第078話.フィリルとの出会い


コツ……コツ……コツ……

    コツ……コツ……コツ……



 黒服の男達とリーダーさんが突撃してから、遅れる事暫くして。最後に階段をゆっくり降りた女の人が、リーダーさんをねぎらってます。


「シルク、ターゲット全員捕縛お疲れさま! いつも感謝してますわ♪」


 今、シルクって……リーダーさんの名前なんでしょうか?


 上着は白いパリッとしたシャツの上に黒のベストを羽織り、下は黒のスラックスと云うアンサンブルを着こなしてます。


 そしてこの女の人にだけ、左肩に【M.S.C.】の文字がワッペンに刺繍されてます。


 ワタシは、その女の人の立ち振舞いを見ました。いわゆる「礼服」というものでしょうか……お化粧もバッチリで、遠目から見ても凛とした立ち姿が香るお姉さん、って感じました。


 そして女の人は長老さんを始め、其処に居る皆に深々とお辞儀をしてこう名乗ったんです。


「私は『ミントセキュリティサービス  M.S.C.  』……緑兎ミント団グループの警備部門を統括するチーフマネージャー、フィリル=グレイシアと申しますの」


 その女の人、フィリルがワタシと目が合った瞬間にニコリと垣間見せたのは……春の陽射しの様な、暖かく優しい微笑みだったんです。


 でも長老さん、まだ警戒を解かなくて。訝しげな顔をしつつ、フィリルに聞きます。


「ミント団のお方、此処へは……どんなご要件で来たんかの?」


 ワタシはてっきり、長老さんがフィリル達を此処へ呼んだのかとばかり……でもフィリル、お返しにとばかりにとんでも無いひと言を。



「異乱分子の殲滅ですわ♡」



 美しい為りをして、言う事は恐ろしいです……異乱分子って、盗賊団グランプスの事ですよね? ワタシ達は含まれませんよね?


「まず、これだけは言わせて貰いますの」











「偵察からの情報でグランプスの動向を逐一把握して、協議に協議を重ねた結果……異乱分子と認定して、排除しに来たって云うのに」


 そして、フィリルはぷうっと可愛いほっぺを膨らませ拗ねるポーズをします。


「いざ此処へ来てみたら、こんな事・・・・になっちゃってましたの。余計なひと手間掛けさせられて、私的にはコンチクショウですわ」


 終始ニコニコと、冗談も交えて。でもこの場の空気は、何故かワタシ達の方が悪者っぽくて。


 確かに今のは、じゃんけんに例えるとワタシ達の方が先出し・・・だった感は否めませんね。それでもひとつ、引っ掛かるんですよ。それは……



「お姉さんが、こんな処へ来た……『本当の』目的は何です?」



 すると、其処に居る長老ジョセフ様から既に聞いたと思うけど……とワタシのキュイぐるみをチラと見て。



「考え方の違い、とでも云えば良いのかしら。『或る人』に教えて貰ってね……」



 フィリルは更に、こう付け加えたんです。


「地上界に真に必要なのが女神アムタラ様のきぐ・・るみ・・信仰だと考えてるのがピント団で」


 そしてフィリルはその後、ワタシの瞳に向かってこう語り掛けたんです。


「真に必要なのはきぐるみで無く、仲間との絆の・・深さ・・だと考えてるのが私達ミント団、【M.S.C.】ですの」


 えっ、フィリルさん……『或る人』って誰? ワタシの瞳の奥に、何を見たんでしょう?


「そして其の考えに基づき、私達は盗賊団を潰しながら。より深い絆を築ける輩をチームに引き抜いてますの、その目的で此処へ来たんですけど」


 そう言いながら盗賊団グランプスの首領、リークを見つめるフィリルの瞳は、果てしなく冷たかったんです。


「でもグランプスは、スキル『傭兵』は有るけどポリシーの欠片も無い只のならず者集団に堕ちてましたの。異乱分子よ、引き抜く価値無しね」


 そして再びワタシへ向き直る、フィリルの瞳。良かった、暖かい目で。って云うか……ちょっと潤んでません?



「その点、貴女の魂の方がよっぽど高貴な色に・・・・・視えます・・・・わ。アカリさん♡」











「そう云う事で、ジョセフ様とはこれからも末長いお得意様になれるかも知れないですの。以後、お見知り置きを」


 そう言って、恭しく長老さんに頭を下げるフィリル。ワタシから見れば年長者をちゃんと敬う事の出来る、正に“お姉ちゃんの鏡”な訳で。




 気が付けば、フィリルの顔をポ〜ッ♡と見てたワタシ。此れこそ、後に“終生の友”となるフィリルとの初めての出会いだったんです!



 ですが……

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