第073話.奴隷になると云う事

フーッ、フーッ!



 まるで小動物……そう、ウサギの様に興奮状態になってたワタシと、それをニヤニヤしながら見下ろす『グランプス』の3人。


「オメェが今着てるきぐるみはなぁ、きぐるみの元になったモンスターから能力を貰って攻撃出来るシロモンなんだぜぇ?」


 えぇ、その事は定期訓練の時にキュルムの町の娘さん達から教えて貰いました。それが何か?


「唯な、モンスターから貰えるのは能力だけじゃ無ぇんだぁ。そのモンスターの“野生の本能”も一緒に譲り受けちまうんだよ!」


 えっ……そんな事実、初めて聞きましたよ? そんな事がキュルミーの弱点と、どう繋がるんですか?











「地下トンネルってさ、時々蹌踉めく よろめく んだよな」


 その時3人組のひとりがトンネル内で少しバランスを崩し、ぐらついた時に跨いだワタシの背を薬指の爪でスーッと軽くなぞってしまい……



〜〜〜〜!!!!!



 ナニ、此れっ! ゾクゾクしまいますぅっ! 此れはダメっ! それ以上は女のコ・・・として、終わっちゃうヤツっ! この男に気付かれてはっ!



 ニヤニヤして……ワザとでしたかっ!


「信じられねぇって顔してるな、オメェ。じゃあよ、その状態のまま野生のモンスターを家畜化したら……どうなると思う?」


 そう言いながらその男、ワタシをじっと覗き込んで来ます。凛とした双眼の奥に見える、蕩けて潤んだ瞳を見せてみろって……


「本能まで譲り受けるって事はなぁ、家畜化して『牙を抜かれ骨抜きにされた』としても文句言えねぇって事なんだよぉ!」


 それと同じ現象が、今のワタシにも……? ワタシの全然見え無い死角から、致命的な弱点が襲い掛かって来たんです!



 だから長老さんは、「野生に還る ➡ 野生を開放する」なって釘を刺してたんですね。でも、気付いた時にはもう遅くて……











「カクゴしな、オメェ。アイツらと同じ様に、きぐるみの上からモフモフしちまえば……直に骨抜きにされて、全ておしめぇよ!」


 そう言って、3人組の1人は肩越しにビッと親指で3人の女の子を指します。未来を閉ざされてしまった、3人の女の子。



 この男、全てを熟知した上で……! 戦士として、冒険者として闘いの中での“尊厳の有る死”すら許してくれないって云うんですか?


 キュルミーだから? 女だから? 二度と困難に立ち向かえなくなっちゃう! ワタシの旅……こんなにも呆気なく終わりを迎えるんですか?


 ワタシは腕を捻り上げられ寝そべった状態のまま、冒涜したそのひと言で目の前が真っ暗になりガタガタ震え出してしまったんです!



「人間が家畜化される恐怖……此方の世界では、此れが『奴隷になる』事みたいですぅ」



 でも、何故でしょう? このキュイぐるみを着てしまった事に対しての後悔は、不思議と湧いて来なかったんです。

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