13話 元プレイヤー


【3階層クリアおめでとうございます。『支援施設』の1部の機能が解放されました】


戻るやいなや、目の前にはウィンドウが現れ新機能の追加を知らせた。


行かなくてもわかるが、そこは今後の攻略でかなり重宝する施設だ。

このようにダンジョンを攻略して行くと、新たな機能が追加されていく。

1桁の階層は、チュートリアルの延長くらいに思っていた方が妥当かもしれない。


こうして3階層をクリアしたが、まだまだ数多くの機能が未開放のはずだ。


「これはなんのことっすか?」


「行けばわかる。俺はやる事があるからお前らは自由にしていいぞ」


言い残し、俺は宿舎へと帰った。

別に寝るわけではないが、アイテムなどの事についてアルタートと話がある。


他のやつに聞かれる訳にはいかないからな。


宿舎へ入るとアルタートは勝手に入ったのか、テーブルに座り込み、極小のマグカップで呑気に紅茶をすすっていた。


『うーん、やっぱり紅茶は最高だね!』


これは、完全に俺に気づいていない。

紅茶好きなのか、ただの馬鹿なのか知らないが顔が緩みきっている。


「――おい。なんでお前がここにいる。勝手に俺の部屋に入るな」


俺の声に驚いたのか、肩を大きく跳ね上げマグカップを倒しかける。

この極小マグカップは一体どこから持ってきたのやら。


『うわぁ! びっくりした!』


「びっくりしたのはこっちのセリフだ。どけ」


ただでさえ狭いのにコイツがいるとサイズ以上の圧迫感を感じる。

アルタートを人差し指と親指で摘み、ベッドに放り投げた。


『あ、あぶないじゃないか! 僕は管理者なんだからね! もっと丁重に扱うべきだよ』


「そんなの知ったこっちゃねぇ。それよりなんで俺の部屋にいる」


丁度俺もコイツに用があったが、管理者と言えど勝手に入られるのは気に食わない。

だいたい勝手に入って、なに呑気にくつろいでやがる。常識というのがないのかコイツには。


『そうそう忘れてた!君にいいお知らせがあるんだ!』


「いいお知らせ?」


ベッドで嬉しそうに転がりながら、目を輝かせている辺り、それはコイツにとってもいい事らしいな。

俺は自分用に紅茶を入れながら、色々と記憶をさかのぼってみたが、この段階でそこまで大きな変化はなかったような気がする。


『うん! 僕の管理者レベルが2に上がったんだ!』


ああ、そういえばそんなシステムもあった気がする。

ダンジョン攻略に関して、貢献度が一定に達すると管理者のレベルがあがるんだった。基本過ぎて忘れていた。


ファンタジー系RPGなどで、よくギルドなるものが採用されるが、例えるならそれに近い。


「そうか。2になったのならショップが開かれたか?」


『もー! なんで先に言っちゃうのかな! まあでもその通り! 大したものは買えないけど、攻略には役に立つはずだよ!』


ショップ、か。本当に大した物は揃ってないが、多少なりとも役に立つのは間違いない。


「で、今は何が買えるんだ?」


『ちょっとまってね!』


アルタートはウィンドウを表示させ、ショップの開き始めた。

そこには8種類ほどアイテムが売られていたが、今現在の銀貨の総数は3200しかない。


これで買えるのは、


『鉄塊しか買えないね!』


「そうか、ならそれを買っといてくれ」


『わかった!』


アルタートはポチポチとウィンドウをタッチし、鉄くずを購入した。


【銀貨3000を消費し、鉄塊×2を購入しました】


『こんなもの何に使うんだい?』


不思議そうな顔をしているが、それも無理はない。

俺がこれからやろうとしている事は、あまり知られていない内容だからな。

しかも、タイミングもいい。


「後でのお楽しみだ。それと、俺もお前に用があったんだ」


『ん? なんだい?』


ベッドの端でバタバタと脚を揺らす。

さあ、コイツはどうでるか。


「――お前の持つ権限の1部を俺に譲渡することは出来ないか?」


『んー、どうだろうね。この間僕に帰属したものなら出来るかもしれないね!』


多少警戒されるかと思ったが、どうやらその心配は要らなかったらしい。

中々ぶっ飛んだ事を言ったつもりだが、アルタートの表情や仕草などは、先程と何一つ変わっていない。


もし、権限の譲渡ができるならば、この先面倒な事が一気に減る。

正直な所、いくつか欲しい権限はあるが欲張って機嫌を損ねるのも馬鹿らしい。


最優先事項は決まっている。


「アイテムボックスの閲覧と、それの使用の権限が欲しい。いちいちお前に頼んで使うのは、お互いにめんどくさいだろ」


『うん! いいよ! ちょっと調べてみるね!』


――やけにあっさり承諾したな。だが本来は『馬渕 翼』にあった権限だ。見方を変えればそれが帰属しただけだし、問題は無いのか?


アルタートは先程と同じ要領で、ウィンドウをポチポチしている。

あれに検索機能などは無いはずだが、そこは管理者特有のものなのか。


15分程待ったろうか。その間に紅茶は無くなってしまった。


『うん、出来るみたいだね!ただ、譲渡じゃなく貸与になるみたい!』


ウィンドウを閉じ、俺の周りを忙しなくぶんぶんと周りながら言った。


「そうか、なら早速やってくれ。鍛冶場が解放されたはずだから、そこで試したいことがある」


鍛冶場、というのは先程解放された機能だ。

まだ確認はしていないが、順番的には鍛冶場だろう。


『そう言うと思ってやっておいたよ! 念じればウィンドウが出るはずだからやってみてよ!』


気が利くやつだ。どうやらコイツは、本当にダンジョン攻略以外は頭にないらしい。

元は違うが管理者権限の内の一つを、こうも簡単に手放すなど正気の沙汰じゃない。


それも俺が元ランカーだから、という理由のおかげだろうけど。


物は試しで、俺は早速言う通り念じてみる事にした。


――ウィンドウ。これでいいのか?


すると――。


「本当に出やがった。一体どういう仕組みなんだか」


『それは僕にもわからないなあ』


言われた通り、念じるとレベルアップの時などでお馴染みのウィンドウが出現した。


権限がないからかどうか分からないが、『アイテムボックス』しか表記されていない。

それにいつもの文字と違い、うっすら光っているのはタッチ出来るということだろうか。


俺は恐る恐る、見よう見まねでタッチすると今まで取得したアイテムが一覧で表示された。

ウィンドウは使っている感じ、スマホに近いな。


試しに先程の『鉄塊』をタッチし『取り出す』を押してみた。


すると、目の前に1キロ程のインゴット型の鉄塊がポンっと軽快な音と共に現れた。


「こういう感じなのか。しまう時はどうすんだ?」


鉄塊を手に取ると、ずっしりとした重みを感じる。

そして俺が触れた瞬間、鉄塊の横に小さなウィンドウが現れ、そこには『収納する』『使う』『捨てる』の3つの選択肢が表示された。


「なるほどな。便利なもんだな」


持っていても仕方ないので、とりあえず『収納する』を押すと、出てきた時と同じ軽快な音と共に視界から消えた。これで収納出来たらしい。


『大丈夫そうだね! じゃあ僕は他のメンバーの所に行くから! またね!』


俺が返事をしようとすると、既にアルタートの姿はどこにも無かった。


「――おい、このちっちぇマグカップどうすんだよあいつ」

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