第068話.物証、押さえました

 事務所の攻防を制したワタシ、本当なら今直ぐにでも3人の少女達を連れて外に出なくてはならないのですが……


 一度でも意識した途端、とことん気になってしまうんです、先程の木箱。盗賊団『グランプス』との闘いに全神経を注いでる間、すっかり忘れたままだったから余計にね。


 ラバナ草を木箱に詰めて一体、何処に送るつもりだったんでしょう? ワタシは先程の木箱の許へと近付き、跪きます。



 えーと……あっ、有りました!



 分かり難い箇所に書きなぐってありました。何と無く、辛うじて読める言葉を集めると……此処ここにはスメル……クト、彼処あそこにはトンボイ、そして其処そこには……アル……カディア?


 良かったです、ほんの少しの間だけでもかぐら座のリーダーのお姉さんにこの地上界の言葉の読み書きについて教えて貰う事が出来て。ほっ。


 どうやらこの木箱、言葉全部はまだ読めないんですけど……此処スメルクト大陸だけで無く、色んな大陸の都市名が書かれてるみたいですね。



 ははーん……この木箱の中身を見て、今回のきぐるみ少女達拉致事件の概要が何と無く推察出来ちゃいました。











 此れ等、木箱に入ったラバナ草と云う物証。そして此処、地下階の地下トンネルと応接室と云う状況証拠。そして北の漁村と云う地形証拠。


 この3つの証拠が導き出す概要、其れは……


 たぶん少女達は、この木箱に関する何かの現場を見てしまったんでしょう。それどころか、最近キュルムの町に美容液が不足してる原因も。


 そうコイツら、盗賊団『グランプス』がこの北の漁村を隠れ蓑にした不正なシマで利益を独占しようとしてたに違い有りません。


 だから少女達、拉致されたんです。だって只の普通の買い付けで、其処まで酷い目に合う訳が無いですもん。


 恐らく取引相手は、各都市の闇市場ですね。一度この木箱のラバナ草が闇に沈むと、二度と表舞台に出る事は有りませんでした……みたいな。


 例えるなら向こうの世界の日本で云う、中世のヨーロッパでのコショウの覇権争いみたいに。



 この盗賊団……全ての女性達の敵、認定。




 でもワタシ、本来逃げるのに使う筈だった時間で考察に夢中になってしまって。事件の全容、掴めるのと引き替えに……


「此処にまたひとり居たぜぇ、たかが弱えぇ見張りを倒せたぐれぇで油断して逃げなかった馬鹿な嬢ちゃんがよぉ!」


 引き戸から人影が。



 此処は日本では無く地上界、異世界だった事。それを頭では分かってても、ココロでは全然分かって無かったんです。

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