第060話.人生は一期一会です


「例え微力でも、長老さんの力になりたいです」




 ワタシからの決意のひと言を聞いて長老さん、よほど嬉しかったのでしょう。ワタシを見て微笑む目尻に、うっすら涙が滲んでます。


「じゃあアカリさん、そなたにも手伝って貰おうかの」


 長老さん……初めてワタシの事を名前で呼くれたんです! ワタシは嬉しさの余り、ハンカチで目尻を押さえます。


 えっ、この地上界にもハンカチは有るのか、ですって? それがちゃんと有るんですよ、木綿のハンカチーフがね。


「うるっ……ねぇ長老さん、北の漁村を根城にしてる勢力ってとんなヤツらなんですか?」


 お互い、うるっと涙腺が弱くてダメですね。長老さんも鼻をすすりながら、ターゲットの特徴を思い出します。


「ズズッ、報告では全身にシャチの毛皮を着込んでるって言っておったの。ヤツらの名前は盗賊団『グランプス』、海沿いの小さな村を襲ってアジトにしとるらしいのじゃ」


 どうやら今度の盗賊団、拉致して人質にする様な卑怯な連中だって聞いてたんですけど……



【もうひとネタ、何か隠し持ってそー】



 どうやらニックも、ワタシと同じ違和感を感じ取ったみたいですね。ただ卑怯なだけでは無い、異質な何かを……


「ホッホッ、アカリさんや。そうして常に『直感』を磨き続けておくのも、此れから先の冒険で必要不可欠なんじゃよ」



 そう、闘いに勝つなら、力が。困った人を助けるなら、ココロが必要です。でも、この地上界で死なない為に必要なのは……直感なんです。



「では、ワシらはこれから盗賊団グランプスへカチ込みをしに行く。そなたらも一緒に付いて来てくれんかの?」


「はいっ、お願いします!」











 そしてワタシは北の漁村へ向かう前、『かぐら座』の弾き子の皆さんにも声を掛けたんです。


「皆さん、短い間でしたけど……お世話になりました!」


 でも、しんみりとしたお別れでは有りませんでした。皆こう、サバサバしてるって云うか。


「いいよいいよ、私達も旅のお方と一緒にいたお陰で楽しい旅が出来たんですの! 最後に旅のお方、もう一度お名前をお聞かせ欲しいですわ」


「はいっ、ワタシ……アカリです!」


 リーダーのお姉さんは瞳を閉じて頷き、ニコッと笑顔で微笑んだのです。


「大丈夫ですよ。もし私達がまた何処かで運命に必要とされるなら、きっと別の町で再びアカリさんとお会い出来ますわ」


 此処で漸く、皆がサバサバしてた理由が分かりました。全員、またワタシと再会出来るって信じてくれてるからなんです!



 運命で繋がってさえ居れば。何時か、必ず……




「アカリさん、気を付けて行ってらっしゃいね」


 そう言って、皆で手を振って見送ってくれました。思わず、涙が出そうになりました……これも『一期一会』なんですね。











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 無事に異世界へと降臨する事が出来たワタシ、朱璃……此処ではアカリですね。


 本当に来れるなんて、まだ夢心地。実感が湧きませんよ。



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