第2章

9話 3階層への挑戦


「はぁ、はぁ……そろそろ、一旦休憩するか……」


もう3時間は走り続けた気がする。

おかげで全身は汗まみれで、身体から湯気が発生し上がった体温を下げようとしている。


汗を拭いトレーニングルームの端にあるベンチに腰をかける。

トレーニングルームでは極わずかだがステータスが上昇し、経験値が手に入る。

俺がしていた走り込みは、俺独自の方法のためステータスや経験値は手に入らないが、目的はそれではなくスタミナを付けることだ。


ステータス一覧には表記がないが、トレーニングを積むことで持久力が確実に上がった自覚があり、戦闘において大きなアドバンテージになるだろう。

目に見えないポイントもそれなりに大切という事だ。


俺は今、自分に課した日課の真っ只中だ。

あの日から3日が経過し、色々と発見があった。


まずはステータスについてだが、どうやらステータスは自分では確認できるが他人のものを見ることは出来ないらしい。

ウィンドウ自体は出現するのだが、閲覧権限がないと表記されるだけだった。

どうしても気になった場合は口頭で確認する他ない。ただ、その場合は真偽の判断ができないのであまりあてには出来ない。


次にスキルについてはかなりの見落としがあり、気付いた時は激しい後悔の感情が押し寄せた。

あの日、過去の俺はアプリをアンインストールした。

そのせいで多くの権限が、アルタートに帰属したが、 スキルの取得はその対象外だった。


『seek the crown』はフルオートの戦闘により、プレイヤーは戦闘に関与できない。

ダンジョンをクリアしたりある条件を満たすと、自動でスキルを取得できるがこれはメインの取得方法ではない。

基本はスキルはポイントを消費して取得するのだが、今俺達はポイントさえあれば自分の意思でスキルを選ぶことが出来る。

アルタートに権限が帰属したからと言って、勝手に全てが出来ないと思い込んしまっていた。

今更遅いがあの日すぐに気づいていれば、もしかしたらシンは死なずに済んだかもしれない。

それと、スキルは5つまでしか反映されないので慎重に選ぶ必要がある。


その他にも幾つか新しい情報はあるが、特別役に立つのはその2つだった。


「クロードさん、休憩ですか? これ、良かったら」


聞き覚えのある声がして顔を上げると、リリアが水を持って隣に座った。


リリアとは次の日からこのトレーニングルームで、お互いに切磋琢磨する仲になった。

俺がトレーニングしていると、自分からそれに参加したのだ。

あの日、俺と同じで色々と思うことがあったようだ。


「ああ、ありがとう」


受け取った水を飲むとキンキンに冷えていて水が食道を通過し、胃に到達するのがわかる。


「今日も3階層にいかないんですか?」


首をかしげ、大きな瞳で覗いてくる。

汗にまみれたリリアは、元の容姿の良さも手伝ってかかなり色気があり、目に毒だ。


「いや、丁度この後3階層を攻略してやるつもりだ」


あれから俺達は、人員不足やパーティの連携能力を上げるためメインのダンジョン攻略を中止していた。

ただその代わりトレーニングルームの活用と、既にハイツ達が攻略した2階層は何度か挑んでいる。

皮肉な話だが経験値特化ダンジョンのおかげで、かなりレベルアップした俺とリリアにとって、2階層は特に苦もなくクリアすることが出来た。

この殺戮の世界にもある程度順応できるようになった。


「遂に3階層かぁ。緊張しますね」


「ああ、前みたいな事にはならないと思うが、油断はするなよ」


「はい、わかってます」


「俺は戻るぞ」


呼吸も整って来たので貰った水を一気に飲み干し、トレーニングを再開するために、端にある剣術の稽古場に来た。


俺は2日前にスキルポイントを20使い、剣術スキルを取得した。

スキルレベルはまだ1だが、それなりに変わった印象を受ける。


「ふぅ、やるか」


稽古場には木製の人形があり、練習用の木刀を使いひたすら叩きつける。

剣術スキルのおかげか、中々様になっているのが自分でもわかる。

ここでの目的はスキルレベルを上げやすくすること。

経験値は手に入るが、スキルレベルはどうやら実践以外では上がらないらしい。


俺のこの3日間は、走り込みと打ち込みに時間を使い、それが終わり次第ダンジョンに潜るというローテーションを組んでいた。

2階層は簡単にクリア出来るが、パーティの連携強化や戦闘に慣れる事を目的としている。経験値などアイテムも手に入るがゴミみたいなものだ。


俺はこの後攻略に挑む3階層に向け、いつもより気合を入れた木刀を打ち込んだ。


◇◇◇◇◇



『やっと3階層に行く気になったんだね!安心したよ!このままずっとトレーニングだけしてるつもりかと思ってたからね!』


剣術の稽古を終えた俺は休息をとり、アルタートのいる広場に来ていた。


「そんな訳ないだろう。最低限の準備は必要ってだけだ」


『うんうん!偉いね君は!じゃあみんなを集めるね』


そう言ってアルタートは、ウィンドウを出現させ操作しているのか、指を動かし始めた。

それが終わると、


【ダンジョン攻略を開始します。パーティメンバーは至急、広場へ集まってください】


管理者とは便利なものだな。簡単に招集を掛けれるなんて。

俺にこの権限があれば、戦闘中もある程度融通が効く。


告知されてから1分も立たないうちに、パーティメンバーが広場へと集まった。

あれからアルタートは、減った人員を補充するべく、再び10連ガチャを回した。


そこで使えそうな奴を3人パーティに入れ、5人編成のパーティが出来上がった。


「全員聞いてくれ。今日は3階層を攻略する。今までとは違うから油断するな」


「やっとっすか。いつまでも進まないから飽き飽きしてた所っすよ」


生意気にも愚痴を垂れたこの小柄な男は、新人として入れたR4のクラッドという黒髪短髪の兵士だ。

タレ目で温厚そうな見た目とは違い、案外好戦的だ。

ただ根は真面目なのか、なんだかんだ言いつつ指示には従う。


もう1人はR3の学者でカミルと名乗る、顎のヒゲが特徴のおっさんだ。

個人の戦力的には期待できないが、珍しく最初からスキルを持っていたので勧誘した。

学者らしく『博識』というスキルで、モンスターの弱点などを見抜ける。これはかなり役に立つ。


そして3人目は、


「ワシが活躍出来るということだな!楽しみじゃのぅ」


自信満々な派手な赤髪のロリ。これしか言いようがない。

見た目だけで言えばあまり歓迎したくはなかったが、R4の魔法使いで遠距離攻撃ができるので採用。

属性は闇と火。汎用性も高い。

奴隷だったらしく鉄製の首輪が付けられているが、召喚された中で唯一召喚を喜んでいた。名前は確か、ウルとか言っていた気がする。


「お前ら遊びに行くんじゃねぇんだぞ」


「そうですよ皆さん。クロードさんの言うことをよく聞いてくださいね」


リリアとはこの3日間、一緒にトレーニングしていたおかげで、かなり打ち解けた気がする。

1階層クリア時に手に入れた『初心者装備セット』はコイツに全て使った。


何故それを経験値特化ダンジョンでつけなかったかアルタートに問い詰めると『装備に甘えられても困るからね!』と言った鬼畜な回答。


因みにハイツだが、あれからあいつの事は見かけていない。他のパーティには入ったらしいが、そのパーティが心配だ。



『皆、準備はいいかい? じゃあ今日もダンジョン攻略頑張ってねー!』


白い魔法陣が出現し、俺達は臆することなくそこへ足を踏み込んだ。


――3日間の成果、見せてやる

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