第003話.生に執着するパワー

 あの日初めて遭遇したゴブリンと云う未知の怪物を相手に、ココロの選択肢に「逃げる」は無く何故か「護る」一択しか無かったワタシ。



 まさかワタシの中に、『あの血・・・』が受け継がれてるだなんて……この時は夢にも……



 でも、初めてゴブリンを見た時に何も出来なくて。“帯”が出たのもたまたまで、手も足も出なかった事。


 本当は生き延びられた事、自分に褒めてあげれば良いのに……不器用なワタシはそれを許せず、自分を責めたんです。


 誰も視る事の出来ないゴブリンを、自分がこの世に解き放ったかも? いえ、自分が目撃して無いだけで、既にこの世には……


 この先、こんな自分の所為でママを危険な目に合わせてしまうかも知れない。そんな自責の念だったのかも知れません。




 本当はそんな事なんて全然心配しなくても良い位、ワタシのママって本当はスゴい人なんですけどね、実は……




 でも自分を許せない小学生のワタシ、あの時偶然出せた力をもっと自由に引き出せる様に練習しよう!とココロに決めたんです。


 ワタシは家の窓から空を見上げながら、ボーっと考え事します。


「ふわぁ、夏の暑さも漸くひと段落しましたね」


 現在、窓の外に見えるのは……空の一番高い所に在る、まるで鳥の羽根の様な雲。空一面に細かい雲片が広がる、まるで魚の鱗みたいな雲。



チュンチュン……チュンチュン……



 この囀りは、スズメが稲穂を啄みに来たんでしょうか? ワタシは両腕を突き上げ、ん~っ!と大きく伸びをします。


 シュルンッと頬を撫でる様に通り抜けるそよ風が、何とも心地良くて。ワタシは何となく、こう考えたんです。




 確か、あの時……猛烈に『生きたい!』って願ったんです! もしかすると“生に執着するパワー”があの形となって現れたのかも知れません。


 もしその仮定が合ってるのならば、肉体を鍛える練習しても無意味ですよね。生に執着する様なシチュエーションを作ってあげなくちゃ。一番手っ取り早いのは……



 だったら、いっぱい運動をして汗を流して。体力をカラッポにしてあげればどうでしょう?




 方針が決まったので、体力作りも兼ねて最初はあのゴブリンに襲われた家の裏庭を拠点にして。家の周りから走り込みする事にしてみました!



タッタッタッタッタ……



 家の周りを走る内に、だんだん強張ってた筋肉もイイ感じに解れて来ました。よしっ、もうそろそろ家の周りから近所へと少しずつ範囲を広げましょう!



ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……ふぅ、ふぅ。



 そして、人目を避けながら過剰な位走り込みをした結果……ワタシはヒイヒイフウフウ言いながら、大量の汗を流してへばって寝っ転がってしまいました。


「よしっ、今なら……」


 ワタシは右手の平を上に翳してみました。すると、目論み通りピンクゴールドの“帯”を放出する事が来たんです! ワタシ、よしっ!と両手をグーに握って大喜びしました。


 取り合えず、自分の意思でこの帯を放出する事には成功しました。でも“生に執着するパワー”が必要になる様な、そんな極限の状況下では無くても……


 ある程度日常生活の延長上でこの帯を身体の一部としてコントロール出来る位に迄ならないと折角の『力』も使い物には為りません。




 それには、どうしたら良いでしょう……?



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