第3章.花樹王

 第0節. プロローグ  ( アカリ視点 )

第113話.行き倒れの旅人さん

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【あらすじ】


 あれから、一向にフィリルの足取りすら掴めない八方塞がりなワタシ。


 でも或る日、行き倒れの旅人を発見した事から事態は急変する事になって……



【舞台】 スメルクト大陸


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 あれから……数ヶ月後。




ピカーッ!

   キラキラ、キラキラ。




「ニック、今日は久し振りの “ピーカン” 日和ですね♪」


【お姉ちゃん、だいぶ地上界にも馴れて来たよねー♪】



く、く~ぇ~~♪



 ニックの言う通り此の砂の町・・・で、ワタシはマイペースに地上界をエンジョイしてます。


 その最大の理由。それは日本で初めてきぐるみを着た時は、恥ずかしさが勝ってたんですが……ここでは着たままでも、平気で過ごせますから。


 露出面積の広い、際どいきぐるみを着る事で見る方と見せる方双方に発生するハラスメント。通称『見るハラ』『見せハラ』なんてものは、少なくともこのキュルムの町には存在しないんです。


 だってキュルムの町は、「きぐるみ崇拝の町」でも在るんですから。






 そんなキュルムの町に滞在しながら、ワタシは同時進行してフィリルの行方やミントセキュリティサービスの所在地をずっと探し続けました。


 ですが、解決の糸口さえ見付からず……数ヶ月の間、悶々とした日々を送る事になったんです。


すると、そんな或る日。


「あうー、少し肌がチクチクします。そろそろ、敏感になって来ましたかねー」


 そうなんです、今この時期は月イチの女のコの日・・・・・に近いんです。



【お姉ちゃん、ちょっとこっち来てー】



 スメルクト竹で作られた竹筒で水を飲んでるワタシを、ニックが遠くから呼びます。何があったのでしょう?


 ワタシは竹筒を片手に、ニックの許へ向かいます。そこで発見したのは、行き倒れた旅人だったんです!


 上着も下着も、薄手の衣を身に纏った軽装。何かまるで……日本の忍者・・みたいな出で立ちに見えますね。



【ピクリともしないねー。生きてるのかなー?】


「どうなんでしょう?」



 気の所為でしょうか、ニックがウキウキしてる様に見えるのは? 何とニック、すぐ傍に落ちてる木の枝を嘴で器用に拾ったんです。



つん、つんつくつん。



 そしてニック、行き倒れた旅人を突付き始めたんです! ……ぷぷっ(笑)、ニック、止めて! お尻に突き刺して生け花にしようとするの!


 ワタシは大慌てて、ニックを旅人から引き離しました。


 流石に其れは敵わない、と旅人も目を醒ましたみたいです。ワタシ、何かピン!と来ました。この人、お笑いの分かる人です♪


 だって、知らない誰かにこんな事をされたら、普通は誰だって怒りますもん。


「み……水を……くれないか……」


 苦しそうな息遣いで、旅人は水を要求。


 今、手持ちの飲み物はこの竹筒の水。目前に居るのは困ってる、でも何故かワタシには悪い人に見えない旅人。考えるまでも有りません。



【あ、間接キ……】



 ワタシは、そんなニックの呟きを横目に。旅人の首を腕枕して上半身だけ抱き上げて、そっと竹筒の水を口元に注いだんです。



コク……コク……ゴク……ゴクゴク……



 水をゆっくり飲むと、旅人の息遣いが穏やかになるのが分かります。


「ぷはーっ、やはり水は美味いですなっ! 有り難うを言うよ、この町のお方」


 旅人は人差し指を立てて頭の上でクルクル回しながら、ひゃー♡と人懐っこい笑顔を見せます。そんな面白い旅人に、ニックはもう大喜び。


 終いには2人で、あっち向いてフゥー♪こっち向いてヒャー♪と馬鹿騒ぎし出す始末。


 ひょっとしてこの旅人、かぐら座のお姉さん達と同じく……何処ぞの町で大道芸人をしてたのでしょうか?


 頭がピーヒャラ♪ピーヒャラ♪な感じで、妙にニックとウマが合う陽気な旅人。でもそんな旅人にワタシ、ひとつだけ引っ掛かる事が。笑って目を細めた後、再び目を上げた時……




 ワタシ、直感したんです! 細い目に映る瞳の奥、爛々と輝いて見える・・・・・・・・・んじゃない?って。たぶんこの人、もうひとつの顔を隠してるんじゃ無いですかね?

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