第024話.両親の愛情の集大成

 全てを認めちゃうと、ワタシの中のアイデンティティーが音立てて崩れ去り……自分が自分で無くなりそうで、とても怖いんです。


 だって全ての行動原理に、“人間”としての自分が居るんですから。でも本音は全て認めて、今直ぐにでもパパを探しに行きたいです。



 ワタシ、そんな葛藤に苦しみます。それに今は思春期、特に感情が揺れ動き易いんです。



「朱璃、確かにこの世界では荒唐無稽なお話よね。でもね……『異世界』っていう、この世界での常識が通用しない世界も確かに存在するの。アナタも散々見て来たでしょ、ゴブリンみたいな普通の人にはえない生き物を?」


 ママ、知ってたんですね。ワタシが2度に渡りゴブリンと接触してた事を。


「それにもっと決定的な証拠が欲しければ、そこでキューってノビてる子が居るじゃない……?」


 ママが指す指の先を見てみると、ナルト目になってるニックの姿が。確かに、ニックはフェアリーバード……この世に存在しない生き物です。




✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



 朱璃、アナタはそんな事位で自分自身を見失う様な、意志の弱い女の子じゃないわ……


 さぁ……私がもうひと押し、背中をポンと押してあげるからね。



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




「朱璃……アナタが知りたがってる答えは、たぶんパパが知ってるハズよ。だってパパも、アナタと同じ“半人半神”の存在から大天使になったんですもの」


 ママはその流れから、ワタシを後ろから優しく抱き締めて言いました。


「朱璃、パパを探しに行きなさい。その為のサポートとして、私も手伝ってあげるから。朱璃……パパに会いたいんでしょ?」


 ワタシはもう限界でした。これ以上、自分のココロにウソは付けません。ワタシは、涙をポロボロ流しながら。


「ワタシ、パパに会いたいよぉ……他の子達には父親が居て羨ましくて……ワタシにもパパが居てくれたのが嬉しくて……パパにひと目会って、抱き締めて貰いたいんです……」


 そんな号泣するワタシの肩越しに、ママは両腕を背中に廻して。少しぴくっと躊躇しますが、笑顔を浮かべて優しく抱き締めます。


「もう……分かってたわよ、朱璃。最初からずっとね。だから、キュイぐるみも、ニックも、全てアナタに託したんじゃない。朱璃……アナタは私の自慢の娘よ」











 ワタシの背中を抱き締めて、ママは確信します。何時までも、守られるだけの少女では無いって事を。


「朱璃、アナタの潜在能力はかつて『白い巫女』と呼ばれた私の全盛期を遥かに凌駕するモノになるハズなのよ」



 ママ、今……『白い巫女』って?



「それは追々、来るべき刻が来たら教えてあげるわよ」


 それにしてもママは知ってたんですね、実は。ワタシがママに内緒で異世界の住人達と闘う為のすべを必死に模索し、研ぎ澄ませてた事を。


「私とパパの力で朱璃、アナタの本当の能力を覚醒めさせるキッカケを作ってあげるわ!」


 ただピンクゴールドの帯を使い熟す為に闇雲にトレーニングを積むのと、ピンクゴールドの帯の本質を肌で知るのは意味合いが全然違います。


「ふぅ……後はアナタ次第よ、朱璃」











 ワタシはピンと来てませんが、この瞬間……図らずも異世界へ行く為に必要な4つの条件・・・・・の内、2つを満たせた事になるんです。


 そのひとつは『資格』、このパパとママから貰った愛のバトンタッチ、そして異世界へ行く為の明確な理由付けです。


 そしてもうひとつは『準備』、ココロの中の桜の大樹に会いに行く際のドレスコードこそ、このキュイぐるみだったんです。



「そして、その能力をアナタに身に付けさせる事こそ……魔物に襲われる確率が高いアナタの為、『譲渡の儀式』を急がせた本当の理由なの!」


 ママはうんっと力強く頷き、確信を以てこのひと言を口にしたんです。


「これからも路に迷った時は、自分のココロに従うのよ。この能力が、きっとアナタをパパの許へ導いてくれるわ」




 そんなママからワタシは、この上なく心強いエールを貰えたんです。

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