第093話.3丁目の夕日っぽい

 このままワタシとニック、黒い通路をゆっくりと進み続けると……


「キャッ、眩しいっ!」


 今まで暗かった所からいきなり光差す場所に出ると、眩しさを感じて瞳孔が収縮します。なので思わずワタシは手のひらを、ニックは翼を翳してしまいます。


 黒い通路を抜けたその先、ワタシが見たものとは……まるでワタシの生まれ故郷、心桃市の中央に聳える巨大な台地から見た時みたいなオレンジ色の夕空。


 でも残念ながら、こういう景色にはお馴染みのカラスも、スズメもこの空間にはいないみたいなんですよね。


「見て、ニック、懐かしい景色です……」


 そしてその夕空を背景に、見える遥か先まで延々と続いてるのは赤い桟橋です。ただ普通の橋と違うのは、下を眺めると雲が見えて何処までも底が見えない事。


 言わば「天空の桟橋」と呼ぶべきかも知れないこの橋は、支柱として何と先程見た『円柱』が使われてるんです!


 って事は……ココを落ちれば最期、あの・・柱の道まで【即死コース】真っ逆さまなんですかぁ?


「さっき “柱の道” から見上げた天井って、こんな感じになってたんですか……まるっきり、別世界じゃ無いですか!」


 そう言いながら、ふとワタシは横を向いて欄干を見てみると……



フワ……フワ……フワ……フワ……



 両側の欄干に火の玉が、これも同じ幅を保って延々と続いてます。幅は『円柱』よりも、気持ち広めみたいですね。











 すると、再びワタシとニックの頭の中から声が聞こえて来ます。



【 “選ばれし者” の皆さん、無事に「無限廻廊」をクリア出来たみたいですね! 今度は「奈落の穴」です】



 およ、今度の脳内アナウンスは今迄よりちょい長めの様です。続きが有ったみたいですね。



【行く手を阻む仕掛けは、出口に近付くほど激しさを増しますから、そのおつもりで……】



 あっ、ニックったら話を最後まで聞いてませんよ! 行く気満々のご様子です。



【制限時間は40分、それを越えるとこの桟橋は奈落へ向け崩落、一直せ……あのぉ、そこのトリさん……ちゃんと話、聞いてます?】



 あっ、ニックが浮足立ってるのはバレバレでしたね。って事は今正に、誰かが・・・この光景をリアルタイムで見てるって事ですか?



【欄干の火の玉が全て消える前までに、出口を目指して下さい。さ、さ、早く私に会いに来て下さいねっ】



 天の声が聞こえなくなった途端に、やっぱりニックは我慢が出来なかったみたいでダッと入口の踊り場から桟橋に飛び移り、タタタタタ……と走り出します。


 その瞬間ふわっと横風が凪ぎ、ニックは煽られて尻餅を付いてしまいました。


「ニックさん、何の考えも無しにこの桟橋を走るのは危険ですよ! ちゃんとこういう話はさ、最後まで聞いてあげましょうよ」


 ニック、大丈夫ですか?立てますか? ……うんっ、問題は無さそうですね。


「ワタシ達の為を思って、忠告してくれてるんですからね。さぁ、歩いて桟橋を渡りましょう」






 桟橋から見る空はキレイな夕日に染まり、ワタシとニックの影法師を前に長く伸ばします。


 影法師は右前の方に長く伸びてます。なので、まるでワタシの影がニックの影をなでなでしてあげてるみたいですね。



 ニックがスクッと立てたので、ワタシは安心して歩いて桟橋を移動する事にしたんです。

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