第096話.男は度胸、女は愛嬌

 ワタシが見たのと同じ光景を、烈風龍の巨大な頭部を……横凪ぎに払おうとした手を窪みでかがんで避けながら、どうやらニックも見てる様です。



 【実はボク、この巨龍と相対した事が1度だけ有るんだよねー】



 以前、白い巫女と一緒に旅をしてた時に……会いに行った「あの人」の傍に、いつも寄り添ってた巨大な龍の記憶が蘇ります。



【『烈風龍』が居るって事はさー、妖精 “王” ってやっぱりあのヒトー?】



 気の所為でしょうか、ニックの “精霊王” に対する認識、ワタシとは少しズレてる様な……精霊王には何か秘密、有るんでしょうか?


 そんな事を考えながら現在、ニックは障害物を避けて飛んでます。だからワタシみたいに、周りの景色まで堪能してるだけのココロの余裕は無さそうですね。


 しかも、ニックは今迄白い巫女やワタシの為の事ばかりを考えて今日まで生きて来ました。その為、“自分を生かす事” なんて発想、一度も考えた事が有りません。


 それも、ニックの戸惑いやココロの余裕の無さに繋がってる一因なのかも知れませんね。


 視界にチラチラ見えてた火の玉の残り数も後1つとなり、ニックは相当慌ててそう。桟橋崩落まで、カウントダウンが始まりましたから!











 ワタシもニックも、入口へ向かい奮闘はしてます。でも、幾重に取り囲む障害物の群れに阻まれて中々近付く事が出来ません。


 残りあと数歩が、限りなく遠くに感じられるんです。



【お姉ちゃん、大急ぎでボクが道を作るからさー! だからボクの頭を踏み台にして、大ジャンプしてみてー! たぶん入口に届くと思うよー! その後にボクも続くからー!】



 ニックの提案を受けた時、ワタシに一抹の不安がぎりました。でも、今のこの現状を打破出来る方法はそれしか無さそうです。


 えぇぃっ、ままよ! ワタシは、コクンと頷きました。



ドドムッ……ベキキッ!



 2人で、中空から飛んで来た巨大な尻尾を避けます。すると、尻尾は勢い余って桟橋に斜めに突き刺さります。


 まずはニックが向かい風を避け、飛ばずにその尻尾を駈け登ります。そしてその尻尾から斜めにダイブしました!


 そして、ワタシは……


「確か、入口に近付かずにその場でじっとしていれば、烈風龍は襲って来ないんでしたよね……今回はそれを逆手に取って、っと」




 胸キュン♡流格闘術で唯一、無機物にも神気を流し込む事が出来るのが頭ポンポン♡なんですけど……風にも効くんですかねぇ?



 『男は度胸、女は愛嬌』……いえ、女だって度胸は必要ですから!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る