第059話.一宿一飯の恩義です

 定期訓練の合間、今は何度目の休憩時間でしょう? 訓練と休憩は短いスパンで、交互に挟む形で。でも短くした分、内容を重視します。


 此れこそ定期訓練の際、特別教官を快諾したワタシが最初の仕事として長老さんに提言した、新しい試みです。


 訓練も、長い時間ダラダラやった所で身になるとは思えなくて。地上界ではまだ、この考え方は生まれて無いんでしょうか?……効率化・・・











 ワタシとニックが情報交換と称して、女の子達とガールズトークで華を咲かせてた、正にその時……ダダダッ!と数人の男達が走って来て、長老さんに跪きます。



「ジョセフ様、急ぎご報告があります! キュルムの民が敵対勢力に拉致されました! 拉致されたのはラバナ草・・・・を買い入れに行った町娘3人、量産ぐるみです」



 そう聞いてワタシ、長老さんの隣で佇むばあやさんに尋ねたんです。


「ばあやさ……いえ、おばあちゃん! ラバナ草って何ですか?」


 自分と比べると娘みたいな年齢であるワタシからおばあちゃんと呼ばれニコニコ、とても嬉しかったんでしょう。


「ラバナ草ってな、美容液の成分として良く使われる薬草なんじゃ。それは海沿いの砂浜に自生しておるんじゃよ」


 その後のひと言は長老さんの口から。力無く、こう付け加えて。



「ところがラバナ草は最近不作でな、中々流通せーへんのじゃ」



 ラバナ草の不作=美容液の流通が滞る=女の一大事! 道理で、お風呂に入った時に洗顔までしか出来なかった訳です! 此れは火急に何とかしないと行けない案件です!


「目撃した者の報告では、北の漁村に連れ去られた模様! シャチの毛皮を全身に纏って居た、との報告です!」











 その連絡をワタシも耳に挟み、すぐ長老さんへ駆け寄り聞きました。


「どうするんですか、長老さん?」


 長老さんの人と為りを、ワタシは知りたかったんです。緊急時の対応に、よく現れますから。


 でも長老さん、迷う事無く即答しました。


「うむ、ワシらはこれからすぐ救出に向かうわい。そなた、大したもてなしが出来なくて……申し訳無かったの」


 ワタシは、ふるふると首を横に。昨日のワタシへの気持ち、その時だけでは無く……日頃から何時もそうなんだって分かったんです!


「いいえ、長老さんの家で一泊させて貰って、定期訓練にも参加させて頂いたんです。楽しかったです、気になさらないで下さい! それに……」


 大丈夫、長老さんは十分信用に足る人物です! ワタシは、そう確信したんです。


「拉致の知らせを聞き、長老さんは躊躇せずに即救出を決断しました。長老さんはこの町の人々を……愛してるんですね」


 長老さん、試してご免なさい。ワタシの中でが欲しかったんです。




✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



 愛の為に生きる者達を護る為なら、胸キュン♡流格闘術だけで十分。女神の力は、癒やす為に。誰かを傷付ける為には、決して使いません。



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




 昨日までは見い出せ無かった『ワタシの結論』が……女神として生きる行動原理を決定付けたんです。


「ワタシも、そんな長老さんの“力”に為りたいです! ワタシの世界には、『一宿一飯の恩義』って言葉が有るんですから」











 長老さんも“一宿一飯の恩義”という言葉を聞いて、昔の出来事を思い出します。



『一宿一飯のご恩はね、大切にしなくてはならない尊いものなのよ』



 実は長老さんも過去に、同じ言葉で諭された事が有ったんです……白い巫女様から。




ポゥッ……



 『ワタシの結論』を歓迎するかの様にきぐるみの左胸の上で、部分的に飛び出た球体みたいに薄ピンクに発光して。


 ふわぅと薄ピンクの球体が割れて消えると、胸の上には桜の花弁が1枚残されて。そしてその花弁も、身体の中へと吸収されて行ったんです。

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