


常時発動している能力と、スキル使用による能力の2種類がある。

前者は基礎ステータスが常時30パーセント下がり、レアリティ表記もマイナス2で表記される。


そして後者だが、これが中々に壊れている。MPを使用するが発動すれば、基礎ステータスが30パーセント上昇した数値に変化する。

つまり基礎ステータスはあるが、それで戦闘することが出来ない。プラスかマイナスの状態だけだ。


何故役に立つかと言うと、相手を油断させることができ、マイナス値からのステータス上昇が半端じゃないので多少格上とも問題なく渡り合えるからだ。

そしてコイツが今それを発動すれば、ステータスはマイナス値である現状の約1,86倍に跳ね上がる事になる。


流石にこのまま・・・・だと厳しいな。


「カインズの件とお前の動きですぐに分かったさ。低レベルのR3にそんな動きはできないからな」


「な、何を言っているんだ……何故知っているッ! 僕の……僕のユニークスキルだぞ」


――何を勘違いしてるんだコイツは。『seek the crown』のユニークスキルは最高レアリティしか許されていない。こんな奴がユニークスキルとは笑わせてくれる。


「お前のそれは、ただのスキルだ。ユニークでも何でもねぇよ。ほら、いいから解放しろ」


「虫ケラの分際でェ……だけどわかった所で差は埋まらないぞ。後悔するといい――」


【R3ハイツのスキル:ゴルイオスの呪い発動により、レアリティがR5に変化します】


【R5ハイツのステータスがアップしました】

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