14話 興味深い話
【R5復讐者の剣の耐久値が1上がりました】
「よかった、この小技も使えるな」
アイテムボックスの権限を貸与されてから俺は、新機能である『鍛冶場』に来ていた。
鍛冶場と言っても、生産職の人間がいない今は最低限の『溶解』しかできない。それをした所で武器を失うって終わりだ。
中は職人が好きそうなシンプルな作りで、炉の他にあるのはそれに使用するハンマーなどの道具一式位だ。
とてもじゃないが、自分で鍛冶について学ぼうとは思わない。
通常、武器の耐久値を上げるには同じ武器同士で合成して強化する以外に方法は無い。
これも厳密には耐久値を上げると言うより、別のものにしているだけなんだが。
俺が持っているのは『鉄塊×2』のみ。
これだと、最底辺レアリティの武器生成すら出来ない。そして勿論、俺が使っている復讐者の剣は1つしかない。
じゃあなぜ来たか。それは今やった小技のためだ。
バグなのか仕様なのかは不明だが、鍛冶場で武器と鉄塊などの素材アイテムを捨てると、耐久値が若干回復する。
武器も捨てたはずなのに、素材だけ消えて耐久値が上がっているのだ。何故こうなるのかよく分からないが、俺は小技として活用していた。
俺はたまたま操作ミスでこの小技を発見したが、他に知っている奴がいると言う話は聞いたことがない。
基本、武器は使い捨てなので高レアリティの武器などは、ボス戦まで使わないでおくのが常識。
ただこの方法はその常識を覆せる。
武器不足になる心配もないし、優秀な武器が壊れることも無い。
この小技が出来ることを確認できただけでも、かなり進めやすくなった。
「流れで剣使ってるけど、短剣とかの方が使いやすそうだな」
こんぼうよりは全然マシだが。
――思った以上に3階層が早かったから時間が余ったな。トレーニングルームでもいくか?
そう思い、鍛冶場を出ようと扉に手をかけると、俺が触れる前に扉が開いた。
カミルだった。コイツは学者だからここには用は無いはずだが、新機能の様子見と言ったところか。
「――カミルか。俺はもう出るところだ。お前も様子を見に来ただけだろ? 見ての通り、ここには何もない」
「いや、君を探していたんだ。少し興味深い話を聞いたので、一応耳に入れといた方がいいと思ってね」
カミルをヒゲを触りながら、妙に真面目な表情で言った。わざわざ俺を探し回るくらいだ、何かあったのだろう。
「――話してくれ」
「パーティメンバーが死亡したらしい。それも3人もだ」
「――なんだと? それは確かか」
「管理者に確認したから間違いないはずだ。――何か、知っているようだね」
――アルタートに確認しただと? あの野郎、俺には何も言わなかったぞ。舐めやがって。
間違いなくあいつの仕業だ。俺はハイツの異常性について、他のやつに話してはいなかった。
関わらせるつもりもないし、アイツに絡んで刺激しても面倒になるからだ。
「多分な……その件は俺に任せてくれ。明日には片付いてる」
「そうか。クロード君、決して無理はするなよ」
カミルはなにか勘付いたのか、少し悲しそうな表情を浮かべ鍛冶場から出ていった。
カミルはいい情報を持ってきてくれた。
クズ野郎の暴走を知らないまま放置していたら、こっちにまで飛び火する可能性がある。
トレーニングルームで一汗かいてから眠ろうとしていたところだ、丁度いい。
「――おいたが過ぎたな」
俺はまず、ハイツではな再びアルタートを問いつめる事にした。ハイツもハイツだが、それを知ってて わざわざ隠したアイツの言い分も聞いてやろうじゃねぇか。
俺は鍛冶場をでて、まず宿舎へ向かった。
流石にいるとは思ってないが、鍛冶場から1番近かったので念の為といったところ。
自室のドアを乱暴に開け中を確認する。
が、案の定俺の部屋にもアルタートの姿はなく、先程と同じように極小のマグカップがテーブルに置かれているだけだった。
「流石にいねぇか。いたらいたで別件で殴ってる所だったけど」
次に向かったのは広場だったが、遠目から見て居ないのを確認できたため、そのままトレーニングルームへ向かう。
よく考えると、アイツはダンジョンを入るでもトレーニングする訳でもなく、プラプラと飛び回ってるだけだが寝る場所などはあるのだろうか。
データ上の存在と言えばそれまでだが、そのデータ上だった世界に今俺はいる。
そもそも俺のいるこの世界は、どういう原理で誕生したのかわからない。
ゲームだからで割り切れる部分が現実に起これば、割り切れないのは、当然。
トレーニングルームに入ると、夜も遅いと言うのに未だリリアは汗を流しながらトレーニングに集中していた。
こいつは今、弓を射っている。
なるほど、回復と援護を同時に行う気か。
レアリティは俺と同様高くは無いが、やはり有能なやつだ。
まだまだ先の話になるが、その内レアリティもあげてやった方がいいな。
その合成素材が確保出来れば、だが。
「お前、まだやってたのか。少しは休んだらどうだ」
リリアは返事をせず、25メートル程先の的を睨み、弓を引いている。
以前、ちらっと読んだ文献には戦国時代などでは、100メートル程の距離から弓を撃ち合っていたらしいが、ダンジョンではそのスキルは必要ない。
10メートルでも充分だが、この距離で慣れればいずれある防衛戦などで大いに活躍するだろうな。
呼吸を整え、少し揺れていた腕がピタリと止まる。
そして、引いていた指を離すと――。
ど真ん中、では無いが的の端には命中している。
昨日今日始めたにしては、かなりセンスがある方だな。
「クロードさん。もう休もうと思ってたところですよ。それよりクロードさんこそ、なんでこの時間に? 倒れちゃいますよ」
リリアは額の汗を拭って弓を置いた。
「いや、俺はアルタートを探しに来たんだ。見かけて……なさそうだな」
「ここでは見てませんね。一緒に探しますよ!」
どうやらここにも居ないらしい。
そういえばアイツ、他のメンバーに話があると言っていたな。
それがサイコ野郎なら話は早い。
が、リリアが居ると話の根幹を隠さなければないない。
申し出はありがたいが、
「大した用じゃないから、その必要はない。お前は明日に向けて休んどけ」
それだけ言い残し、不満を垂れるリリアを置いて再び宿舎へと足を運ぶ。
こんなことなら最初からハイツに直接話をするべきだった。無駄な時間を過ごしたな。
宿舎へとたどり着き、俺は今ハイツの部屋の前にいる。
表札にはハイツとだけ書いてあるが、文字を見るだけでも腹立たしい。
俺はノックなどする訳もなく、そのままドアを力の限り蹴飛ばし強引に開けた。
鍵がかかっていようが、開いていようがそんな事はどうでもいい。
勢いよく開かれたドアが壁に激突する音が響く。
その音でこちらに視線を寄越したのは――。
「よぉ、探したぜアルタート。てめぇ何のつもりだ?」
アルタートは、ハイツの件を隠していたのが後ろめたいのか視線を逸らしながら、
『な、なんのことだい。僕は君が怒るようなことはしてないよ!』
――チッ。白々しい奴だ。
「――君か。ドアの蹴り飛ばすなんて教養の欠片もないね。何の用だい? クロード・ラングマン」
「今お前には話していない。後で聞いてやるから黙ってろ」
コイツは本性を隠す気もないのか、偉そうな態度でこちらを見る素振りすら見せない。一々癇に障る野郎だ。
「てめぇコイツの事知ってて黙ってたなお前。このサイコ野郎に肩入れでもしてんのか?」
『君に言ったところでこうなるから黙ってたんだよ! 』
アルタートはブンブン飛び回り、俺の顔の前で指をさして言った。
「黙ってたらもっと面倒になるとは思わなかった訳か」
あの時知っていれば、ここまでアルタートに対して腹を立てることもなかった。
コイツとはこの先も、信頼関係を築いていける気がしないな。
『そ、それは……』
「そんな事は外でやってくれないか。 ここは英雄である僕の部屋だ」
言葉に詰まるアルタートを助けるように、ハイツはまた口を挟んだ。
そして、ようやくこっちを見たかと思えば言うことは愚劣極まりない。
テーブルに脚を乗せて、偉そうにふんぞり返るハイツを見ていると、無償に殴りたくなってくる。
――英雄だと? 生意気な。まだそんな下らねぇこといってやがるのか。こういう奴にはお仕置が必要だな。
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