第075話.悪夢、希望、絶望。

 ニックが放った巨大な火球により3人組のひとりが全身を炎に包まれ、床を転げ回ってます。


 3人組のうち2人が戦闘不能に陥ったのを確認し、従者さんが短剣を逆手に持ちダッシュで最後に残ったリークに肉薄します。


「形勢逆転、諦めなされ……!」


 でもリークは肉薄されても態度を崩さず仁王立ち、微動だにしません。それどころか、ニヤリと不敵な笑いさえ浮かべてます。


「それはどうかな……?」


 リークはそう言いながら、グーのまま立てた親指を下向きにして突き刺したんです!


 すると突然、気を失ってた筈の最初に戦った2人組がいつの間にか起き上がり……ワタシとニックの背後に回り込んで居たではありませんか!



 こ、此れは……「狸寝入り」???



 そして、ワタシとニックをそれぞれ背中から羽交い締めにして……何と2人組は自分の体躯カラダ目がけて、自身ごと雷魔法で貫いてみせたんです!


「キャーッ!!!」

「クェ〜ッ!!!」


 巻き沿いを喰らったワタシとニック、ビリビリと感電して動けなくなってしまいます。


 2ヶ所で起きた放電は地中でひとつに繋がり、離れてた筈の長老さんと従者さんも感電の餌食になってしまったんです! 何て頭脳プレー!


「ぐっ……リーク、そなた……一体何を……?」


 長老さんは感電で痺れてしまった口で、それでも何とか言葉にしようとします。


「これぞ本当の『死んだフリ』ってか……あの2人は前回、小娘相手にとんだ失態を犯してしまったが。今回のコレで、帳消しにしてやろう」


 そしてリークは、ニックの火球で炎まみれになってる2人にも声を掛けます!


「おい、もう良いだろ。オマエらもジョセフ達を取り押さえろ!」


 何と、先程ニックの火球で炎に包まれた筈の2人までケロッとした顔をしてパンパンと手のひらで埃をはたいて立ち上がるではありませんか!


 まさか、自分のスキルポイントを防御に全振りしたって云うんですか? しかもポイントを自由に動かして!


「傭兵スキルで『ビルドアップ』ってんだ。傭兵はどんな場所でも闘うから、全ての地形で耐性を激アゲするんだわ」


「マグマだって、ダメージ半減だぜ! という訳だ、ワリいな、じいさん」


 そう言って2人はそれぞれ1人ずつ、左肘と左足のももで相手の左腕を挟んで固定します。


 そして右腕で長老さんと従者さん、其々の頭をヘッドロックかける形でガッチリ固定して、完全に体躯の自由を奪ってしまいました。



 しかも“傭兵スキル”って、実はまだ全てが明らかになってる訳では無いんです。



 リークはコツ……コツ……とワタシの許へと歩み寄り、左手で髪の毛を掴んでグイッと顔を引き上げます。


「耐電靴を履いておいて、正解だったな。ジョセフ、ちょうどイイ見せしめだ。この小娘がモフモフされて“慰み者”になるのを其処で、自分の無力さを噛み締めながら見てるんじゃあ!」











 ワタシは痺れた身体で、弱々しくふるふると首を横に振って拒絶します、が……! 無慈悲にも、リークの右手がワタシのキュイぐるみの腰元、尻尾の辺りにスッと伸びて行きました。


 よりによって、『大切な人達の前で』未来を閉ざされるなんて……ひとりだけだった闘いより、ワタシにはよっぽどダメージが大きかったんです!



 ワタシって……アキラメの悪い女神でも……何でも無かったんですね……



 今まで張り詰めていたココロの糸が……最後の1本が、プツッと音を立てて切れてしまったんです。目の前が真っ暗闇になり、ゆっくり……ゆっくりと闇に堕ちて行ったのでした。

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