第084話.足取りと、お見舞い

 ワタシ、どうしてもフィリルの事が知りたいです。それ位、胸に秘めた思いは強くなって。



「長老さんにひとつ、どうしても聞きたい事があり……」

「この道端では周りの人の目も在るし、落ち着いて話も出来なかろう。ワシの家へおいで」



 ワタシは話を遮られ、町中でひと際大きく存在感を放つ長老の家へ招待されたんです。魔除けを意味する紫色の屋根に、狛犬に似た水色のシーサーの置き物がまるで鬼瓦の様に置いて在ります。


「長老さん、アレは一体何ですか?」


 ワタシは、屋根を指差して聞きます。


「あれは“風獣かざかみ”と言っての、風で霧を払いこの町を守ってくれる守り神なんじゃよ。良く追い風を背に受ける事を、『風上に立つ』って言うじゃろ? アレの語源なんじゃよ」


 確かに、キュルムの町はいつも深い霧に包まれます。この町はいわゆる“風”という自然現象を崇拝する「ネイティブ自然崇拝」の町でも在るのでしょう。



 みんなで、長老の家の中に入ります。長老さんとワタシがテーブルの周りに敷いてあるゴザに座ると、使用人のお姉さんが冷たい飲み物を持って来てくれました。


「長老さま、粗茶をお持ちしました。お客様もどうぞ……」


 ワタシはコップの飲み物をコク……と飲み干し、ニックにニコとアイコンタクトします。そしてコップを下から上に振り、中に入った氷だけをニックに放り投げると……


 綺麗な放物線を描いて、見事にニックの口へジャストイン!



ポリポリ……ポリポリ……



 ニックは美味しそうに氷を頬張り、噛み砕いて食べてます。ワタシはスウ……ッとひとつ深呼吸をした後、意を決して長老さんに尋ねました。


「長老さん、『ミントセキュリティサービス』って一体どういう組織なのか、ご存知無いですか? 長老さんの分かる範囲で良いです、教えて下さい!」


 ふむ、と長老さんはしばらく考えて思い出した事を口にしました。


「確か、ミントセキュリティサービスっていうのは『ミント団』グループという大きな傘下の中で主に“要人警護”を主な業務とする一大警備保障組織なんだそうじゃ」


 要人警護って……もしかすると、今ワタシが探してる『7世界の王』達もミントセキュリティサービスに護られてるんでしょうか?


「えっ、“要人警護”って国のトップとか超エライ人を護るのが仕事なんでしょう? 何でそんな人達が『窃盗団の殲滅』なんて事をしてたんですか?」


 う~ん、と長老さんは首を捻りますが、答えに辿り着きませんでした。


「それは……分からんのう。何か理由があったのかも知れん。それこそ、今度フィリルとやらに会った時に聞いてみたらどうなんじゃ?」



 取り合えず、今現在で分かっている事は『ミントセキュリティサービスは要人警護の業務を請け負う組織でフィリルが最高責任者である』事だけです。


 ミントセキュリティサービスの拠点が何処にあるのか、どこに行けばフィリルに会えるのかが依然不明なんです。


「八方塞がりって感じですよ……」











 悄気ショゲてるワタシを見て、見かねた長老さんが救いの手を差し伸べてくれたんです!


 長老さん、優しいです♡


「ならば、そなたは明日時間が空いてるかの? 今日救護施設へ送った3人は、そのまま明日まで点滴入院するんじゃ。ワシの代わりに、見舞いに行ってやって欲しいんじゃよ」


 ニックも、全面的に後押ししてくれます!



【お姉ちゃん、気分転換にちょうどいーよー!】


「分かりました、ニックと2人で行って来ます」



 翌日、見舞いの場でまさかあんな事が起ころうなんて……!

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