第085話.アニマル☆セラピー

 翌日、ワタシとニックは3人娘達が一晩点滴を投与する為に入院してた救護施設を訪れました。中へ入る前に、ワタシは手のひらでキュッとキュイアームの袖部分をつまみます。



【お姉ちゃん、どうしたのー? 袖なんかギュッと掴んじゃってー?】



「えぇ、これはね……“萌え袖”です♡ これから行く所は、女の子ばかりじゃないですか? だから、女の子感を前面に出した方が和んだガールズトークがしやすいって思ったんですよ」



【それってちょっと、あざと……】ンげふッ!



 考えてた事、思わず顔に出てしまってますよ! ワタシはニックをグーでごいんっと叩きます。



……コンコンっ!


「こんにちは、ご気分はいかがですかぁ?」



 ワタシとニックはノックをして、女の子達が居る病室にお邪魔しました。


 ちょうどこの病室にはベッドと備え付けの小テーブルがが2×2で4つ置いて有り、3人の女の子達が1人に1つずつベッドの縁に腰掛けてます。


 奥のベッドがイヌとネコ、手前のベッドがヒツジのきぐるみの子でしょうか?



『おはようございます……』×3



 でも皆さん、どこか顔が暗くて。一晩点滴を打ったので、体力的には回復しているハズなんですけど……まるで、生気が感じられないんです。


「あっ、ワタシの事を覚えて居てくれてたんですね! とても嬉しいです♪」


 ワタシは無理に、明るく振る舞います。






【その時ニックは①】─────



 まるでお通夜みたいなテンションだと気付いたニック、その場を和まそうと一生懸命ヘン顔で笑わせようと奮闘します。


 その奮闘ぶりにダダ滑り感を察した、ヒツジのきぐるみさん。無表情な顔ながらもニックを不憫に思ったのか、おちょこに水を持って来てくれました。


「クェッ!」


 そんな空気を全然読めてないニック、とてもご満悦です。



───────────────






「では皆さん、果物の皮……剥いて差し上げましょうか?」


「すみません、有難うございます……その代わり、アタシ達の肩とか腰にぶつからない様に気を付けて下さいね」


 彼女達は、弱々しくお辞儀をしてくれました。


 すると、そっと小テーブルに置いたフルーツバスケットをニックがモノ欲しそうな目でジト……と見ていたので、ワタシが「めっ!」てするとニックは大人しく引き下がります。






【その時ニックは②】─────



 何やらネコのきぐるみさんの横で、ニックはやたら撫で回されてるみたいです。


 ネコのきぐるみさん、ニックに気が有るのですか? それとも、ただネコとしての捕食本能?


 そして……それに負けじとネコのきぐるみさんの横でスキップでグルグル回りながら、陽気に歌ってたんです!


「クェ~~!クェっ!クェっ!」


 あっけらかんとしたニックの、陽気な声だけが木霊します。



───────────────






 そうこうしながら、それとなくワタシは3人娘に探りを入れます。でも、彼女達の症状は思った以上に深刻だったんです。


 まず腰や肩、人それぞれ撫でられた箇所は違うのですが、常に腰がカクカク震えて居て。これでは冒険者としての活動はおろか、日常生活もままならないですよね。


 また腰砕けになる程の感情の起伏を、許容量を超えて叩き付けられてます。これでは過度の快感で、喜怒哀楽の感情が破壊されてしまいます。



 此れこそ、きぐるみを羽織る事で能力を得られる代わりに背負う代償、十字架……その事実と、改めて対面します。



 ワタシ、自分の無力さに涙を流します。


 ワタシだって、半神半人デミゴッデスでは無く普通の人間だったらこの娘達と同じ末路を辿ってたハズです。だからこそ、この娘達に何もしてあげられない自分が悔しいんです!






【その時ニックは③】─────



 ちょうど自分の目の前をコロンコロン……と転がるボールに目が奪われてしまい、ニックは夢中でボールを追いかけます。


 あっちにトトト……こっちにトトト……


 気が付いたら、イヌのきぐるみさんの周りで一心不乱にボール遊びをして楽しんでたんです!


 あ、今まで無表情だと思われてた3人の娘さん達もボールの行方を目で追ってます! そして、遊んだ後は3人の娘さん達を巻き込む様にムリヤリ嘴でハイタッチ……


「クェクェ~!」


 娘さん達が相手してくれた事に、ニックは大喜びです。



───────────────






 そんなニックの行動をビックリして見てるワタシの頬に、何処から舞い込んだのか……桜の花弁が1枚だけ、ぴとっと張り付きます。


 それと同時に、こんな声が聞こえた様な気が。




いいのですか、このコにだけ頑張らせて?



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