3話 パーティ編成


【アカウント名『お前のすね毛』様が、アプリを削除しました。一部の権限を除く、全ての権限は『管理者アルタート』へ帰属します】


けたたましく鳴り響いていたサイレンの音も消え、騒いでいた奴らも押し黙り、辺りを静寂が包みこむ。


このウィンドウのなにがヤバいか、それは全ての権限がアルタートへと移った事だ。

最悪の事態――つまりアンインストールによる世界の消滅が起きなかっただけまだましだが。


馬鹿なヤツらは分からないかもしれないが、簡単に言うとコイツの機嫌を損ねたヤツは死ぬという事だ。さっきのケンとか言うヤツと同じように。


何故か? 今みたく合成素材にすることだって、パーティではなく単体で、しかも武器もクソもない状態で高難易度ダンジョンに行かされることだって全てコイツの気分次第って事だ。


ただ唯一の救いは、戦闘に関して元々フルオート機能のおかげで恐らくはこちらの自由に動けるだろうし、こんぼうの時のように武器なども問題なく装備できるはずだ。


一部の権限が何を指すかはわからないが、今は文字通り――


コイツが神だ。


『はーい、『お前のすね毛』様が消えちゃったから僕が代わりになりました! 皆僕の言うことしっかり聞いていい子にするんだよー!』


楽しそうに頭上を飛び回りながら『じゃないと』とつけたし、


『殺しちゃうから♡』


――こいつは本気だ。


全身の毛が逆立ち、身体の芯が凍りつくのを感じた。冷や汗が背中を伝う。

アルタートの目は氷のように冷たく、そこにはきっと情も優しさもないのだろう。それでも顔は笑っているからより歪さが際立つ。


視界の端では他の者も言っていることを理解したのか、恐怖で顔を歪めている。


「あ、あの……あの、質問があるのですが」


ハイツ、と言ったか。こいつにはこんな時だろうと関係なくいつもどもってるな。


『はい、そこの君!今はダメです!まずはダンジョン二階層を皆で攻略してきてね! 』


ハイツの言葉を流して、指をパチンと鳴らす。


【武器ガチャ10連を回します】


ウィンドウが現れた。さっきまでと違うのは、権限がアルタートにうったせいかYES/NOの選択肢が消えている。

すると、離れた位置の空中から幾つかの武器がガチャガチャ音を立てた降ってきた。


『あれ、好きなの取ってきて!』


それを合図に、全員が武器に向けて一斉に走り出した。勿論俺も例外じゃない。


――くそ、こんなの選んでいられねえ。最悪こんぼうがあるが……


俺は群がるモブ共を押し退け、近くにあった1つの武器を掴んだ。


【R1こんぼう】


「おいまたこんぼうかよ!」


くそっ、よりによって最低レア度の、しかも同じ武器とは……最悪だ。


『アハハッ、君ツイてないね!おっもしろーい!』


既にこんぼうを持っている俺が、再びこんぼうを掴んだ事の何が面白いのかはわからないが、アルタートは空中で笑い転げている。


「……あの野郎」


かなりムカつくが今アルタートに噛み付くのは自殺行為だ。堪えなければ。


一通り武器を選び終わったのを確認すると、アルタートは再び指を鳴らすと同時に、地面に白く発光する魔法陣のようなものが浮かび上がり、位置を変えずにゆっくりと回転している。


『じゃあ、今から僕がパーティ編成するから、最初に呼ばれた人達は1箇所に集まってね!まずは、ケン!』


ケン?コイツは何を言っているんだ。それはさっき自分で素材にしたただろ。


『――は死んじゃったね』


全員の頭の中に浮かんだ疑問に、笑いながら答えるコイツの性格はかなり酷いらしい。破綻している。


『はいはい、ちゃんとやりますよーだ。えっと、カインズ君』


「……」


初めに呼ばれたのは剣闘士カインズ。筋骨隆々の大男でもこの状況でも少しも怯む事なく、無言で腕を組み堂々としている。武器の山からも剣を勝ち取れたようで、それだけでもかなりのアドバンテージになるはずだ。


『次は……面倒臭いからそこの右側の4人!パーティは最大5人編成だからね!はい!今呼ばれた人達はこの魔法陣にはいってね!はやくはやくー!』


【パーティ1が結成されました】

【パーティメンバーはR8カインズ・シュテイン。R5リン・アルテュール。R3ハイツ。R3カルロット。R3ロア。です】


カインズは仕方なく1歩踏み出そうとしたが、その足を止め、


「まってくれ。俺達は一体何をすればいい。せめてそれだけでも教えてくれないか」


ご最もな質問だな。俺には『seek the crown』の知識と経験があるが、こいつらにはそれがない。何故ここに俺が居るのかはわからないが、これだけでも有利にことを運べそうだ。


『うーん、とりあえず二階層を攻略してほしいんだ!テキトーに歩くとフロアボスがいるからそいつをやっつけちゃって!そうしたら勝手にここに戻ってくるよ』


アルタートは空中で拳を振り抜き、簡単そうに言うがこのゲームが俺の知ってるものと全く同じならそう簡単に倒せない。そもそも、たどり着けるかどうか……


「なるほど、とりあえずそいつを倒してくればいいんだな? 聞きたいことは山ほどあるが今は君に従おう。消されたくは無いのでね」


そう言ってカインズは魔法陣へと踏み込んだ。

それを見た残りのモブ共もそれに続き、全員が入るとダンジョンに飛ばされたのか瞬時に消えた。


やはり高レアリティのキャラクターは、おどおどしている低レアリティとは違い物分りがよく優秀だ。


さて、次は残りの俺たちの番だが、R8のカインズと別れたのはかなりマズイな。他のやつのレアリティは知らないが、二階層はカインズなら間違いなく単体でクリア可能だろう。

ただハイツとか言う奴が俺と離れたのは不幸中の幸いだな。あいつまでこっちに居たらもうお手上げだ。


「で、俺達はどうすればいい」


残された面子はリリアと名乗る後衛職の女と、小太り貴族のアルグ、それに名前は忘れたがR3の農民。そして俺の4人だ。


俺以外の3人は集まってなにやら話し合っているようで、チラチラこちらを見ているが俺はそんなのに参加するつもりは無い。


『そう言うと思って君たちには別のダンジョンを用意してあるよ!』


むふふ、とニヤけるアルタート。

自分の立場が一気に上がってからコイツの性格の悪さも一気に上がったな。


「別のダンジョン? まさか――」


『君どうして知ってるの? でもまあ――そのまさかの経験値特化ダンジョンさ!』


経験値特化ダンジョン。文字通り経験値に特化したダンジョンだ。確かにチュートリアル後直ぐに入れるようになるが、


「まってくれ、さすがにまだクリア出来ないぞ。レベルが足りなさすぎる」


経験値特化ダンジョンと言えど、れっきとしたダンジョンであり、チュートリアルを終えたばかりのクソザコパーティで挑めるほど難易度は低くない。


今の面子で行けば間違いなく二人以上は脱落するだろう。最悪の場合全滅する。

だが『seek the crown』と同じ仕様ならダンジョンで死んだとしても、死亡ペナルティを食らうだけで消滅するわけじゃない。


ただ、先程のゴブリン戦を思い返すと、本当に死なないのか疑問が残る。

肉が潰れる感触が未だに残っているんだ、俺がやられた側だったとしたらその後どう復活するのか想像もできない。


『言い訳はいいから行ってらしゃーい!』


アルタートは聞く耳すら持たず、指を鳴らし魔法陣を展開。先程と違うのは発光している色が白から紫になったくらいだ。


――くそッ! どう考えてもハズレパーティじゃねえか。せめてまともな武器があれば……いや、無駄なことを考えるよりまず作戦をねらないと。


『早く!早く!』


作戦を練る時間すら与えてくれないアルタートを、キッと睨みつけるがそれすらアイツからすると面白いらしい。楽しそうに笑ってやがる。


「あ、あの。とりあえず皆さん進みましょう。ここに居ても何も得るものはありません」


リリアは1歩前に出て俺たち三人に提案する。

この状況でこの言葉が出るとは、もしステータスで精神力があったのなら、コイツの数値はかなり高いだろうな。


「そうだな、とりあえずダンジョンに潜っても直ぐに戦闘が始まるわけじゃない。多少だが作戦を練る時間はあるはずだ」


「ふん、俺は男爵だぞ! 誰が戦闘など参加するものか!そんな物はな、農民にでもやらせればいいのだッ」


そう言ってR3農民を睨みつける。

よく見るとコイツの手の甲にはR4の数字が見えるが、性格的に使い物にならなさそうだ。まだあっちの農民の方が動きを合わせてくれそうな気がする。


「わ、私は戦いとかそういった事とは無縁でして……あは、あはは」


農民は視線を落とし乾いた笑みを浮かべる。

役に立たなさそうだと思っていたが、コイツが握っている剣は中間レアリティかもしれない。

他の奴らの武器とは違い、ご丁寧に装飾まで施されてる。


――くそッ!こんぼうなんかじゃなく、あれがあれば……


『ま・だ・か・な? それともケンちゃんみたいになりたい?』


「――ッ! ……わかった、行けばいいんだろ」


俺に合成されるならいいが、俺が素材になるなど論外だ。それならまだ一か八かダンジョンクリアを狙った方が生き残れる可能性は高い。


嫌々ながらも俺は魔法陣へと踏み込み、それを見て他の奴らも1人また1人と魔法陣へと続いた。


【パーティ2が結成されました】

【パーティメンバーはR4クロード・ラングマン。R4リリア。R4アルグ・カスティエル。R3シンです】


そのウィンドウと共に、足元の紫色の光が強く輝き俺達は『経験値特化ダンジョン』へと転送された。



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