第027❀.ママに最後の親孝行

 あっ、そうでしたっ! ワタシ最後に、とてもとても大事な質問をするのを忘れてたんです。それは……


 ワタシはニックにこう聞いてみたんです。


「ニック……ひとつ質問、良い?」



【えっ、なーにー?】



「もし異世界へ行ったら……その後、もう一度こちらの世界に帰って来れるんですか?」



【お姉ちゃん、此処から異世界へ行くには『ワープホール』って穴を通るのが普通なのー。その穴は残念ながら、行ったきりなんだー】



 そうですか、って事は今夜が日本に要られる、最後の夜。ワタシは今出来る……全力をする事にしました。後悔を残さない為に。


「ママ、このキュイぐるみも仕立て直せる位ですから、大事にして有るでしょ……アレ・・


「え、アレをどうするの?」


「記念に遺しておきたいから、着せて……アレ」


 瞳の奥に灯るワタシの決意を汲み取ったママ、そのまま奥の部屋へ。そして持って来たのは……ママが着る筈だった、ウェディングドレス。











 ひとりではウェディングドレスの着方が分からなかったので、ママに手伝って貰って。ママ、うるうると涙ぐんでます。


「サイズは……うん、問題無いわねっ」


 流石は姉妹に間違えられる位仲の良い母娘だけあり、背丈からプロポーションまで似た者同士です。ウェディングドレス着用に支障有りません。


 でも、どうしてウェディングドレスを着ようと思ったのかですって? 理由は、一度異世界へ行くと此処へ戻って来れない事が分かったから。


 こうなると、女って……男よりも腹を括るのが断然早いんですよね。


「とても綺麗よ、朱璃の晴れ姿」


 ママはハンカチで涙を拭いながら、満足そうに言ってくれました。ニックはカメラの隣でポ〜ッ♡と呆けてます。











「ニック、嘴でカメラのこのボタン、押してちょうだい!」



【いっくよー、はいチーズっ!】


ジー、パシャッ☆



 ウェディングドレス姿のワタシと、穏やかに微笑むママ。最初で最後の、最高のツーショット写真の完成です!


「じゃあママ、此れを持ってて下さい。これをワタシだと思って何時までも、何時までも……」


 写真を貰って、再びハンカチで涙を拭くママ。そして正面からママの両肩を抱き締めてそっと包み込み、眼をうるうるさせるワタシ。


 これから、女神に為ろうと云うワタシ。まだ人間の少女で居られる内に……ママに『最後の親孝・・・・・』をしてあげたかったんです。











 さぁ、親孝行の時間は終わりです。ママはワタシからウェディングドレスを受け取り、ふぅとひと息つき腕捲りしながら言いました。


「さぁニック、アナタ何処からこの世界に突入したのか、突入地点を教えて頂戴! そこに、恐らく“次元の歪み”があるハズだからね」


 ママは奥の部屋へウェディングドレスを仕舞いに行き、こちらへ戻るついでに戸棚を開けて蛇腹に折り畳んだ地図を持ち出します。



しゅるるるっ……ファサッ……!



 そして、それを空中で伸ばしながらテーブルに広げました。流石はワタシの目標だけあって、ママはとてもカッコ良いです!


 ニヤリと不敵に笑いながら、ママはニックにこう宣言したんです!


「さぁニック、これからが本番よ! 私達で朱璃を異次元へ送り出してあげるからねっ!」


 ママ、ニック、そしてワタシ。みんな、決意の一歩を踏み出しました。いよいよ、住み慣れた我が家に別れを告げる時が来たみたいです。




 いえ、何時か必ず……生きてもう1度この家に戻ります! 不可能への挑戦。ワタシはこの家を何時までも、目蓋の奥に焼き付けたのです。











✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



 いよいよこの後、日本を後にする時がやって来てしまいます。でもワタシ、すんなりと異世界へ行けるのでしょうか?


 遂に闘うべき相手が、ハッキリします!



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る