第114話.晩餐会に招待です♡

 取り敢えずワタシとニックは、行き倒れから元気を取り戻した旅人を長老さんの家へ連れて行きました。


「長老さん、このキュルムの町に流れ着き行き倒れてた旅人を、介抱して連れて来ました」



【このヒト、人畜無害そーだよー♡】



 応接間にて、ニックの脳内会話を聞いた長老さん。それでも慎重に慎重を期して2つ3つ質問します。簡単に受け入れ町の皆を危険に晒す訳には行かない、長としての責任が有るのです。


「まず、そなたの名は何と言うのかの?」


「私はカクシャと申す者。見てくれ通りの、陽気な風来坊さ」


 へぇ、この旅人、カクシャさんって名前なんですね。


「この町で行き倒れておった、と云うのは……本当なのかの・・・・・・?」


 ニヤッと長老さんが片眉を上げそう聞いた瞬間、旅人の気の色が変わるのを感じたんです。









 流石は百戦錬磨な長老さんの読み通りですね。やはり旅人の “ 面白おじさん” 、日本で云う三枚目タレントっぷりは仮面で、その奥にもうひとりの自分を隠し持ってた様です。


「フッ、ご老人も人が悪い♪ 其れを言うなら行き倒れる程歩き通した、私の目的を聞きたいのでは無いのかい?」


 確かに、ちょっと歩いた位では行き倒れる・・・・・程にはなりませんよね。それこそ数日飲まず食わず、夜通し歩き続ける位まではしないと。


 で、歩き続けた末にこのキュルムの町に流れ着いた……って予想。


「私はね、とある人物を探してるのさ。或る人からの依頼でね。面白おじさんを演じると皆気を許すから、こっちの方が仕事は捗るんだぜ?」


 そう言いながらニヤリと笑って。そう、コレコレ♪と懐から大きな手紙を広げて読み始めたカクシャさん。長老さんはおろか、ワタシまでビックリする発表をしたんです!




「えっと、『此処に居る両名を、“来賓” として城塞都市コキアで開催される晩餐会にご招待します』だってさ! どうする、アカリ様・・・・よぉ?」




 読み上げたカクシャさん、手紙を逆にしてワタシ達に見える様に胸の前に掲げます。


 確かに手紙には、来賓客の欄にワタシの名前が載ってますね。行き倒れて初めて会う振りして、実はワタシの事も長老さんの事も顔と名前は既に一致済みだったんです!


 うわっこの人、流れ着いた処か、明確にワタシ目指してこの町に来たんですよ! 一杯喰わされました! ニヤニヤしてるの、ムカつきます。


 しかも依頼者は、手紙を通してちゃんとワタシと長老さんの2人が揃うタイミングまで見計らって書いてるんです! どうしたらそんなの、分かるんです?


 でも、このままヤラれっ放しなのは悔しいですよ。何とか一矢、報いたい!


「あの……カクシャさん? その……依頼者って一体、誰なんでしょう?」




「うんうんっ、アカリ様なら特別に其の名を明かして良いって了解を得てるのさ♪ 依頼者はね、フィリルさんだよ」




き、キターーーッッッ♡!!!




 カクシャさん、ムカついちゃってゴメンなさいっ! 完全に逆鞘、 ぎゃくさや 平謝りモードです!


 フィリル……どうやら、無事に事後処理が済んだみたいですね。城塞都市コキアって処に居るんですか。初めて具体的な目的地、判明です!


「アカリ様、ご老人、ご足労願えないかな?」


「 “来賓” として……ですか?」


 大事な事なので、ワタシは念を推しました。


「アカリ様は “来賓” 、フィリルさんがアカリ様の推薦人となるんだ」


「ちなみにフィリルさんは、ミントセキュリティサービスのオーナーであられる『ミント団グループ』総帥のクリス様を護衛して城塞都市コキア入りする段取りになってるのさ」



 って事は今回、最終的に直談判する相手は総帥のクリスさんって事になる訳なんですね。ワタシの唯一の人脈、フィリルがお膳立てしてくれた……今後再び訪れるかどうか分からない、この千載一遇の大チャンス。


 絶対に、無駄にして堪るものですかっ!



「フィリルさんにも会いたいですし……分かりました。その前にお茶を摘み・・・・・に行きたいのですが、良いですか?」


「では、れでぃーの準備が終わるまで、此処でお待ち頂こうかのぅ」


 ワタシはよそ行きの口調で、軽く会釈して言いました。カクシャさんは、いてらー♪と手をふりふり振って応えます。



【スゴいねー、旅人さーん】



 ニックは、結果的にワタシと長老さんを手玉に取った形になるカクシャさんの事が気になるみたいですね。


「いやー、そんな事無いさー」


 あれ、カクシャさん? ニックの脳内会話に普通に応えてません?




 でも気の所為ですかね、長老さんは気付いていない様ですが……


「社交場の会場に、モンスター……何とかしないとな……」


 ブツブツそう呟くカクシャさんの小声を耳に挟んだ気が、したよーな、しないよーな。
















 ここから更に深い地中……


 其処では何処からか響き渡る、怨嗟の声が聞こえて来て。



『ワレ……赦すまじ……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る