第071話.千年の恋も冷めて☆
ワタシからの先程の問いに、男はまるで空手の押忍みたいな姿勢で両手を下ろし……軽くお辞儀して答えます。
「そうか、ウチの下っ端が人質を拐っちまったのかぁ。済まねぇな、手荒な事をしちまった事……謝らせてくれ」
この騒動は、どうやら地べたに這いつくばってる部下2人組の単独犯行だったみたい……
【こちらの地上界でも『仁義を通す』って考え方、有るんですかねぇ……?】
ワタシ、のほほーんとそんな事を考えてしまいま……いえ、試す為に
そんなワタシを見た、この男。次の瞬間、押忍の姿勢でお辞儀する顔の奥から……血走った眼と下卑た笑いが覗いたんです!
「なーんて、謝る訳ねーだろ、小娘がぁ! オレ達のシマを荒らす『ピント団』グループへの、報復措置なんだよォ!」
やはり♡ 少し隙を見せれば、コロッと本性を曝け出しますね。見抜く目も曇らせる、ワタシの淡い気持ち……そりゃ千年の恋も冷めますよ。
はぁ……返して下さい、ワタシの純真。
それに、今なら擦り抜けられる死角が沢山出来てますよ。男の身体の周り、あちこちに♪ 勝ち馬に乗る者って、慢心によって弱点を曝け出すんですから。
「それによ、もっと手っ取り早くこの小娘の口を封じちまえば……全て無かった事になるじゃねぇか!」
口が軽いのか、今の言葉でホイホイと言質まで取れまして。ワタシの口を封じる迄も無く……既に思い切りバレてますって、長老さんに!
さて、盗賊団『グランプス』の悪事を白日の下に晒す為、女性達の化粧品を守る為に。そろそろ行動に移しましょうかね。
ワタシはダッ!と引き戸まで駆け出します。狙いは男の脇下の間、頭からスルリ摺り抜けて。
目指すは、引き戸の向こうの地下トンネル! あそこで1対1の状況を創り出す事が出来れば、あと2人来てもまだ勝機はあります!
メキッ……ボコッ!
飛び込んで引き戸に激突したお陰で、引き戸は半開きのまま開け締め出来なくなってしまいました。でも、それで良いんです!
細身の女性のワタシは引き戸を摺り抜けられましたけど、男の体格では少しもたついて。長老さんやニックに合流する、時間稼ぎが出来ます!
でも、ワタシには2つ……誤算が有りました。ひとつは、この男が
其れが分かったのは、ワタシが引き戸に激突した時。ぶつかってコロンコロンと転がり進んだ先の地下トンネル、居たのは男の仲間達……2人。
「……んなっ!?? 一体、何処から転がり込んで来やがったんだ、このアマぁっ!!!」
そしてもうひとつは先程の事務所とは違う、『胸キュン♡流格闘術』の地下トンネルでの圧倒的な地形的不利。
少し間を置こうと後ろに下がったら、すぐドンと背中が壁にぶつかりますし。
「今です、『壁ド……」
壁ドン!をしようとして小石を跳ね上げたら、余りの狭さに跳弾で逆にこちらが負傷しそうになりました。
「クッ、今度は 『顎ク……」
顎クイ!をしようにも腕を折り畳むと壁にガンッと当たり、引き絞るだけの空間的スペースが有りません。
致命的な理由が、
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