第080話.もう1人のフィリル

 長老さんとの話し合いもあらかた終わり、『グランプス』の一味はリーダーのシルクさんを始めミントセキュリティサービスの男達に連行されて行きました。


「ありがとう、恩に着ますわ。貴方が話の分かる方で大変助かりますの」


 代表者同士の対談って、要は何処で話に折り合いを付けるかって云う『相手の腹の探り合い』ですから……いつも以上に神経がすり減って、大変なんでしょうね。


 こう云うのを毎日続けてる様なモノですから、長老さんもフィリルもホント頭が下がります、ご苦労さまです。



「さてと、堅苦しい事務的な会話は此処迄にしましょうか……」











 フィリルが深く俯きながらその言葉を発し、ストレートヘアを後ろでポニーテールに縛ります。そしてフィリルがふうっとひと息吐いた、その途端に……


 ニッコリ笑った彼女の目が一本筋になり、ふにゃんと緩んだ口元はちっちゃい犬歯がキュートな “にゃんスマイル” になったんです!



……!!!



 そう、この動作こそフィリルがひた隠しするもう1つのモード『にゃんモード』へ切り変わるスイッチなんです! ワタシは “にゃんスマイル” を見た瞬間、思わず息を呑んでしまって。 


初めて会う人・・・・・・には誰にもまだ、この姿……見せた事無いのよ〜☆」


 見た目が違う、佇まいが違う、その身に纏う空気感まで何から何まで全てが違うんです。二重人格、と云うものなんでしょうか?


「それを初っ端から見せちゃうなんてあの子・・・、余程貴女の事が気に入ったのねぇ~☆」


 それなのにも関わらず、あの時したみたいに自分の魂を投げ出す様にしてフィリルの魂に触れてみると……も同じひとつの魂で在る事が分かるんです。



「へぇ~、貴女って私の敬愛する白い巫女様の生き写しだよねぇ~☆ 確かに面影ある……っていうか、瓜二つじゃ~ん! うんうんっ!」


 さっきまでのフィリルとの余りの変わり様に、ワタシは思わず胸がドキッとしてパチクリ目を丸くしてしまいました。




 か……可愛いです……♡




 さっき見た凛とした立ち姿と比べると、余りにギャップ有り過ぎで……さすがのワタシも、萌えちゃいますよ!


 ニックは、フェンリルウルフの外見を知っているだけにフィリルの “にゃんスマイル” を見て思わずククッと笑ってしまいます。



【いくら人間らしい優しい顔つきでもー、こんな所でフェンリルウルフの“素”が出るんだよねー】



 恐らく本人は、気付いて無いんでしょうけど。



「んっ、このニオイ!忘れもしないわぁ~☆……コレって、白い巫女様がお召しになった伝説のきぐるみじゃないのぉ~!」


 フィリルったら、もふもふ尻尾をフリフリしてます。そんなフィリルの様子を見てワタシはうわぁ、と感心してしまいました。



 フィリルさん、ニオイで分かっちゃうんですね! って言うか、1度ふにゃんってなるとココまで変わっちゃうんですか、このヒト……



「ねぇ、ひとつ私のお願いを聞いて欲しいんだけどぉ~☆ 私を……アカリさんの仲間に入れて貰えないかなぁ~?」











 うん、フィリルなら正に『渡りに舟』です! でも……ミントセキュリティサービスの “チーフマネージャー” の肩書きは、どうするんですか?


「でも、今は待っててぇ~! ミントセキュリティサービスに掛け合って、アカリさんに全面的に協力させるからぁ~☆ モチロン、その時のパイプ役は私ねっ!」


 確かに、フィリルと一緒なら……これから先、ミントセキュリティサービスに護られながら冒険が格段に進めやすくなりますね……



でも……

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