10話 スキル廃課金
視界が切り替わり、広場から俺達は3階層へと転移した。
「なんじゃ、辛気臭い所じゃのぅ」
ウルは転移早々、3階層を見るなり眉間に皺を寄せて悪態をつく。
2階層はなんてことの無い荒野だったが、今回は洞窟だ。チュートリアルのように直線型の通路のような所よりはマシだが、コイツらはそれを知らないから仕方ない。
洞窟内を照らす松明が壁にあるのは中々親切な仕様だ。
【3階層へ侵入しました。クリア条件:フロアボスの討伐】
「――さて、ここの攻略法を説明する」
俺は4人の前に立ち、3階層について説明しようとすると、カミルを静かに手を挙げる。質問があるようだ。
「なんだ?」
「何故、君はそれを知っているのか不思議でね。ここには来た事がないと言っていたはずだが、どういう事だろうか」
「確かに、俺もそれは気になるっす」
まあこう言う質問が来るのは想定内だ。むしろ前回のメンバーがしなかったのが不思議で仕方ない。
「そうだな。俺はスキル『廃課金』を持っていて、そいつのおかげだ」
「ハイカキン? 変な名前じゃのぅ」
ウルは腕を組んで首を傾げる。口調も手伝ってかより一層ジジくささが増した。
勿論、そんな物は存在しない。この世界の住人に俺の正体を晒した所で、信じて貰えないのは明白だ。そしてなにより召喚主と思われるかもしれない。
そうなったら全員のヘイトが集まり、連携などは確実に取れなくなる。それどころか最悪俺が狙われるはめになる。
だから適当な話をした。スキル廃課金はあながち間違ってはないんだけどな。
「なるほど、だから経験値ダンジョンの時も指示してくれたんですね」
リリアは手のひらに拳を乗せるポーズをとる。
全く違うが、解釈は自由にしてくれたほうが一々説明しなくて済むから楽だ。
今はまだ話すつもりは無いが、全幅の信頼をおける奴が出てきたら話そうとは思っている。
「そういうことだ。このスキルに関しては詳しい事は俺もわからん。まずここの基本モンスターだか2階層のフロアボスだったホブゴブリンがメインだ。と言っても2階層よりはレベルが低いからそれほど気にすることもない」
「それなら俺1人でも余裕っすね! ちゃちゃっと殺っちまいましょう」
槍を大袈裟に振り回しながら、そんな舐めた事をクラッドは言った。
絶望を経験していないと、こうも楽観的なのか。それとも、こいつが阿呆なだけか。
「お主じゃホブゴブリンにもやられるじゃろ」
ぷぷぷとウルが煽り、2人してギャーギャー喚き始める。こいつらは何かと言うとこんな感じになり、正直面倒臭い。
「おい、いい加減にしろ。いいか、もう1度言うぞ。遊びじゃねぇんだ、気を引き締めろ」
「す、すまんの……ちとはしゃぎすぎたやもしれぬ」
「ごめんっすクロードさん……」
俺は鬼の形相で威圧すると、2人は萎縮しリリアの後ろに隠れた。
これまでにも似た様な事が何度かあったからか、完全に恐がられているな。
「続けるぞ。次にフロアボスに関してはランダムで3種類。ゴブリンメイジ、ゴブリンジェネラル、そしてレアドロップ率の高い成金ゴブリンだ」
言い終えると全員頭にクエスチョンマークを浮かべている。
十中八九成金ゴブリンの件だろう。俺も最初に出現した時はバグかなんかだと思ったしな。
「成金ゴブリンに関してだが、説明はしないでおく。滅多な事で選ばれはしないから、基本的に無いものと考えろ。3階層を周回した時にでも出会えたらラッキー程度に思ってくれ」
「メイジかジェネラルがフロアボスという事か。私のスキルが通用するかどうか……」
「安心しろカミル。余程のレベル差がない限りスキルが弾かれることは無い。お前ら3人のレベルは3、3階層の推奨レベルは2だ。なんの問題もない」
それを聞いてカミルは安心したのか、ほっと胸をなでおろした。
「私は今回も後衛ですか? 行けそうなら前衛にも回りたいです」
今のリリアは、何度かの2階層クリアでレベルアップしたらしく、俺と同じレベル5になっている。前衛戦闘でも問題ないだろう。
因みに、俺はまだレベル6へと到達していない。
それにしてもコイツは初期メンバーなだけあって、気合いが違うな。
「そうだな、お前なら大丈夫だろう」
「はい!」
「説明は以上だ。行くぞ」
前衛後衛がそろい、推奨レベル以上ある今のパーティならこの階層で苦労することはなさそうだな。
洞窟内に侵入すると、一気に鼻を刺激する腐臭が漂ってきた。
「これは……中々強烈な臭いだ」
「鼻がもげそうじゃぁ!」
口々に悪態を着きながらも、それを防ぐ術はある訳もなく、各自でできる限りの対策をしてフロアボスの討伐を目指す。
洞窟内はかなり質素な造りで、整備も糞もなくそこら辺にホブゴブリンの食べ残しなのか、骨や腐った肉などが放置されている。
臭いの原因はこれか。
洞窟内では空気の循環などする訳もなく、腐臭は逃げる場所がなく漂っている。
進む程に食べ残しの数が増えていきた頃、クラッドが急に立ち止まり耳に手を当て、
「な、なにか聞こえるっすよ」
俺達は聴覚を研ぎ澄まし、音の正体を探る。
クラッドの言う通り、確かに何か聞こえる。
引き摺るような地面を擦る音や何か硬いものを砕いたような音が、微かだが鼓膜を揺らした。
「なんの、音でしょう……」
薄暗い洞窟内で不気味な音が聞こえ、リリアの表情は明らかに強ばっていた。
ただ、それはリリアに限った事ではなく他の奴らも同様だった。
まあ間違いなくモンスターだろう。
俺はコイツらには言っていないが、今回フロアボス以外ではメインで前衛をやるつもりは無い。
コイツらはまだダンジョンの恐怖を知らない。これ以上階層が上がる前に、その腐った根性を叩き直すつもりだ。
サポートや指示はするが、基本的に雑魚共はこいつらに任せる。
その代わりフロアボスは、ソロ狩りだ。
ふと、音が止まる。
俺達に気付いたようだ。
「――来るぞッ!」
それと同時に、奥の闇から黒影が飛び出してきた。
コイツらでも速度は避けれない程では無いが、緊張で身体が硬くなっているうちは無理だろうな。
「――あぐッ!」
俺は3歩右へズレることで突進を紙一重で回避。
反応が遅れたクラッドは槍を構える前に、その身にもろにくらい吹っ飛ばされる。
直ぐに立ち上がると思ったが、
――頭を強打したか。
動きが止まる事で黒影の正体があらわとなるが、やはりホブゴブリンだ。
線の細いゴブリンと比べかなりの筋量が増え、がたいがいい。身の丈は180かそこら。
小柄なゴブリンが、何をすればこうなるのか中々興味深い。
顔面に関してはゴブリンと似て醜悪だ。
ホブゴブリンはやはり食事中だったようで、口の周りにはベッタリと赤い液体が付着している。
――油断しているからだ。後衛の2人はどうでる?
「クラッドさん!」
リリアは声を掛けさえするが、視線はホブゴブリンから逸らしていない。
あの時と同じくメイスを構え牽制する。
対するホブゴブリンは、右手にこんぼうを持っているようだが、構えなど知らないのかブラリと垂れ下げ引き摺るような姿勢。
「ホブゴブリンの弱点は2階層と同じで魔法に弱いようだ。だが――」
「――わしの出番じゃな! 」
カミルは流石の冷静さだ。戦闘を短所とするが、その分自分の役割をしっかりと理解している。
それに比べてウルの頭の悪さはどうしようも無いな。
確かにゴブリン系モンスターは基本的に、魔法が弱点だ。だがそれは『魔法が使える環境』と言うのが大前提。
今にも火属性魔法を放とうとしているが、空気の流れもないこんな所で使われたら酸欠になっちまう。
「獄炎に焼かれろ、なのじゃ! ファイア――」
「――やめろ、ウル」
小型の魔法陣が展開され掛けていたが、ギリギリ発動は阻止できた。
横目で見ると、ホブゴブリンはまだリリアと睨み合っている。
リリアには申し訳ないが、コイツに説教する時間くらいはありそうだな。
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