11話 ワシは偉くて凄いのじゃ!

「な……な、なにをするのじゃぁッ! ワシの奥義でカッコよく決めるとこだったのじゃぞ! この阿呆! 馬鹿! おたんこなす!」


「きゃんきゃん喚くな、頭に響く。お前はもう少し頭を使え」


ポカポカと殴ってくるウルは、甲高い声で俺を罵倒する。

俺は説教するつもりだったがコイツの態度のせいで面倒臭くなり、


「カミル、説明してやれ」


カミルは一瞬嫌そうな顔をしたが、仕方なくウルを端に連れていき、俺がなぜ止めてたのかを説明してくれた。


――さて、面倒なのはカミルに押付けたが。


「いってぇ。な、何事っすか?」


また面倒なのが目を覚ましたな。やれやれだ。


スタン状態から目覚めたクラッドは、呑気な顔で立ち上がる。

既に戦闘を開始しているリリアとホブゴブリンをみて、


「あっ! リリアさん、助太刀するっすよ!」


そう言って、ホブゴブリンの背後に回り、挟撃できる陣形を確保。

ホブゴブリンはリリア目掛けこんぼうを振り下ろす。


それをメイスで弾き隙をつくり、後ろからクラッドがゴブリンの太ももを刺す。

低い唸り声をあげ片膝をつく。

クラッドはそれで調子に乗ったのか、追撃をしようとするが――。


「クラッドさんダメッ」


「――ガッ……このッ! 離すっす!」


ホブゴブリンは上半身を大きく捻り、左腕で首を掴む。

リリアの制止は正しい。あれくらいで勝っていると思うなら今後ダンジョンでは生き残れない。


ホブゴブリンはこんぼうを振りかざす。


が、リリアは咄嗟の判断で突撃し、メイスで頭部を殴打。それから直ぐにバックステップで距離をとった。

その衝撃で手を離し、クラッドはすんでの所でこんぼうから逃れた。


「大丈夫ですか!?」


「へ、平気っす。助かったっすよリリアさん」


ホブゴブリンと言えど、レベルが上の2人を相手にかなり苦戦しているな。

かなり危うさはあるが、1匹程度なら任せても大丈夫そうか。


「――油断禁物です、よッ!」


リリアは言いながらも、駆け出しメイスを突き出す。

腹部に直撃し、衝撃で身体はくの字に曲がる。


クラッドは今度こそ、と言う勢いで跳躍し槍を振りかざす。


――決まりだな。


雄叫びと共に振り下ろし、槍はホブゴブリンの後頭部へと突き刺さる。

噴水のように鮮血が放出され、辺り1面を赤く染めあげた。その瞬間ホブゴブリンは汚いうめき声あげ、音を立て地面に倒れた。


最後の連携は悪くなかった。まともな挟撃とよべる代物になっていた。


「と、討伐完了っすよ!」


「……クロードさん、私達のこと試しましたね?」

「――そ、そうなんすか? 酷いじゃないっすか!」


リリアには見抜かれていたか。それとカミルも気づいているだろうな。


「ああ、いつまでもおんぶにだっこじゃ困るからな。

――おいクラッド、てめぇに言ってるんだぞ」


自分が言われているとは思っていなかったクラッドは、リリアの方を向きうんうんと頷いていた。

その反面リリアには言っているつもりは無かったのだが、しょんぼりしたような表情をしている。


「お、俺っすか!? ホブゴブリン倒したじゃないっすか」


「その功績の大半はリリアにある。お前は油断しすぎだ」


偉そうに言っているが、俺とて戦闘が得意な訳では無い。クロード・ラングマンの身体能力と、馬渕翼の知識と経験を活かしているだけだ。


カインズ等からしたら、俺たちは全員対して変わらない評価だろう。最も、あいつは殺されてしまったが。


「あぁーッ! ワシの、ワシの獲物がぁ……」


「クロード君、2度と私にこの役を頼まないでくれると助かる。本業よりも頭を使ったよ」


「すまないなカミル。そんなに酷かったのか……」


「ええ、言語を1から教えているような錯覚に陥ってしまった」


余程苦労したのか、カミルはゲッソリとしていて目に力がない。

俺は心からカミルにぶん投げてよかったと思った。


「おいウル。カミルに言われた事はわかったのか?」


ぶつくさ文句を言っているウルだが、これで理解出来てないのだとしたら、もうどうしようも無い。


「ワシをなんだと思っておる! ちゃぁんと理解しておるわ」


生意気な野郎だ。

しかしこの先、コイツの力に頼る場面が必ず来る。

それまでに調教しておかないと、その時がやばそうだな。


◇◇◇◇◇◇


「やったのじゃ! ワシがやったのじゃ! クロード見ておったか! ワシが倒したのじゃ!」


「あー、見てた見てた。凄いぞウル偉い偉い」


「そうじゃろ? そうじゃろ? ワシは偉くて凄いのじゃ!」


満足そうに笑みを浮かべ、ホブゴブリンの死体を指さし飛び跳ねるロリはコイツくらいのものだろう。


最初のホブゴブリンを倒してから、俺達は今倒したのを含めて合計15対のゴブリンとホブゴブリンを討伐した。

割合はゴブリン9体でホブゴブリン6体程だった気がする。


危うげな場面も幾つかあったが、一戦一戦の反省を活かし、今では安心してみていられるほどになった。

特にカミルの動きが格段に良くなったな。

ホブゴブリンではなくゴブリンとしか戦わせていないが、頭がいいからか敵を翻弄し策を駆使し、数体を無傷で倒した時は流石に驚いた。

どうやら元の身体能力も悪くないらしい。R3でもあたりの類だ。


それにコイツらだけではなく、俺も学んだ事がある。

ウルに関してだが、コイツはおだてて気持ちを乗せてやらないと、てんで使い物にならない。

年齢はしらないが、見た目で言えば14やそこら。クソガキらしく単純な奴だ。


そして今目の前には巨大な扉があり、中に入るとボス戦が始まる。


「さて、次がフロアボスになる訳だが」


「お、もうフロアボスっすか? クロードさん無しでも皆でやれば余裕っす! 任せてくださいっす」


やる気満々で任せろ、と言われると中々断りにくいな。

親指を立てて目を輝かせているクラッドは、このままフロアボスとも戦うつもりなのだろう。


「いや、悪いがフロアボスは俺が戦う。お前らばかりに任せていられないからな。お前らは休んでていいぞ」


俺は3階層に来て初めて剣を抜いた。変わらずに復讐者の剣を使っている。

そして剣を担ぐように肩に乗せ、扉を開ける。


扉の先は真っ暗と言うほどでもないが、フロアボスが見えるほど明るくもない。

構わず入ろうとしたところで、リリアに呼び止められた。


「1人で……大丈夫ですか?」


「誰に言ってんだ」


それだけ言い1人ボス部屋へ侵入すると、それに呼応したように壁から蒼い炎が等間隔で現れ、ボス部屋を照らした。


中は円形の空間になっていて、その奥に大層な玉座のようなものがある。


そしてそこに座って俺を待っていたのは――。


「――てめぇが相手か。かかってこい木偶の坊」


言葉を理解していなくても、馬鹿にされたのを感じとったのかフロアボスであるゴブリンジェネラルは、巨大な錆びたナタを持って立ち上がり、空気が揺れるほどの雄叫びをあげた。

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