第029話.目的地は、心桃湖!

 一方、朱璃はきぐるみの上からいつもの毛布を被って口から上だけ頭を出して、ぽーっ……としてたの。


「朱璃、どうやら着いたみたいよ!」


 私は朱璃にそう呼びかけ、キキッとブレーキを踏んだの。



【ココだよー!】



 車のドアを開けると、パタパタ……という音と共にニックの声が聞こえて来て。駐車場の前には巨大なお墓が建ってるの。


「此処で、と或る “悲しい事故・・・・・” が在った……慰霊碑なの」


 そして目の前に、防風林が見えて。心桃湖のハートの尖った処が海と直結してるからピンク色に染まる、奇跡の湖って呼ばれてるらしいの。


「この時間なら、まだ観光客は居ないみたいね」


 うんっ、やはり海と云えば防風林! この防風林に沿って行けば……誰にも見られずに心桃湖まで行けそうね。


「さぁ、ここからは徒歩で湖へ向かうわよ」


 私と朱璃は軽自動車を降り、ニックと3人で心桃湖を目指したのよ。











 ただひたすら、防風林の間を縫って進んだわ。防風林とは海からの砂や浜風を防ぐ防波堤、身を隠すカムフラージュには正に以て来いよね。


 此処なら恥ずかしさを感じずに済むから、ズンズン歩ける朱璃の足取りも軽い軽い♪


 そして暫く歩いた後、心桃湖に到着したわ。湖の湖畔には石碑が、半分程土にめり込んで刺さってて。上から降って来たのかしら?


「 “あの場所”でワタシが見たのは…… 石の悪魔では無くて…… 石のウサギ……」


 ウーン……って唸りながら朱璃、さっきから頻りにブツブツ言ってるし。


 でも確かに、石碑も不気味よね。狛犬とかじゃ無くて、何か悪魔みたいな……ごめん、不気味じゃ無いわね。明らかに悪趣味よ。


「あれ? 朱璃、こんな処に石碑って祀って在ったっけ?」


「もうジョークばかり咬まして無いで下さい、ママ……この石碑からは、さっきから悪い気しか感じられませんよ!」



【何かヤな感じー!】



 朱璃は試しに不気味な石碑に向かい、歩みを進めてみたの。真っ直ぐ歩き、石碑の横を通り過ぎた正にその時……



ギンッ……!



 何と石碑の目が紅く光り、ギロッと朱璃を睨み付けたのよ!


「やっぱり……ですっ!」


「うわ、石碑が独りでに……動き出したのっ?」



【あれっ、ガーゴイルー!】



「ええっ、ニック、アレがガーゴイルなのぉ? それが本当なら、かなりのバケモンよっ!」


「何ですか、お母さん、そのガーゴイルって?」


 朱璃が私に聞いて来たの。咄嗟の事だから、私の代わりにニックが応えてくれたわ。



【簡単に言っちゃうとね、打撃も魔法も効かない石の怪物なのー!】



 ニックに依ると、『7世界の王』が産み出した不死の化け物なんだそうね。やはり“譲渡の儀式”、一筋縄では行かなそうだわ。



【でも、可怪しいよー! 確かガーゴイルは石、すなわち無機物から造られてるから目は澄んだ蒼色のハズなのー!】



 なのに、目前のガーゴイルの目は紅色……この違和感、何か引っ掛かるわね。まさか……?


「朱璃……もっと悪いお知らせがあるわ! たぶんこのガーゴイル、誰かに操られてるわよ?」


 だって目の色が血走ってたり、瞳にハイライトが無かったりする場合って……テレビではお約束のパターンじゃ無い?


「説得して、どーこーなる相手じゃ無いのは間違い無さそうね」




 クールにキメて見たけど……どうしよ、私?

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