第017話.鍵穴の意外な開け方

 ワタシの顔の表情、さっき迄笑いを堪えてたと思ったら……理由は不明ですけど、今はずーんと打ちひしがれてます。


 風が吹く度にコロコロと自由に転がる、気分と感情。思春期ならではの、多感なお年頃であるが故なんでしょうか?


 でも、すぐハッと我に返り……ワタシは、ニックに小声で聞き直します。


「これから……一発で?」


「朱璃に、此れを開けて欲しいの。この小型のアタッシュケースを、ね」


 ママは事も無げに、サラリと答えて退けたんです。たぶん、それ……普通の開け方ではダメなんでしょうね。




 ワタシ、この小型のアタッシュケースを無事に開ける事は出来るんでしょうか?











 ママがスッとワタシに差し出したアタッシュケースの表面はウッドカラー、まるで生きた樹木の様に蠢いてます。


 それにも関わらず、その持ち方からするとそんなに重量は無さそう。取っ手とか、見た目の感じは普通のアタッシュケースと何ら変わり無さそうですね。



ガサゴソガサゴソ……



 ワタシはアタッシュケースを持ち上げ、上へ下へ、右へ左へとくるくる回転させながら隈無くチェックしてみます。


 ……あれれ? どれだけ見てみても、本来ある筈のものが見当たりません。鍵を挿して開ける為の鍵穴も。そして、回して数字を揃えて開ける為のダイヤルキーも。


「あの……このアタッシュケース、どうやって開けるんですか?」


 ニックは、ニコニコしながら答えます。



【このアタッシュケースね、“腕力”でも“魔力”でも開ける事は出来ないのー】



 ママは人差し指を立てて、ワタシの胸をトントンと軽く叩きながら教えてくれたんです。


「コレを開ける手段はただ1つ……朱璃の“命”だけなのよ」


 えっ、“命”って……? またママ、物騒な事をボソッと言い出しましたね。


「ど、どうすれば……開けれるんですか?」


 するとニックはワタシに向かって、バサッと片翼を広げたんです。



【その説明はボクがするよー! ボク自身にも関わる事だからねー】



 ニックは翼を広げたままチョンチョンと小ジャンプして、今度はママの方に振り向きました。



【いいー、ご主人さまー?】



くぅ~~~っ!!! ……ふぅ。


「分かったわ、ニック。アナタから朱璃に説明してあげて」


 つぶらな瞳で首をちょこんと傾げながら言われると、ママも流石にダメとは言えないみたい。



 クスッ♪、ママも顔に出やすいですね。











 早速ニックによる、ワタシへの臨時レクチャーが始まりました!



【じゃあお姉ちゃん、両瞳をそっと閉じて下さーい! その状態のまま、自分の心臓の鼓動を感じてねー】



 ワタシは、静かに目を閉じて……そのまま自分の手を胸の上、ちょうど心臓に当たる位置にそっと当てます。



トクン……トクン……トクン……



【そして心臓の鼓動を感じ取る事が出来たら……自分の両手を相手に向け、そのまま心臓の鼓動ごと相手に投げ出す様なイメージを頭の中で作り出して下さーい!】



 ワタシは、目を閉じたまま静かに両手をアタッシュケースの方に向かい広げて……そのまま自分の心臓の鼓動ごと、アタッシュケースに投げ出すイメージをしてみました!


 すると、実際にはアタッシュケースを抱き締めて無いのにシュルシュル……とピンクゴールドの“帯”がそれに纏わり付いてワタシのココロと繋がりました。


 そして繋がった途端、優しく包み込む“感触”だけが大きくダイレクトに伝わって来たんです!




 その時、ふと思ったんです。どうしてワタシ、何の苦も無く……スイスイと一発で・・・成功出来たんでしょう???


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